【短編】美女が人生楽勝だと思ったら大間違い!真面目に頑張ったのに悪女として処刑なら、もう頑張りません!
あら? 痛くない。って、ウエディングドレス!?
断頭台の露と消えたはずが、結婚式!?
私は、自他共に認める絶世の美女。ただそれだけ。
後は平凡。
いったいなぜ、稀代の悪女として処刑されたのか。
聞いてください。処刑相手との出会いから。
「一目惚れです。踊ってくださいますか?」
人生初の舞踏会。
だれもが憧れる第二王子殿下が、私に手を差し出しました。
「来週、一緒にオペラを観よう」
さらに王家特別席で、観劇まで。
が、問題はここから。
「イベリア。王太子殿下との結婚が決まった」
「お父様。お待ちください。私は第二王子殿下が……」
「カノンは小さな国だ。スペアには未来がない。家のために王妃となるのだ」
スペアとは第二王子殿下の蔑称。
継ぐ城も、軍も、期待もない。結婚の自由さえない。
でも、それは私も同じ。
結婚相手を選ぶ自由なんて、私にもない。
結婚した夫は、ボサボサ頭で服装も無頓着。
ダンスもオペラも興味なしで、船が好き。
だけど、穏やかな陽だまりのように優しいのです。
夫は、時間を見つけては、乗馬を教えてくれました。
「いざという時、イベリアは一人でも逃げられなくては」
「なぜ一人で?」
「有事には、私は国を守る。イベリアが家族を逃がし守って欲しい」
カノンは、女が乗馬など許さない国。
乗馬は夫婦の秘密であり、信頼の証。
「イベリア。ともに強く生きよう。新しい国をつくろう」
「殿下についていきます」
森を駆け抜けながら、夫を支えようと誓いました。
「兄上。恋人をいつか奪い返してみせる!」
朝食中の、あまりにも唐突な第二王子殿下の宣言。
陛下、妃殿下、夫、私は、嚥下も忘れ、面食らう。
恋人??
「イベリアは弟が好きなのか?」
「いいえ?」
私は夫に、正直に答えたつもり。
愛してるのは夫、ただ一人だから。
第二王子殿下は顔がいい。でもそれは、夫も同じ。
ポテンシャルは高い。
私の好みに髪を整え、服装を変えると、令嬢の視線を釘付けにしました。
だから、第二王子を好きになる理由がないのです。
「イベリアと弟が一緒にオペラを観劇したの、母上も見たって」
隠してたわけじゃないのに、夫はショックを受けました。
「結婚前です。オペラを観ただけです」
夫は私を乗馬に誘わなくなりました。
そもそも夫も、大人の決めた結婚に従っただけ。
夫婦の絆は弱いのです。
そんな折に、妊娠発覚。
仕事もあり、夫は城に戻らない日が増えました。
なのにまだ、第二王子殿下は私を見つめる!
まだ十六歳と幼い私は、苛立ち、ついに爆発しました!
「殿下。おやめください。迷惑です!」
「無理しないで。政争に翻弄される辛さはわかるから」
「結婚したんですよ? 私は夫を愛しています」
「兄上より私の方が素敵なのに?」
モテモテで自信満々の第二王子殿下は、私の言葉を信じない。
もはや恐怖。
「なんと美しい王子だろう。愛しいなぁ」
長男が産まれると、暇な第二王子殿下は、毎日かわいがる。
「クス。どちらの種かしら?」
当然、妙な噂が囁かれる。
赤ちゃんを抱っこされるだけで、身の毛がよだつほど不快なのに!
自分が触られるよりずっと嫌なのに!
苛立ちがこみ上げて溢れてしまう。
子を守る獣の俊敏さで、私は山城を飛び出し、河に向かう!
鈍色のコートで息子と自分を隠し、港に下る船に飛び乗った!
