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第17話『私がリヴィ。リヴィアナ。セシルの親友!』(リヴィアナ視点)

(リヴィアナ視点)




太古の森から昼間かと思う様な光が溢れて、外が騒がしくなった。


「落ち着け! 何を騒いでいる!」


「陛下! 太古の森から大型の獣が複数体現れました! 全てドラゴンと同程度の脅威と思われます!」


「なんだと!?」


「バカな!」


騎士の報告にスタンロイツの皇帝や、お兄様が驚愕の声を上げ、部屋を飛び出して行った。


そして私も二人に付いて、砦の外へと向かうのだった。


「落ち着け! 騒いだところで意味はない! それよりもセシル様の安全を確保する方が重要だ!」


城砦の外へ出たスタンロイツの皇帝は声を上げながら、騎士をまとめ上げ、太古の森へ向けて足を進める。


しかし彼らの向かう先には見上げる様な大きさの獣が数体、私達の前に姿を見せるのだった。


「……っ! やはり神獣か」


『それ以上進むな、人間』


『そう。そこから先は我らの領域。入ればただではすまんぞ』


「突然の非礼については詫びよう! しかし、その森には我らの光が居るのだ。あの御方だけは戻していただきたい!」


『森でコソコソとしていた者たちなら、既にそちらへ返した』


神獣の言葉に、私は彼らが示した方を見たが、そこに居たのは倒れた騎士ばかりで、セシルの姿はない。


咄嗟に太古の森へ向けて走り出そうとしたが、アルバート兄様に肩を掴まれてしまい、それ以上進む事が出来なかった。


「アルバート兄様……!」


「落ち着け。リヴィ。ここで動いても良い事など何もない。辛くとも冷静さを失うな」


「っ、分かってます」


「なら、良い」


アルバート兄様は私に小さいながらも強い声を向けながら、自身も血が出そうなほど、強く拳を握っていた。


この状況に落ち着いていられないのはアルバート兄様も同じだ。


それを理解した私は、ゆっくりと深く呼吸をして、心を落ち着かせる。


「どうやら我々の求める御方は居ない様だ」


『そうか。そうだとして、我々には関係が無い話だな』


「……森を探索する。少しの間。見逃していただきたい」


『断る』


「戦争になるぞ……」


『それを恐れる我らだと思うのか? 調子に乗るなよ。人間』


スタンロイツの皇帝は、部下と思われる人間から受け取った大剣を握りしめ、神獣と呼ばれた者達に向かって構える。


ピリッとした空気が流れ、場は静かに硬直した。


「お前たち……」


『人間風情が……』


そして、膨れ上がった殺意が弾けそうになる瞬間、空から金色の光が落ちて来た。


地面を破壊し、砕きながら降り立ったその獣は巨大な金色に輝く狐であり、背には小さな人の姿が見える。


『そこまでだ。下らない争いは止めな』


「そうだよー! もう戦いは終わりー! セシルもちゃんと人間に返すからね!」


『なんだと!? どういう事だ! ジーナ! 狐!』


「どうもこうもないよ! セシルはまだ人間の傍に居たいんだって」


『バカな! 魔法使いとして、アメリアと同じ領域まで届く存在を人間に返すなど!』


『あり得ん! 狐! ジーナを止めろ!』


『ギャアギャアと煩いね。ガキじゃあるまいし。やりたい事があるなら自分でやりな』


『くっ!』


私は皆が呆然と獣同士の争いを見ている中、金色の狐の背にセシルを見つけ、走り出した。


「リヴィ!」


「セシル!!」


アルバート兄様が私に声を掛けた事に気づいたけれど、もう止まれなかった。


真っすぐに走って狐の背からセシルと共に降りて来た少女の元へ走る。


そして、眠っているのか目を閉じたまま動かないセシルを少女から受け取り、抱きしめた。


「セシル! 生きてる。生きてるのね?」


「……貴女が、リヴィ?」


「っ! え、えぇ! そうよ。私がリヴィ。リヴィアナ。セシルの親友!」


「そう。君がそうなんだ」


少女は私をジッと見て、何か特別な意味でもあるのか分からないけど、ニヤッと笑うとセシルの手を取った。


それが何だか嫌で、私はキュッとセシルを強く抱きしめる。


「ぷっ、アハハハ! 大丈夫。そんなに怖い顔しなくても、まだ取らないよ」


「……」


「あー、信用無いなぁ。まぁ良いけどさ」


