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第20話『だって、私、魔法使いなんだよ! 魔法使いは何でも出来るんだ!』

この世界に生まれてきて、良かった事はいくつかある。


楽しかった事はいっぱいある。


嬉しかった事も数えきれない程だ。




でも、同じくらい悲しかった事もいっぱいあった。




アリスちゃんとエリカさん……それにヴェルクモント王国の人たちとお別れしてから何年も経った。


私はリヴィと一緒にスタンロイツ帝国の家で静かに暮らしていた。


二人で過ごす時間は酷く静かで、穏やかで、安らぎに満ちたものであったが、決して幸せでは無かった。




「セシル。今月も手紙が届いてたわよ」


「ありがとう。リヴィ」




リヴィが届けてくれる手紙を開きながら、私はリヴィが書いてくれた手紙を読んで、笑う。


本当は全て知っているのに、リヴィの優しさに甘えて、笑う。




リヴィは知らないだろうけれど、私は光の精霊と繋がっているのだ。


光の精霊を通して、この世界に居る光の精霊と契約している人を知る事が出来る。


アリスちゃんの契約は随分と前に消えてしまった。


そして、エリカさんもアリスちゃんとそれほど変わらない頃に消えてしまった。




新しく光の精霊と契約する子は出て来たけど、それはアリスちゃんでもエリカさんでもない。


知らない子だ。


普通に生きている限り、精霊との契約が消える事はない。


消えるとすれば、その理由は一つだけだ。


……そう。


アリスちゃんとエリカさんは死んでしまったのだ。




あの日のお茶会を最後に、二人は空の向こう側へと逝ってしまった。


もう二度と会えない。




その事実を知った時は、辛くて、辛くて、涙が止まらなくて……リヴィにはお腹が痛いなんて嘘をついてベッドの中に潜り込んで泣き続けた。


拭っても、拭っても涙はとめどなく溢れてきて、私は終わらない苦しみの中で、吐きそうになりながら、何とか命を繋いでいた。


そんな中、リヴィからアリスちゃんとエリカさんから手紙が来た、なんて言われて……一瞬怒鳴りそうになってしまった。


二人はもう死んでしまったのに、手紙なんか来るわけが無い! と。


でも、そんな時、気づいてしまったのだ。


今までの手紙も全部、全部、全部!! リヴィが書いていた物だったと。




二人に会いたいと泣いていた私にリヴィが持ってきてくれた物だったのだと。




それを知った瞬間、私は悲しくなってしまった。


リヴィに縋りついて、謝りたくなってしまった・


でも、出来なかった。


リヴィが、気づかないで欲しいと私に願っていたから。


それに……手紙を書き続けている以上、リヴィはずっと……私の傍に居てくれると思っていたから。




しかし、それは甘い考えだった。


理由は簡単だ。


リヴィが普通の人間で、私が魔法使いだからだ。


何年経っても私の体は変化しない。


が、リヴィは一年ごとに老いてゆく。


力を失ってゆく。


痩せて衰えてゆく。


いつかリヴィも消えてしまう。それが怖かった。


だから、何も見えないフリをして、リヴィに甘えて生きてきた。


その結果がこれだ。




「リヴィ!! しっかりして!! リヴィ!!」


「……っ、せし、る」


「お願い! 目を開けて! リヴィ!」


「そん、な……なきそうな、こえ、ださないで」


「リヴィ!!」




抱きしめたリヴィの体は細くて、軽くて、弱々しいものだった。


強く抱きしめたら折れてしまいそうなほどに。




ずっと、こんな体で私を支えていたのだ。


甘え続けた私の為に、嘘を吐いて、無理をして、倒れてしまうまで……。


こんな事なら、もっと私がリヴィを支えれば良かった。


もっと、出来ることがあった。


リヴィの為に……出来る事があったのに、何も出来なくて、甘えて、苦しめた。


大切な人なのに!




