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鮫島さんは否定形で全肯定。  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
第三章 神絵師の呪い

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二人きりの朝食



 海斗は雷華を自宅に上げ、彼女が持参したパンをちゃぶ台に広げた。


 香ばしい香りを放つ、多種多様な焼きたてパン……その豪勢な眺めに、海斗は興奮と感謝を覚えながら、ありがたく食した。


 パンはどれも絶品だったが、向かいに座る雷華との会話は皆無で、とてもじゃないが良い雰囲気とは言えなかった。


 無理もない。海斗が何かを口にすれば、たちまち雷華に否定されてしまう。

 それを海斗が受け入れようものなら、また終わらない否定と肯定の応酬が続き、食事どころではなくなってしまう。

 レフェリーである未空がいない今、下手に仕掛けない方が得策であると海斗は判断した。


(とはいえ、何も喋らずにいるのは、正直もったいない気がするな……この家で誰かと食事するのは久しぶりだし)


 サメあんぱんを頬張りながら、海斗は雷華を見つめる。

 何とも幸せそうな顔でサメクリームパンにかぶり付いており、いくら見ていても飽きない愛らしさを放っていた。


 ……やはり、雷華は可愛い。

 誰がどう見ても美少女だ。

 こうして黙っていると尚更、その可愛さが際立つ。

 けれど……


(俺は……たとえ否定だらけであっても、元気に喋っている鮫島の方が……可愛いと思うな)


 しかし、クラスメイトたちは、そんな雷華の本性を知らない。

 クラスでの雷華はめったに声を発さない、孤高で近寄りがたい雰囲気を醸し出しているから。


 彼女の怒鳴り声も、恥じらう顔も、真剣な眼差しも、俺しか知らない。


 そう考えると、海斗は、言いようのない優越感みたいなもので満たされ……

 しかし、それに浸ってはいけないと、慌てて首を横に振った。


「……なにプルプルしてんのよ」


 と、向かいに座る雷華に言われ、海斗はハッとなる。

 そして、気付く。

 不審げにこちらを見る彼女の口の端に……クリームが付いていることに。


 鮫島。ここ、クリームが付いてるぞ。


 そう伝えようと、口を開きかけるが……


(……いや、そのまま伝えたところで、「はぁ?! 付いてないし!」という否定が返ってくることは明白。ここはおとなしく……)


 海斗は、無言のまま手を伸ばすと……

 親指の腹で、そっと、口のクリームを拭ってやった。


 少し掠めた唇が思いのほか柔らかくて、海斗はドキッとする。同時に、思い切ったことをしてしまったと、今更ながらに焦る。


 突然距離を詰められ、唇の端を撫でられた雷華は、温度計のごとく沸々と顔を赤らめ……


「なっ……なななな、なにを……?!」


 と、パニックに陥る。

 どうやら、クリームを拭われたことに気付いていないらしい。


 海斗は、クリームの付いた親指を無言で突き付けた。

 それを見た雷華は、ようやく海斗の行動の意味を理解し……


「は……はぁ?! そんなん付いてないし!」

「って、結局そう言うのかよ」


 どうあっても否定される運命を悟り、海斗は思わずツッコむのだった。


 

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