「貴女の目的は、何?」


「目的? 目的かぁ。今のところ目的は特に無いかなぁー。お姉ちゃんにも会えたしね」


「……アメリア様に」


「そ。お前たちが奪って、殺して、今も利用してるジーナちゃんの大切なお姉ちゃん」


「っ」


笑顔のまま、憎しみに染まった瞳で私を見つめる少女に恐怖が吹き上がる。


が、どれだけ怖くても、セシルの手を少女が握っている以上逃げる事は出来なかった。


「ふぅん? 逃げないんだ」


「セシルを置いて、逃げる訳が無い」


「そ。まぁ良いけど。どうせそんなに長くは掛からないだろうしさ」


「どういう意味」


「前にも言ったでしょ? セシルが人間の近くに居たって利用されるだけ。もしくは排除されるだけ。人間が魔法使いと一緒に居られるワケが無いんだよ」


「そんな事!」


「それでも! お姉ちゃんやセシルが人間の傍に居たいって望んだから、返してあげるの。本当は嫌だけど」


「っ!」


「忘れないでね。人間。私達は、魔法使いは一度だって忘れたことは無いよ。あなた達が敵だったってこと」


「……分かってるわ」


「だから、いつか……セシルが自分の意思で人間の傍を離れた時が、始まりの合図」


セシルが、人間と敵対し、この少女と共に憎しみと復讐の道へ進む未来。


考えうる最悪の未来だ。


でも……。


私はギュッとセシルの体を抱きしめて、唇を噛み締めて、少女を見据えた。


強い意思と共に。


「そんな未来は来ない。私がさせない」


「さて、どうかな。未来は誰にも分からないからね」


「私は……!」


「ん……んん?」


未だ消えぬ憎しみで冷たく私の言葉を突き放す少女に、私が言い返そうとした瞬間、腕の中でセシルが動いた。


瞼を震わせながら、未だ眠そうな目を僅かに開き、私を見てから少女を見る。


「あれ……ここは」


「ここはスタンロイツ帝国の城砦よ。セシル」


「あぁ、私、戻ってきちゃったんですね。でも、ジーナちゃん?」


「うん。ジーナちゃんだよ」


「アメリアさんとは、ゆっくり話せましたか? わたし、途中で寝てしまって」


「うん。いっぱいお話出来た。ありがとうね。セシル」


「いえ……これが私のやるべき事、ですから」


「うん」


「それで、ジーナちゃん。一つお願いがありまして」


「うん。何でも言って」


「ジーナちゃんの中にある憎しみが変わらずそこにある事は分かっています。ですが、どうか……人間と争わないで欲しいのです」


「……」


「酷い事を言う人や、する人はいます。でも、それと同じくらい優しい人も居るんです」


「……うん」


「だから」


「はぁー。分かったよ。もう攻めない。今日は、これでおしまい。セシルには頑張ってもらったしね」


「……ありがとう、ございます」


「ううん。大丈夫だよ」


私と話していた時とは違い、穏やかで落ち着いた顔をしている少女はセシルの頬を撫でてから目を伏せた。


そして、一瞬鋭い目で私を見た後、再びセシルに目線を向ける。


「セシル」


「……はい」


「また会おう。今度はゆっくりセシルと話がしたいんだ」


「そうですね。私も、話がしたいです」


「うん。じゃあ約束。またここに来るよ。セシルに会いたくなったら」


「……はい」


「でも、もしセシルがもっと早く私に会いたくなったら、森に来て。来てくれれば、みんな大歓迎だからさ」


「分かりました」


その言葉の意味を理解し、私は重くのしかかる未来に、思わずため息を吐きそうになってしまった。


しかし、堪える。


そんな未来は来ないのだと、歯を食いしばる。




そして、セシルは酷く疲れているのだろう。


また深い眠りの中に落ちていった。


「じゃ、約束もしたし。ジーナちゃん達は帰るよ」


「えぇ」


「いつかの時まで、さようなら。人間さん」


ジーナと名乗った少女は狐の背に乗り、巨大な獣たちと共に去っていった。


これで戦争は終わり、世界に再び闇の時代が訪れる様な事は無くなったと考えても良いだろう。


しかし、その代償はあまりにも大きい。


「……一人で頑張り過ぎよ、セシル」


私は抱きしめた腕の中で眠る英雄に言葉を落とすのだった。

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