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第16話『いつか、また会いましょう』

夜の遅い時間に森の中を歩くのは大変だ。


どうしたものかなと考えていると、私の中からアメリアさんからの声が聞こえて来た。


『セシルさん!』


『はいはい! なんでしょうか! アメリアさん!』


『暗い道を歩くのは危ないですよ! 光の魔術で照らしましょう!』


『なるほど?』


私はアメリアさんに言われた通りの魔術を使い、世界を照らした……のだが、どう考えても光が強過ぎである。


もはや昼間。


「まぶしっ!」


「なんのひかりー!?」


そして、この光に反応してか、すぐ近くから誰かの悲鳴が聞こえた。


いや、森の中に居る人なんて、多分あの子しか居ないんだろうけどさ。


「ジーナちゃん!?」


「だれー?」


「私です! セシルです! 昼間にお話ししましたよね?」


「セシル……? あぁ、魔法使いのセシルか」


光の中に居たジーナちゃんは手で目を擦りながら、私を警戒しながら右手をこちらに向ける。


「敵意はありません」


「いきなりこんな事して、そんな言葉信じられないよ!」


「いや、まぁ確かにそうなんですけど、私は悪くなくて」


「魔法を使ったのはセシルでしょ! そんな言い訳聞かないよ!」


「それはそうなんですけど、実はですね。私も言われて使っただけで効果は知らなかったんです。そして、ここにジーナちゃんが居たのも偶然なんですね」


「は~? じゃあ誰に騙されたっていうの?」


「私の中にアメリアさんという方が居まして、その方が暗い道はこうして照らせば良いと教えてくれてですね?」


私は必死に言い訳を……まぁとは言っても真実の事なんだけど、とにかく誤解だと言葉を並べた。


だが、何故かジーナちゃんは私の言葉に固まり、私をジッと見つめたまま動かなくなってしまう。


「お姉ちゃん……?」


「え? いや、私は一人っ子ですが」


「そうじゃなくて!! お姉ちゃんの名前、言ったでしょ! さっき」


「え? あぁ、アメリアさんですか?」


「そう。お姉ちゃんと同じ名前、お姉ちゃんと同じ魔法! 貴女は何なの?」


「いや、何なの? と言われると困ってしまいますが、セシルですね。一応聖女をやってます」


「せーじょ?」


「はい。聖女です。傷を治したり、病気を治したり出来るんですよ」


「……お姉ちゃんと同じ」


ジーナちゃんはキュッと唇を噛み締めながら同じ言葉を繰り返した。


私はその迷子の子供の様な顔を見て、縋る様な目を見て、両手を胸の前で握り、自分の中に語り掛けた。


『アメリアさん。聞こえますか?』


『はい。聞こえていますよ』


『あなたには、ジーナちゃんという妹さんがいますね?』


『……はい』


私は思い切り叫びたい衝動を何とか抑えながら、解決する為の方法を模索し、胸の奥に生まれた光に触れる。


自分で意識して触れるのは初めてかもしれないが、これが魔法という力なのだという事はハッキリと分かった。


「現れろ……!! アメリア!!」


それは怒りであったのかもしれない。


寂しいと泣く子供を放置し、私と呑気な会話を続けてきたアメリアさんへの。


いや、もしくはこの苦しい世界で一人生き続けていたジーナちゃんへの同情か。


分からない。


もしくは私が抱え続けてきた何かをぶつけたかったのかもしれない。


「……うそ」


『これが奇跡ですか』


私は体の中にある物がごっそりと消えた様な感覚で後ろにふらつき、何処から現れたのか金色の大きな狐に体を預けながら、二人の再会を見つめる。


「お姉ちゃん……なの?」


『はい』


「どうして」


『……』


「どうして、帰ってきてくれなかったの?」


『ジーナはもう、空の果てに行ったものかと考えていました』


「私は!! ずっとお姉ちゃんを、探してたよ!!」


ジーナちゃんは泣きながら、アメリアさんを抱きしめた。


そして、アメリアさんもジーナちゃんを抱き返して、二人は言葉も交わさぬまま静かな時間を過ごしていた。