「来ちゃった」
「イベリア!? 体は大丈夫なのか?」
「私も港で暮らします。城には戻りません」
「この監視塔は住居というより軍事施設なんだけど?」
「貴方と暮らせれば、どこでもかまいません」
「わかった。一緒にいよう」
夫と一緒にいられる。
それだけで私は、心底ほっとしました。
夫と監視塔の眼下に広がる景色を眺めます。
「イベリア。あれが建設中の造船所。見える?」
「大きいのねぇ」
「そりゃそうさ。大量輸送可能な帆船を自国製造するんだから」
「ホント、乗り物が好きねぇ」
「ワクワクするだろ? 運河の工事も見える? 物資を運搬する国の血管だからね。増やすよ!」
「好きなことしてる貴方を見るのは楽しいわ」
夢いっぱいで働く夫は素敵。
「乳母車を作ったよ。港は石畳で道がいいからさ。散歩に行こう!」
夫が作ったのは、羽枕を詰め、ダサいフリルをつけた手押しの荷車。
乳母車でスヤスヤ眠る我が子を横目に、お茶を楽しみます。
「港のクレマカタラーナは、オレンジピール入りなのね。おいしい!」
「イベリアが笑ってくれたら嬉しいよ」
私を喜ばせようとする、夫の愛情が嬉しくてたまらない。
ただ、時々、頭にくるほど夫は乗り物好き。
「あの船は帆を細かく分割してるだろ? 操帆が容易だったよ」
「まさか海賊船に乗ったの!?」
「うん。仲良くなって乗せてもらったんだ」
「王太子なんですよ! なんて危ない!」
でも、そんな貴賤のない夫だから、この港は海賊に襲われないのです。
活気ある港で幸せに暮らし、私は王女となる娘も生みました。
「造船所が完成した! 夢のカノンの大型船をいよいよ作り始めるぞ!」
整備された道も伸び、荷馬車も増えた。
寄港する船が増え、輸出品目も増えた。
私の夫こそが外貨を稼ぎます。なんて誇らしい。
そんな時に、事件は起きました。
「大至急、城に!!! 陛下が落馬されました!」
馬で山道を駆けのぼる!
「腰の大きな骨が割れたと思われます」
主治医の説明を聞くのは、妃殿下、第二王子殿下、私の三人だけ。
王国では、王の不調は極秘。
不穏な噂で、政治不安を引き起こすわけにいきません。
「陛下は治りますよね?」
妃殿下の声は震える。
「老いると骨は脆く、治りが遅く、命取りとなる場合が多いのです」
「命!?」
「歩けない。座って食事も出来ない。自力で排泄できない。心が弱るのです。もちろん筋肉も」
医者の説明に、妃殿下は言葉を失いドサッっと倒れた。
まず私は、城の出入りを制限。
「ありがとう。イベリアが城を取り仕切ってくれると安心するわ」
「骨折なら治るかもしれませんでしょう? たった三ヶ月で、王太子殿下は外遊を終え、帰国しますから。どうか、お気を確かに」
気弱になった妃殿下を支え、医者の指導を仰ぎ、陛下をお世話します。
「頭も心も変わってないのに身体が動かない。何一つ、自分でできない」
「キャッ」
焦燥の溜まる陛下は、動かせる腕で物を投げます。
「召し使いはいやだ。イベリアがいい」
平民は王族にふれてはいけない。
幼い頃から刷り込まれた矜持ゆえに、陛下は召し使いを拒否。
かといって、政敵にもなりうる家の娘である侍女には任せられません。
そして、医者の説明通り、陛下は寝たきりに。
上手く眠れない陛下のお世話に、昼も夜もない。
育児と似てても、軽い赤ん坊とは違い、お尻を浮かすだけで一苦労。
「私の腰も限界です。力仕事だけでも手伝ってください」
「みじめな姿を、父上も私には見せたくないだろうから」
実子である第二王子殿下は、陛下にふれもしない!
第二王子殿下がベッドに近寄るのは、医者の説明がある時だけ。
疲労とともに、沸々と第二王子殿下への鬱憤が溜まる!
