第6話『だから、セシルさん。二人を助ける為にも協力しては下さいませんか?』(リヴィアナ視点)
(リヴィアナ視点)
驚き固まっているセシルさんを見て、私はクスリと笑みを浮かべた。
あれだけ世界の闇を見て来たセシルさんが未だこの程度の話に動揺しているのは、どこかおかしい様な気持ちもあった。
「えと、排除する……というのは」
「隠居していただくという事ですよ。セシルさん。静かな場所でお休みいただく様なイメージでしょうか」
私は笑顔を浮かべながら、セシルさんに説明した後、分かってますね? という気持ちを込めてお兄様たちへと視線を向ける。
二人は静かに頷いてくれ、私に続いて言葉を投げてくれた。
「あぁ、父上が静かに休める場所はもう用意している」
「そうなのですか」
「父上は働き過ぎなのさ。無理をすると良くないだろう?」
「それは、確かに……そうですね」
アルバート兄様も口が上手いなと思いながら私は心の中で笑う。
これから父上は命を奪われ、地の底に眠る事になるという話を、よくもまぁそれらしい話に出来るものだと。
しかし、セシルさんの協力を取り付ける事が何よりも大事なのだから、この程度の事は許して欲しいものだ。
「でも、私が出来る事なんて無いと思いますが」
「いえいえ。むしろセシルさんの協力が何よりも重要なんですよ」
「私の協力が?」
「あぁ、君が世界国家連合議会発足の場で見せたあの魔術を使っていただきたい」
「あの魔術……光の魔術ですか?」
「おそらくそうだ」
「それは構いませんけど、でもアレは悪意に反応して幻覚を見せるだけの物で……」
「実はな。我が国の王が乱心し、アリス嬢とエリカ嬢を王城に呼び寄せたのだ。目的は、まぁ……そういう事だろうな」
「はぁ……」
アルバート兄様の言葉に曖昧な返事をするセシルさんを見て、よく分かっていないのだなと察した私はセシルさんの体を引っ張り、耳元でそういう事を王が望んでいると伝えた。
まぁ体の関係を繋ごうとしたという話だ。
「なっ!? な!?」
「だから、セシルさん。二人を助ける為にも協力しては下さいませんか?」
「それは勿論!! 勿論です!!」
私は思わず笑いそうになる顔を何とか我慢して、悲痛な王女の顔でセシルさんに訴える。
「ありがとうございます。セシルさん。王はおそらく長い治世で疲れ、この様な行いをしようとしているのだと考えられます」
「まぁ、そうですよね。うん」
「ですから、これでおそらく王も救われる事かと思います」
「分かりました! 私も頑張ります!」
さて……。
セシルさんの協力を取り付けた事だし、後の段取りは兄様たちに任せて、私は呼んでおいたジュリアーナさんやローズさんの待つ部屋へと向かう。
「おーまた!」
「えぇ。本当に待たされましたわ」
「転移魔術まで使って王城に呼ぶなんて……何事ですか? リヴィアナ様」
「いやーそれがさ。実は現国王がエリカさんとアリスさんを王城に呼んだんだよね! 理由はよく分かってると思うんだけど!」
私の言葉に二人は深い、それはそれは深いため息を吐いた。
いやー毎度の事だけど、悪いねーウチのが。って感じ。
私とは血が繋がってないんだけれども。
「なるほど。それで? リヴィアナ様はどの様な用事で私たちをお呼びしたのですか? 命乞いでしょうか」
「いやいや」
「命乞いじゃないとすると、宣戦布告とか」
「まさかまさか」
何度か手を振りながら、二人の言葉を否定し、近くの椅子に座ってから言葉を投げかけた。
「反乱を起こそうと思ってさ」
「あらまぁ」
「それは構いませんけど、国民が受け入れるかしら」
「問題無いよ。だって、新国王はアルバート兄様だもん」
「いや、いくらアルバート殿下でも……」
「テオドール兄様が支持して、救国の聖女様が隣に立っても?」
やはりと言うべきか、私の言葉に二人は完全に固まってしまった。
