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第4話『コイツはバカだったんだ。』(ニネット視点)

(ニネット視点)




突如としてユニコーンにセシルが攫われてから、聖国では大々的な捜索が行われていたのだが、セシルがヴェルクモント王国で保護されたという話を聞き、私たちはひとまず聖国へ戻る事となった。


そして、大教会で大司教、レーニ・トゥーゼ、私、リリアーヌの四人で今後についての話し合いをするのだった。


「セシル様はいつ聖国へ戻ってくる予定なのでしょうか」


「交渉は続けておるがな。連中め、あれやこれやと理由を付けてセシル様を表に出さぬ」


「それは厄介ですね」


「うむ。だが、セシル様をお一人で放置する事など出来ぬ。騎士ニネット、騎士リリアーヌ。お前たちには会議が終わり次第ヴェルクモント王国へ向かって貰うぞ」


「「はい」」


私は大司教から聞いた話を頭の中でまとめながら、これからの事について考えていた。


ユニコーンが居るのであれば、とりあえずセシルの安全は確保されているという事だろうが、それで全ての悪意が弾ける訳じゃない。


「それで? セシル様はご無事なのですか?」


「あぁ。無論だとも。そうでなければ私が君たちに下す命令はかの森を焼き払う事だっただろうからな」


「そうですね」


リリアーヌと大司教の話を聞きながら、私は思考を走らせながら考える。


セシルがユニコーンに攫われたという事実と、無傷で帰ってきたという事実を。


そして、この二つの事実から、セシルの真実に気づいてしまう者がいるかどうかを。


「リネット」


「……なんでしょうか。レーニ・トゥーゼ」


「お前、セシルの事で何か隠している事があるな?」


「何のお話か。私には分かりかねます」


「この期に及んで誤魔化すか。まぁ良い。ならば、一つずつお前のおかしな点を言ってやろう」


レーニ・トゥーゼの言葉に私は表情を変えない様に注意しながら、小さく息を吐く。


守り抜かなければいけない秘密を絶対に外へ出さない様に注意しながら。


「まず一つ目だ。リネット。お前は何故セシルがユニコーンに攫われたと聞いて、ユニコーンにセシルが傷つけられる可能性を考えなかったな」


「……」


「ユニコーンは相手が聖なる乙女であれば傷つけないと言われているが、それがどこまで真実か誰にも分からない。が、お前は当然の様に受け止めていたな。まるで過去にも同じ事があったとでも言うように」


「……ニネット、あなた何か知ってるの? なら、話しなさいよ! 貴女一人で出来る事なんて限られているんだから」


「その通りだ。騎士ニネット。聖女様について秘匿している情報があるなど背信行為だ」


レーニ・トゥーゼ、リリアーヌ、大司教に睨みつけられても私は何も言わず黙り続けた。


何があろうと、何をされようと決して話してはいけない話はあるのだ。


「ニネット。お前、ユニコーンに会った事があるな?」


「っ! 何の話か分かりませんね」


レーニ・トゥーゼはスッと目を細めると、私を真っすぐに射抜いた。


「初めて、セシルに会った時の事だが、いくつか奇妙な事があったのを私は覚えている」


「奇妙なこと、ですか?」


「そうだ。まず、セシルの背中についた傷だが、最低限の治療がされていた。しかも人間が使う魔術ではなく、魔法に近い根源の魔術でだ。それはお前にも、教会の連中にも使えないだろう?」


「そうですね」


「そして、セシルやお前を襲った連中について……。教会の連中が周囲を探したらしいが一人も見つける事が出来なかったという。お前とセシル以外の人間は皆死んでいるというのに、お前たちだけでどうやって撃退した?」


「……通りすがりの人が」


「あり得ない嘘を吐くなよ。リネット。見知らぬ人間を助けてやる様なお優しい人間が、傷ついたお前たちを放置してゆくワケが無いだろう?」


「……それは」


「だから、な。これは酷く単純な話だ。そう。あの時、お前たちを助けたのは、ユニコーンなのだろう? 正確にはお前たち、ではなくセシルを、だろうがな」


「っ!」


「まさか。トゥーゼ様。その様な事は前例がありません」


「前例ならある」


レーニ・トゥーゼはどこを見ているのか分からない目で、独り言の様に語った。


「……初代の聖女がそうだ」


「アメリア様が?」


「そうだ。私も聞いた話だし、昔の事だから記憶も確かじゃないがな。それでも微かに覚えている。あの子は、確かにユニコーンと心を通わせていた。あの子に危機が迫ればユニコーンは駆けつけ、力をなっただろう」