「セシル。私の書庫に、貴女からもらった日記帳があるの」


「日記帳?」


「そう、前に貴女がくれたでしょう?」


「……うん」


「あれを、貴女に、あげるわ」


「駄目だよ! リヴィ! 日記は他の人に見せちゃ駄目なんだよ!」


「良いじゃない。どうせ私は」


「死なない!! リヴィは、まだ、死なないよ!!」


「……セシル」


「だって、私、魔法使いなんだよ! 魔法使いは何でも出来るんだ! 何でも! なんでも!!」




力を失い、私に体重を預けるリヴィは、リヴィの命は今にも消えてしまいそうで、私は何かリヴィの為に出来る事は無いかと考える。


何でも良い。


リヴィがここに居たいって、ずっと生きていたいって思えるものが、何か!!




『まぁ、そうですね。もしそんな時が来たのなら、一緒に探しましょうか』


「……海だ」




私は心に生まれた小さな希望を胸に、リヴィを強く抱きしめた。


もう二度と、もう何も失わない為に。




「セシル、私は、もう……」


「そ、そうだ! そうだよ! リヴィ! ほら、前に海が見たいって言ってたじゃない! 私ね、海の場所が分かったんだ。流れていく川の位置から、海のある方角が分かるの!」


「……うみ?」


「海! そう! 海だよ! 見てみたいって言ってたでしょ!」




私はリヴィを抱き上げて、家の外へ出た。


酷い吹雪だけど、魔法を使えば寒さなんてない。


吹雪も関係ない。




ユニコーン君にお願いして、私は豪雪の中を南東に向かって走って貰った。


どこまでも、どこまでも遠く。海を目指して。




それから何日経っただろうか。


リヴィは走っている途中、完全に意識を失っていて、心がどうにかなりそうだったけど、それでも走り続けた。


海を見れば、海に行けば、元気になるんだと、そう信じて。




「リヴィ。随分と時間が掛かっちゃったけど、ここが海だよ」


「……これが?」




そして、ユニコーン君に見守られたまま、私はリヴィと共に海へ向かった。


この世界に来て初めて歩く砂浜は懐かしさよりも、違和感の強い物であったが、それでも気にしない。


打ち寄せる波で足を濡らしながら、抱き上げたリヴィと共にどこまでも広がっていく海を見つめた。




全ての命が生まれて、還ってゆく場所。




ここにはきっと、アリスちゃんやエリカさんも居るのだろう。


いつか、私もリヴィもみんなの所へ行くのだろう。


でも。


でも! それは今じゃない。


まだ、その時には遠いんだ!!




「リヴィ。ほら。日が沈むよ。赤い光が海に広がって、綺麗でしょ?」


「……そうね」


「これから、空には星がいっぱい見える様になるんだ。そうなったら、海も一緒に輝いて、とても綺麗なんだよ!」


「……」


「リヴィ!」


「……きいてるわ」


「……!」


「聞かせて、話を」


「うん! うん!! いつまでも話すよ!」




私はリヴィと共に砂浜に座り、日が落ちてからもずっと語り続けた。




「ほら、星が、光ってるよ。日が沈んでね。最初に光るのが一等星って言うんだよ!」


「どんどん光が増えて来てる。手を伸ばしたら掴めそうだ!」


「リヴィ。見えてる? みて、アレが……アレがね……!」


「リヴィ……ねぇ、聞こえてる? リヴィ」




いつの間にかリヴィの声は聞こえなくなっていて。


抱きしめたリヴィの腕は力なく砂浜から動かなくなっていて、私はリヴィを抱きしめたまま声にならない叫び声を上げた。




苦しめてしまった。


私と一緒に居なければ、私と出会わなければ、リヴィにはもっと幸せな人生があったはずなのに!!


私が壊してしまった。


リヴィを苦しめてしまった。


私が、リヴィから幸せを奪ってしまった……!




「セシル! ようやく見つけた」


「……れーに?」


「あぁ、私だ。辛い思いをさせたな。お前にも、リヴィアナにも」




そして、私はリヴィを抱きしめたまま泣いた。


子供の様に。


長く私に縛り付けて苦しめたというのに、何も成長出来ないまま、リヴィに縋って泣いた。




それから夜が明けるまで泣き続けて、私はスタンロイツ帝国にもヴェルクモント王国にも戻れないと、レーニと共に海の近くをさ迷い歩き、ヤマトという国にたどり着いて、生活を始めるのだった。


いつまでも終わらない命を抱えながら。


いつか、リヴィに、アリスちゃんやエリカさんに許してもらって、天国で再会出来る事を願って。

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