当然と言えば当然の話だと思うけど、自分の命が危ないって状況で何もしない私じゃないんだよ。
アリスさんとエリカさんに兄様たちを近づけて、自然と惹かれ合ってゆく様に設定し、テオドール兄様にもコトを起こすという事と、エリカさんの話を納得して貰った。
正直エリカさんとアルバート兄様の関係を認めてもらう方が大変だったというのは想定外だったけど、それも過ぎた話だ。
後は、貴族派閥が頷けば全て落ち着く様になっている。
いや、そうした。
「それで? どうする? 二人はさ」
「どうするもこうするも、民が納得するのであれば、私は何も言いません。権力にも興味はありませんし。元よりアルバート殿下で丸く収まるのなら、それが一番だと思っていましたから」
「なるほど。なるほど。ジュリアーナさんは?」
「エリカさんは納得されているお話でしょうか?」
「勿論!」
「ならば、私は何も言う事はありませんわ。リーザさんもエリカさんが上に立つという事であれば、喜んで国に忠誠を誓うでしょうし」
「ありがたい。助かったよ」
私は胸をなで下ろしながら大きく息を吐いた。
ようやくだ。ようやく命が繋がる感覚がする。
「それで?」
「うん?」
「それで、貴女はどうするのですか? リヴィアナ様」
「へ? 私?」
「えぇ。アルバート殿下が王となる以上、エリオット殿下は新たな家名を与えられ、王城を去るでしょう。では貴女は?」
「私かぁ。まぁ、私は適当に生きていくよ。生きていく事が出来るんだからさ」
「……」
「なら……」
「ん? あ! 言っておくけど! 二人に助けてもらう気は無いよっ! 私は折角自由の身になるんだから!」
「リヴィアナ様」
「もう良いんだよ。神の頭脳だとか、魔女だとか色々言われて来たけど、私の役目はもう終わったんだ。王女としての役目はね。だからこれからは、そうだなぁー、ま。冒険者とかやってみるのも面白いかもね!」
ケラケラと笑って、私は椅子から立ち上がり、部屋の外へ向けて歩き始めた。
長く続いた暗い時代をこえて、新しいヴェルクモント王国を始めるのだ。
そして、私は部屋を出てから真っすぐに玉座の間へと向かい、中から聞こえてくる声と音に笑みを深めた。
私を止めようとする騎士達をすり抜けて、玉座の間に入る。
どうやら中は今まさにクライマックスへ向けて走り始めた所の様だ。
「この様な蛮行が許されて良いはずがない!! 父上……いえ、もはや貴方を父と呼ぶことすら出来ない!」
「……アルバート様」
「アルバート! 貴様! よくもほざいたな! 我はこのヴェルクモント王国の王! 我こそがヴェルクモント王国なのだぞ!?」
「民あってこその王です! 民の心を守る為に戦った聖女を! エリカを! 汚す様な事はこの私が許さない!!」
アルバート兄様はエリカさんを背に守りながら王に向かって叫び、その凛々しい姿にエリカさんも心を奪われている様に見えた。
その姿に兄様も演技が上手いのだなと思ったけれど、よくよく見ればかなり本気で怒っているらしい。
なんだ、兄様もエリカさんを愛していたのか。
「話にならん!! 誰か! この愚か者を捕えよ! 聖女を我に!」
全てが終わっているという事に気づかない愚王は叫ぶが、その声はどこにも届かない。
騎士達は何も言わず動かぬままだ。
そして……。
「騎士達よ。ヴェルクモント王国を想う我が信念の刃よ! ヴェルクモント王国を貶める者を捕えよ!」
騎士達はアルバート兄様の言葉に従い、愚王を捕え、玉座から引きずり下ろした。
この後、聖女達には知られぬ場で王はその命を絶つことになるだろう。
まぁ、しかし些細な事だ。その様な事は。
これから始まるヴェルクモント王国の輝かしい歴史の中では、本当に小さな事件。
いや、ただの出来事だろう。
国民の歓声の中で静かに消えていく過去の遺物でしかない。
ゆっくりと静かな場所で眠り続けて貰いたい者だね。