やっと夫が帰国した時は、嬉しくてたまりませんでした。
「世話をかけてすまない。退位する。後を頼んだ」
陛下は、夫の手を握り、世話した私ではなく、夫に謝罪しました。
夫に託すと、一気に衰弱し息を引き取りました。
寝込んでいた妃殿下は、しっかり王妃として正装し、葬儀最前列に。
妃殿下も、夫も、第二王子殿下も、葬儀で涙をこぼします。
死んでから泣くなら、死ぬ前に一緒に過ごせばよかったのに。
なんて嘘臭い涙。私は泣かない。
やっと私も陛下本人も楽になったと、心から喜びました。
産後だったこともあり、私の髪はごっそり抜けました。
子にも会えずお世話し、しばらく身体から匂いは取れませんでした。
「誠心誠意、陛下に尽くしたのはイベリア殿下です!」
「私たちは見てましたから!」
荘厳な葬儀の裏で、私に味方ができました。
城で働く者たちです。
即位式の後の夫は、仕事に忙殺されます。
夫には優秀な側近がいます。しかし、身分が低く若い。
王太子なら問題ありません。
王となると、不満を口にする高位貴族だらけ。
「陛下は、お友達ばかりお引き立てになる」
「我々をないがしろにしてな」
カノンの場合、高位貴族とは軍を持つ家。
数百年も続く、異教徒に奪われた半島を取り戻す聖戦がありました。
聖戦での活躍から続く家が、高位貴族。
言ってしまえば、王家もその一つにすぎません。
つまり、王家に対する尊敬も忠誠も弱いのです。
「交易戦略会議に、老人がいると話が進まない。半世紀違えば、船舶技術も航海術も別物なのに」
二十二歳の若王となった夫がこぼしました。
翌日、覗くと、ちょうど若い議長が会議を始めるところ。
「こちらに用意しま……」
「なにがしたいのか説明しろ!」
視力が悪い老人は、資料を読まず、口頭での解説を求める。
「ですから……」
「あー。なんだって?」
しかし耳も悪い。
「聞いてください。ですから……」
「ワシをだれだと思ってるのだ! 若造が! 伝説に名を連ねる英雄を輩出した家門を軽んじる気かッ!!」
我慢ができず、すぐ感情的に唾を飛ばす。
高位貴族は、若い政権の勢いを、じわじわ削いでいきます。
「港で国を治める。もう足の引っ張り合いに時間をとられたくない」
「可能ですか?」
「大切なのは民だ!」
夫の城を捨てる決断に、高位貴族は猛反発し、大公の元に集まりました。
大公は、夫の即位時に臣籍降下した第二王子です。
「貴族に慕われなくて、なにが王だ。あんなのガキの遊びだ」
あろうことか実の弟が批判の先鋒となりました。
「大公率いる貴族派。貴方の王派。分かれてしまいましたね」
「邪魔されないだけで充分だ」
夫は、港で国造りを再開。
流通がさらに活性化し、順調に発展する三年後────
「シェヘラザードの軍艦だ! イベリアは子を城に!!」
「!?」
「城は堅固な要塞だ。子を守ってくれ!!」
海に浮かぶ強国の軍艦を横目に、山道を馬で駆け上がり、城に!
「大公殿下。シェヘラザード軍が港に!!」
「そうか」
「は? 貴族派の軍を動かさないのですか?」
「困った時だけ頼るなんて、虫のいい話だね」
国家の危機に役に立たない大公に、何の価値があるのか!
驚くことに、大公は状況把握さえしません。
数日して、夫が城に到着した時は、焦燥と安心で涙が溢れました。
「よくご無事で! 心配でたまりませんでした」
「軍艦は威嚇だけして去った。だが、子どもたちを城で守ってくれ」
「貴方は?」
「海軍を増強し、敵の出方を待つ」
「戦争?」
「勝てない戦争はしたくない」
蟻では象に勝てない。
確信するには十分な数の軍艦でした。
「どんな手を使っても早急に解決する。しばらく辛抱してくれ」
「愛しています。どうかご無事で……」
できるだけ、子にはのびのび生きて欲しいと願います。
敗戦となれば、王族は生きられないからこそ。
時間を大切に、前を向いて。
「お友達を探さなきゃね。同じ年頃の子を集めたサロンを開催して頂戴。王派と貴族派なんて対立してる場合じゃないわ」
城を離れていた私は、やっと自分が嫌われてると知るのです。
「王家の兄弟を弄び、仲たがいさせた悪女がよくもまあ、のうのうと」
と、大公に恋焦がれていた母親が。
「私は家を守りたい。だからこそ平気で不貞する女性が恐ろしいのです」
と、愛人を大切にする男と政略結婚した母親が。
「同居もせず、親をないがしろにして、葬儀でさえ泣かなかったくせに」
と、姑とバトル中の母親が。
「不貞など。どうか。根も葉もない噂を信じないでください!」
「ふふ。妃殿下を愛する美貌の男が二人。大変でございますね」
私の言葉は届かない。
ちょっと表に出れば、監視して粗探し。
弱みを見つけて、総攻撃するために。
ロイヤルファミリーの宿命としても、しんどい。
「妃殿下。学校をつくれば、王太子殿下に友達ができますよ」
「どこに??」
「城にはホールも聖堂もある。小さい子の相手なら簡単だ」
口だけ大公が、さも良い案をひらめいたという顔をします。
小さい子の相手の、どこが簡単なんだか。
小国のカノンに学校はありません。
屋敷に家庭教師を住み込ませるか、留学が一般的。
試しに、六歳から十一歳の貴族男児に限定し、生徒を募集しました。
「あらまあ! こんなに需要があったなんて──」
なんと入学申し込みは、四十二枚も!
