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第3話『魔法、使い?』

さて、連日トラブルの絶えない世界に居るセシルでございますが……なんと、遂に出会ってそうそう敵意をむき出しにする少女の登場でございます。


どうなってるんですかね。この世界。


まぁ、生まれた時からこんな世界でしたけれども。




私は敵意、悪意に反応して幻覚を見せる光の魔術を展開しながら少女ととりあえず語り合ってみる事にした。


「あの、何か誤解がある様に思うのですが」


「誤解?」


「そう。私は決してこの森に入りたくて入った訳ではなく、ユニコーン君の背に乗っていたら偶然この森にたどり着いただけなのです。私にも、そしてユニコーン君にも敵意はありません」


「それを素直に信じると思う?」


「信じていただきたい、とは考えていますね」


ジッと女の子に見つめられている間にも静かに光の魔術は展開してゆく。


実に悪い大人だ。


まぁ、戦いというのは、よーいドンで始まるものではないからね。


当然といえば当然なのだけれども。


フフフ。私とてこの世界で生きて長い。


化かし合いで明らかに年下であろう少女には負けんよ。


「ふぅん? そう。ま、確かに争う気は無いみたいだね。使ってる魔法も、ジーナちゃんを傷つける為に使ってるワケじゃないみたいだし」


「え?」


「どうしたの? 自分で自覚が無いのかな。貴女、魔法使いでしょ?」


「魔法、使い?」


私はその聞きなれない名前に首を傾げながら自分の手を見る。


何故だろう。何か酷く嫌な予感がする。


忘れてはいけない何かを思い出す様な……。


「でもまぁ、自覚が無いのならやっぱり敵なのかな。とりあえず、試してみようか!」


瞬間、少女が両腕を勢いよく振るい、私が少しずつ広めていた光の魔力と魔術を全て吹き飛ばした。


さらに、それは物理的な力となって私を襲い、暴風と共に吹き飛ばされそうになる。


とんでもない力だ。


人間じゃない!


「っ!? ゆ、ユニコーン君、無理はしないで下さい!」


「うーん。ユニコーンが懐くなんて……やっぱり普通の人間じゃないみたいだね。なら良いや。ばいばーい」


訳も分からないまま、立ち去ってゆくジーナという名の少女を見送りながら、私は大きなため息を吐いた。


誰がここまでのトラブルを起こせと言ったか。


私はお怒りである。


という訳で、私は暴風からユニコーン君が守ってくれた体勢のまま、ユニコーン君にもたれ掛かって動けるようになるまで目を閉じる事にするのだった。




体が重く、何だか酷く疲れている体で深い眠りの中に居た私は、どこからか聞こえてくる声にゆっくりと目を開いた。


「聖女セシル様!」


「……? あれ?」


「何が会ったのですか!? これは」


「えと?」


目を覚ました私の前に居たのは、チョロード卿ことマルク・ヴェイン・ガーランド卿だった。


ヴェルクモント王国最強の騎士にして、あまりにも容易く攻略できることからチョロード卿という愛称で呼ばれる戦士。


なのだが……どうして聖国に?


「……私は」


「聖女セシル様。今貴女は聖国の大教会に居ると聞いていましたが、どうして太古の森に?」


「太古の森……ですか?」


何の話をしているんだチョロード卿は、私がそんな変な森に居る訳……。


と思いながら周囲を見ると、確かにそこは深い深い森の中であった。


周囲に居るのはチョロード卿と同じヴェルクモント王国の紋章を付けた騎士達ばかり。


……。


あぁ!! そうだ!! 思い出した!


聖国に軟禁されて、限界で、外に行きたいと願ったらユニコーン君にここまで運ばれたんだった!


そして、謎の少女に襲われ、意識を失っていた。


なんてこったい!




いや、しかし、ここでチョロード卿に会えたのはラッキー。


一緒にヴェルクモント王国へ行って、なし崩し的にアリスちゃんやエリカ様とイチャイチャしながら世界を救う冒険者になろー。


その為にも、まずはそれっぽい話を作って、ヴェルクモント王国に忍び込むぞ……!