涙が溢れてしまうような光景だ。


「……はぁ。良かった」


『人間』


「わっ!? 狐さん。喋れたんですね」


『あぁ。これでも神と呼ばれているからね』


「神様でしたか。これは失礼しました」


『良いよ。お前もジーナやアメリアと同じ魔法使いなのだろう? ならば私たちの家族みたいなものさ』


「……家族」


『あぁ。お前も人間の世界では孤独だっただろうが「違います」……!』


「私はずっと大切な人たちと一緒に居たんです」


私は狐の神様に寄りかかりながら、右手を握りしめて涙をこぼした。


そう。居たのだ。私には大切な人が。


ずっとずっと一緒にいたい人たちが居たのだ。


最後の瞬間まで、共に歩んでいきたい人が。


『そうか。それは悪いことを言ったね。謝るよ』


「いえ。良いんです。きっと多くの魔法使いの人たちが孤独だったのは本当だと思うので」


今、目の前で抱き合っている二人を見れば、分かる。


どれだけ長い時をこの姉妹は引き裂かれてきたのだろう。


「だから、こうして二人が再会出来た事は、とても素晴らしい事だと思うのです」


『そうだね。そう思ってくれる人間が居て良かったと思うよ』


狐の神様は柔らかく優しい声を出すと、尻尾で私の体を上から包んでくれる。


背中には柔らかい狐の神様の体があり、お腹には狐の神様の尻尾があり、暗い森の中でも温かさを感じた。


そして、その温かさは私に強い眠気を呼び、何とか起きていようと目を開けたが、それも長くは続かなかった。


姉妹が穏やかな顔で語らう姿を見ながら、ゆっくりと落ちてゆく瞼をそのままに、私は深い眠りの中へ落ちてゆくのだった。




それから私はどこまでも広がる海の様な場所で一人浮かんでいた。


いや、一人じゃない。


周りには多くの人の気配がする。


温かく柔らかい声が聞こえる。


『セシルさん。貴女は本当に凄い人です』


あぁ、この声は聞いたことがある。


そうだ。オリヴィアさんの声だ。


『私たちの中にあった苦悩。アメリア様の大切な時間を奪ってしまった絶望。それをこんな形で救うなんて』


何か凄いことをした様な事をオリヴィアさんに言われるが、別に大したことはしていない。


ただ、嫌だっただけなんだ。


互いを大切だと思い合う人たちが離れ離れになるのは。


愛した人と永遠に会えない悲しみを私は知っているから。


だから……。


『でも、貴女のその優しさが、慈しむ心が、また貴女に苦しみを与えてしまう』


良い。


私は、もう大丈夫だから。


『貴女が新しく作り出した魔法は、貴女の命をまた、永遠に一歩近づけてしまう』


リヴィが居るから。


エリカさんや、アリスちゃんが居るから。


『永遠は貴女を孤独の世界に追いやるでしょう』


多くの人たちが居るんだ。


この世界には。


私の周りには。


『それに、世界は……きっと貴女を』


ヘンリー君やライリー君だっている。


だから私は、大丈夫なんだ。


『でも、私たちはいつまでも傍に居ますからね。貴女が歩くことを止める日まで』


私は温かい気持ちに包まれた世界で微笑みながら、海の底に沈んでいった。


深く世界の底に向かって落ちてゆく。




ここは魔力の世界だ。


世界の全てがここにあって、あらゆる命がここから生まれて、ここに還ってゆく。


そしてその中心には……。


「あなたは」


『……』


「そう。あなたはずっとここに居たのね。世界を……私たちを見ていた」


私は世界の中心で眠っていたその子に触れて、笑う。


神様……とは少し違うのかもしれない。


むしろ、好奇心旺盛な子供の様な……。


「そう。あなたも世界を見たいのね。なら……」


私は、瞳を閉じて一つの答えを導き出した。


「レイ」


始まりの名。


あなたから始まり、あなたに還る名を。


「いつか、また会いましょう」


そして、私は再び世界に戻る。


いつかここへ来る日を待ちながら。

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