慌てて各国からも優秀な教師を招きました。
「王妃ではありますが、私は学校を知りません。ご指導ください」
私自身が学校組織を学ぶところから始まりました。
「校長先生の話、長すぎ──。寝ちゃうからもういい──」
などと小生意気に生徒は騒ぐ。
気がつけば、私は校長先生と呼ばれていました。
しかし校長は急用が多い。理由は主に謝罪。
訓練の不注意、喧嘩、転倒、衝突。生徒は怪我しますから。
なのに、教職にある学者も武人も、貴婦人対応が苦手。
保護者に、怪我の理由、学校側の対応を、細かく正確にお伝えします。
入学前に怪我は起こりうるとお伝えしていても、わが子が絡むと保護者は厳しい。
生徒より保護者と話す方が摩耗し、謝罪帰りはいつも「もう辞めたい」と考えます。
でも。
「校長先生。学校が楽しいと喜んでいます。一人息子ですが、友達と喧嘩し、仲直りすることで成長しました。ありがとうございます」
真面目に生きていれば、認めてくださる方もいるのです。
わずか半年で、生徒は五倍に。もう止まれません。
対して、海軍を強化する港には奴隷が増えました。
ガレー船の動力は奴隷。
投石器も並び、もう子育てに適した環境ではありません。
そして、学校設立から二年も経ち、ついに同盟が締結しました。
「バレンシアの婚姻同盟ですって? まだこんな幼いのに?」
「王女と羊毛がシェヘラザードからの要望だ」
「女をハレムに閉じ込める国よ? 幸せになれるはずない」
「国が滅びて死ぬより、ずっとましだ……」
姫一人の犠牲で民の平和を手に入れたのだから、大成功。
頭では夫が正しいとわかる。でも私の娘なのです。
しかし、大国との同盟は、カノンに富をもたらしました。
カノンの羊毛の品質を認め、シェヘラザードは高値で輸入。
シェヘラザードは羊毛から、布や絨毯を織って世界に輸出。
ブランド化したメリノウールは世界中の貴族の大人気に。
また、軍艦用に奴隷を増やした影響も大きい。
人力増強によって、農業、工業、交易も活性化しました。
「どんどん豊かになるな!」
貴族派であっても、王の経済成功を賞賛する声が増えます。
「山が多い領地は、羊に適してるからなぁ」
名ばかりの宰相になっていたお父様だって、羊毛生産に積極的に。
そんな時、異国で大噴火────
影響を受けたのは、噴火の西側の国。
火山灰が天に広がり、長く雨が続く。
温暖なはずのカノンは太陽を失い、凍える冬に。
次に、カノンを襲ったのは日照り。
造船のため伐採を繰り返したせいもあり、恐ろしい水不足に。
「貴方。お金はあるでしょ? 今こそ、異国から食料を買って」
「無理だった。食糧難はカノンだけじゃないんだ」
夫は、貴族にも頭をさげました。
「収穫できた領主は、麦を城に運んでください。国全体に分配します。みなで生き残るために!」
「残念ですが、余分な麦などございません」
貴族は拒否し、己の備蓄に回す。
地獄は、噴火のあった冬ではなく、翌冬でした。
弱い人から死にました。
特に港側は、奴隷による急激な人口増加の影響もあります。
命はどんどん軽くなりました。
「贅沢は罪だぁ────ッ!」
「奪え────ッ!」
飢えた民は、貴族の馬車を襲う。馬だって危機には食料だから。
「悪いのは王家!」
「憶病な王が異教徒に国を売ったから!」
己を守るため、貴族は怒りが王家に向くように煽動。
異教徒と婚約した幼いバレンシアが殺された───
「どこまで自分本位なんだぁ────ッ!!!」
ついに穏やかな夫が、怒りを爆発させる!