「いや、しかし、それはアメリア様が特別だったからでは……」


「まぁ、それもあるだろうな。でもそれだけじゃない。アメリアとセシルはよく似てるんだよ」


「……似ている、というのは」


「長くセシルと共に居て、理解した。セシルはアメリアと同じ魔法使いだ」


「「「っ!!?」」」


「まさか! セシル様が魔法使い!? それに、アメリア様も!?」


「トゥーゼ様! それは、光聖教の根底を揺るがす様な発言ですよ!」


ドクドクと早くなっていく鼓動をそのままに、私はゴクリと唾を飲み込んだ。


まさか、知られていたなんて……。


しかもこんな場所でバラされてしまうなんて……! 急いでセシルの所へ行かなくては。


「そう焦るな。リネット。そして騒ぐな大司教、リリアーヌ」


レーニ・トゥーゼの言葉に大司教たちは静かになり、私も少しだけ気持ちを落ち着けて彼女を見据えた。


何を考えているのか見極める為に。


「アメリアやセシルが魔法使いだったとして、お前たちにどんな不利益がある」


「それは……」


「いや、そうか。不利益はあったな。お前たちは魔法使いを敵として排除してきたのだから」


レーニ・トゥーゼの言葉に、あの夜、村に来た者達がまだ幼かったセシルに強い憎しみを向けていた事を思い出した。


セシルは何もしていないというのに。


「それは……! 魔法使いが我らの世界を脅かしてきたからです。我らは自らの世界を守る為に……!」


「そういう理屈は聞き飽きた。それにな、私が聞いたのはそういう事じゃない」


「というのは……」


「他の魔法使い共がどんな奴らか、そんな事はどうでも良い。ただ、アメリアとセシルに救われて、今日まで生きて来たお前たちにとって、二人が魔法使いだとして、どの様な不利益があるんだ? と聞いているんだ」


「っ」


「前も言ったがな。私は人間の世界になど興味は無いんだ。ただ、アメリアの残した物を守りたいと思ったから、聖女を助けているだけだ。お前にも、お前たちにも興味など欠片も無い」


レーニ・トゥーゼの言葉は鋭く私たちを貫き、その鋭さに大司教は完全に言葉を奪われてしまった。


「お前たちが気に入らないというのなら、私の答えはただ一つだ。セシルが嫌がろうが、何だろうが……私はあの子を連れて世界の果てに向かうだけ、ただそれだけだ」




それから。


レーニ・トゥーゼの言葉があまりにも衝撃的だったからか、話し合いはろくに進まず、とりあえずという事で私とリリアーヌはヴェルクモント王国へ向かう事になった。


「……でも、まだ頭が上手く整理できない」


「何が?」


「何がって、セシル様が魔法使いだったって事でしょ!?」


「大声で騒がないでよ。誰かに聞かれたらどうするの?」


「ごめん」


「別に良いけど……それで? セシル様が魔法使いだったらどうだって言うのよ」


「どうって、大問題じゃない」


必死な顔で私を見るリリアーヌに、私は心の奥が冷たくなっていく感覚を覚えながら、ジッとその動向を見据えた。


しかし……。


「だって、魔法使いは凄く長く生きるのよ? 私、聞いたことあるわ。アルマ様の時代から生きてる魔法使いも言るって」


「……? 何が言いたいの?」


「んもう! なんで分からないのよ! 私達の方がセシル様より早く死んじゃうのよ!? じゃあ私たちが死んだ後、誰がセシル様をお守りするのよ!」


「……ふっ、あはは、あはははは!」


「何笑ってるのよ! ニネット! 大問題なんだからね!」


私はお腹を押さえながら笑い続け、その声を抑えるのが大変だった。


あぁ、そうだ。


コイツはバカだったんだ。


セシル様、セシル様って、セシルの事ばっかりで、他は全部どうでもいい。


そういう女だった。


「まぁ、何とかなるよ」


「真面目に考えなさいよ! ニネット!」


「分かってるよ」


まったく、ウジウジと悩んでいた自分が嫌になる。


セシルにはこんなにも強い味方がいるんだ。


それがとても嬉しかった。

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