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鮫島さんは否定形で全肯定。  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
第三章 神絵師の呪い

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前途多難な全員集合


「──もー、靴ひも解けてるよ? ほら、こっちのリボンも。三つ編みも結い直してあげるから……は、はっくしゅっ」


 翠を家から連れ出し、電車に乗り込んだ後……

 雷華はくしゃみをしながら、翠の装いに手を伸ばした。


 先ほどの脅しに怯えているのか、翠はビクビク震えているが、雷華はお構いなしに三つ編みを整えていく。

 翠には気の毒だが、雷華が手を出したくなるのも無理はなかった。スニーカーの紐は右も左も解けているし、白いワンピースの胸元のリボンも結目がぐちゃぐちゃ。昨日と同じ三つ編みおさげも、よれてガタガタである。


 慌てて身支度を整えたにしても、なかなかの乱れっぷり。

 そういえば制服のネクタイも変な結び方をしていたなと、海斗は思い出す。


「もしかして苦手なの? こうやって結んだりするの」


 雷華が尋ねる。

 三つ編みを結い直されながら、翠は渋い顔をして、


「うん……わたし、死ぬほど不器用だから」

「ふーん。あんなに絵が上手いのに、不思議なものね。ていうか、紐のある靴や服を着なければいいのに。三つ編みも、無理にする必要ないんじゃない?」

「それは、結ぶ練習するためにあえて選んでいて……三つ編みは、キャラ付けというか」

「キャラ付け、ってなに?」

「古の時代より、ドシでオタクな女キャラは『三つ編み眼鏡』と相場が決まっている」

「そうなの? よくわかんないけど、要するに一種のこだわりってことね。リボン結びも三つ編みも、慣れれば簡単よ。あたしが教えてあげるから……ふ、ふぇっくしゅ!」


 綺麗に結い直した髪をくしゃみと同時に離す雷華。

 直後、電車は『つるや商店街』の最寄り駅に到着した。


 ホームに降りるなり、海斗と雷華は、


「くしゃみ大丈夫か?」

「大丈夫じゃない!」

「じゃあ帰るか?」

「帰らない!」


 という、いつもの応酬を繰り返す。

 それを不思議そうに見つめてから、翠は綺麗に結われた自身の三つ編みに目を落とし……


「…………」


 唇をきゅっと結んで、電車を降りた。






「……これは一体、どういうこと?」


 待ち合わせ場所には、既に未空が立っていた。

 白いシャツに黒のスキニーパンツという、ラフながらにスタイルの良さが際立つクールな装いだ。


 しかし、その私服姿を褒める間もなく、未空は合流した瞬間にこめかみを痙攣させた。

 来る予定のない翠がいることに困惑しているだけでなく、雷華がどんな手段を講じて翠をここへ連行したのかを心配している、といった様子だ。


 怒られることを察知したのか、雷華は翠の後ろにサッと隠れた。

 と言っても、翠の方がだいぶ背が低いので、隠れ切れてはいない。


「絵を描いてもらうにしても、実際に現地を見た方がリアリティのあるものが描けるんじゃないかってお願いして来てもらったんだ。な、八千草」


 海斗のフォローに、こくこく頷く翠。

 雷華の都合の良いように話を合わせなければまた脅されると思ったのだろう、顔が引き攣っている。


 未空は、海斗と翠、雷華の顔をじーっと見つめたのち、


「……ま、どうやって連絡を取り合ったのかは聞かないでおいてあげる。翠ちゃん、本当に困ったことがあったら言ってね。特に雷華関係」

「どーいう意味よ!」

「そのまんまの意味よ」


 抗議する雷華をバッサリ切り捨て、未空は翠に微笑みかける。


「何にせよ、来てくれて嬉しいよ。絵を描いてもらうと言っても、まだ具体的な発表方法は決まっていないし、現地を見た上で相談したいと思っていたんだ。それに、個人的にも翠ちゃんとは仲良くなりたかったしね」


 爽やかな風を受け、ショートボブの髪がさらりと揺れる。


 圧倒的なまでの人当たりの良さ。

 いや、包容力と言うべきか。


 きっと同性からもモテるんだろうなと、海斗は噛み締めるように思う。

 現に、翠の陶器のように白い頬がほんのり赤く染まっていた。


「では、全員揃ったところで。言い出しっぺの温森くん、先頭は任せた」


 未空から指名され、海斗はアーチ状の屋根に覆われた商店街を見据える。

 毎日のように来ているはずなのに、取材となると少し緊張感が込み上げて来た。


「あぁ。それじゃあ……行こうか」


 海斗は、三人を導くように歩き始める……

 が、直後。


「……ぶべっ」


 翠が、顔から地面へ倒れ込んだ。

 足元に段差や障害物はない。何もない所で転んだようだ。


「あーもう。大丈夫? 血出てない?」

「……ほらね。わたしってほんとにポンコツだめ人間なの。どっかで転んで動かなくなっても、そのまま放置していいから……ふふ、あはは」


 心配する雷華に、狂気すら感じる笑みを返す翠。


 歩くペースを考えつつ、転びやすい物が落ちていないか常に注意を払わなければ……


 と、海斗は別の意味での緊張感を高めるのだった。

 

 

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