「ガーランド卿」


「ハッ」


「貴方に出会えたのは幸いでした」


「と言いますと?」


「実はユニコーンさんに呼ばれ、この場所へ来たのですが……少々危険なモノが目覚めた様です」


「っ! なんと!!」


「何とか撃退する事は出来ましたが、このまま何も無いとも限りません。まずはアリスさんとエリカさんにお話を」


「承知いたしました! ではまず聖女セシル様をヴェルクモント王国まで無事お連れ致します」


「申し訳ございません。よろしくお願いいたします」


やったぜ!


流石チョロード卿だ。


アッサリ騙されてくれた。


「しかし、敵はどの様な物だったのですが……この様な、大規模な破壊は、まさかドラゴンの様な大物では」


「それほど大きなモノではありませんでしたが、かなり強大な力を持っていましたね」


「そうですか……この件はテオドール様へのご報告しなければいけませんね」


「よろしくお願いします」


私はよく分からないまま笑顔で頷き、チョロード卿に護衛され、ユニコーン君に乗りながらヴェルクモント王国を目指すのだった。




そして、森の奥に行く時間の数倍の時間を掛けて、私はヴェルクモント王国にやってきた。


あぁ、懐かしきヴェルクモント王国。


愛おしい人たちの住まう楽園。


心の中で歌を歌いながら国の中に入った私は、まず王宮へと行く事になり、リヴィアナ姫様の待つ部屋へと向かうのだった。


「お久しぶりです。リヴィアナ様」


「その様な仰々しい呼び方はお止め下さい。聖女セシル様。私の事はリヴィと」


「……では、私の事もセシルとお呼びください」


「そんな! 聖女様を呼び捨てにするなど」


「それは私も同じですよ。リヴィアナ様。私はヴェルクモント王国の王女様を呼び捨てにするような身分の者ではありません」


柔らかく微笑む聖女様スマーイルで私はリヴィアナ姫様との距離を一気に詰める。


そう! 何を隠そう。リヴィアナ姫様はこのヴェルクモント王国で最も信頼できる人なのだ。


いやね。そりゃね。アリスちゃんとかエリカ様も信用は出来るけど、二人は騙されやすそうだしなぁ。


その点、リヴィアナ姫様も純粋だし、騙されやすそうだけど、お姫様だからね。


お姫様を騙そうとする悪い人なんて早々居ないでしょ!


という訳である。


天才セシルに隙は無いよ。


「先ほどガーランド卿より報告を聞きましたが、太古の森で危険な魔物と戦ったとか」


「……えぇ」


「それはどの程度の脅威だったのでしょうか。ガーランド卿の話ではドラゴンと同程度では無いかという事でしたが」


「そうですね。私と会った時は本気ではありませんでしたが、本気を出せば世界を滅ぼす事が出来る可能性もありました」


なんて……まぁ適当に話してみる。


いや、完全な適当という訳でもないか。


あの子の力は私を完全に超えていたし。


これでも私はドラゴンと戦える程度には魔術を鍛えていたわけだしね。


そう考えると本当に脅威なのかもしれない。


何故か人間を酷く憎んでいた様だし。


でも……あの子も人間だったよね?


人間が人間を憎む……?


どういう状態なんだ?


「セシルさん?」


「あ、申し訳ございません。リヴィアナさん」


「一つ、確認なのですが……もしやその森の奥で出会った者というのは、人間の姿をしていたのでは無いですか?」


「っ! 何かご存知なのですか!? リヴィアナさん」


「えぇ。古代の森に住まい、人を憎んで攻撃を仕掛けてくる。その存在に一つ心当たりがあります」


「それは……!」


「魔法使い」


ドクンと心臓が跳ねた。


遠い昔。その名前を私は聞いたことがある。




あの日。


あの暗闇が支配した夜。


お父さんとお母さんが冷たくなっていて、多くの悲鳴が聞こえていた中で、私の耳に届いた叫び。


『この村にいる魔法使いを殺せ!』


「……」


私は自分の体を抱きしめながら、深く息を吐いた。


震えが止まらない。


「セシルさん? セシルさん!? しっかりして下さい! セシルさん!」


『魔法使いは人間の敵だ!! 皆殺しにしろ!!』


私は。


私、は……!


『見つけたぞ! このガキだ! このガキが魔法使いだ!』


『セシルに手を出すな!』


『邪魔をするな!!』


『ニナ!!』


背中を襲う痛みと、命が零れ落ちてゆく感触で、忘れていた。


そうだ。




私が、みんなを殺したんだ。

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