翌年の収穫の時期が過ぎると、始まったのは内戦。
王派対貴族派。
死んだのは、先頭に立って戦った夫。
老人と侮っておいて、負けたのです。
王位は幼い王太子に。実権を握ったのは大公。
大公が始めたのは、兄である先王の痕跡の消去でした。
まず異教徒との交易を止める。
先王派の優秀な人間を追放し、政権の要職を高位貴族で独占。
「残念ですが、カノンとの関係はもう終わりにさせて頂きます」
交易は商売。
傲慢な貴族の老人によって、交易相手は次々いなくなる。
外貨を得られない国家財政は、一気に悪化。
「商船が積み荷ごと海賊に奪われましたあ────ッ!!」
そして、夫の夢まで失った。
「あ─あ。先王の頃はよかったなぁ」
不景気の中、上り続けるのは先王の評判。
焦り憤る大公は、不満の受け皿として、嫌われ者の私の処刑を決めました。
「イベリアは私を好きだったろ? 私の物になるなら助けてあげるよ?」
「結構です」
「もう兄上は死んだんだよ。私がいるよ?」
「死んでも御免だわ」
「なら死んでもらうしかないね……イベリアは最後まで酷い女だったな……」
断頭台に石が飛んでくる。
「内戦を引き起こし、国を傾けた悪女めぇ────ッ!!」
はい。ここからやりなおし!
結婚、同居、育児、介護、仕事。
前回は、かなり頑張ったのよ?
でも処刑エンド。だから今回は頑張らない。
真の悪女として生きていく!!
とりあえず、結婚式の夫は、かっこよすぎるから、隠さなきゃね。
とっとと夫を寝室に引っ張り込む。
「第二王子殿下とダンスし、オペラ鑑賞しましたが、それだけ。まったく興味はございません。愛してるのは貴方だけ」
「う、うん……」
先に、後ろ暗い気持ちはないと宣言!
結婚式だからと、しっかり決まった夫の髪をボサボサに!
イメチェンしない!
そして翌日は、第二王子殿下の元へ。
前回の噂通り、二人の男を転がしてみせます!
「第二王子殿下。私が好きなら、オレンジの木を十万本植えてください」
「へ? オレンジ?」
「口だけの男なのですか?」
「あ?」
「汚れ仕事はできません? 殿下の本気を、行動で見せてください!」
「やってみせよう!」
「信じてますわ!」
十六歳の第二王子殿下はまだ素直。
前回、草より木の方が、水不足に強かった。
麦はダメでも、オレンジは収穫できたの!
翌日、港に引越し。
噂の元となる、同居は致しません!!
「貴方、造船で木を切ったら植林しないと。森は大切です!」
「そうだな!」
「私は羊をとことん増やして、何年も熟成させるハードチーズを作ります! ジャーキーも!」
「アハハ。イベリアも楽しそうだな!」
保存食生産開始!
バレンシアを妊娠すると、城にて出産!
「陛下。ご覧ください。孫です。陛下は、もう御爺様なのです。馬には乗らないでください!」
「そうか?」
落馬事故回避。よって介護回避!
開校はする。息子が喜んだから。
「イベリア。十万本のオレンジを植えた! 民も天候も、思いのままになんかならなくて、凄く大変だったけど」
色白で、ひらひらした絹をまとい、オペラ鑑賞が趣味だった第二王子は、見違えるほど精悍に!
「さすが第二王子殿下。でも実際に植えたのは民でしょう? 今度は校長先生として、第二王子殿下自身の人徳を、見せつけてください!」
「任せてくれ!」
第二王子から、愚痴っぽさもなくなった!
それでも、やっぱり敵襲はあった────
「シェヘラザードの軍艦だ! イベリアは子どもを城に――ッ!!」
「いいえ。軍艦に乗船し、交渉は私が。子どもたちをお願いします。必ず幸せにしてください。殿下。離婚しましょう」
「へ?」
「私は絶世の美女です」
「は?」
「和平同盟を結んでください。人質として、この美しい私がハレムに入りましょう」
「ハハハ。国を捨てるか。よかろう」
やった! 娘を守れた! 嬉しい!
そして、夫と最後のキスをする。
「国を救った女神だ」
「いいえ。真の悪女よ?」
噴火もやっぱり起きた。
オレンジ、チーズ、ジャーキーで、だいぶマシらしい。
なにより陛下が存命だから、政情が安定してるしね。
結局、第二王子の暇が問題の根源だった。
暇だから噂を広め、働く辛さを知らないから批判する。
口ばっかりで、人の失敗を許せない。
大人なんて充足感や達成感より、消耗する方が多いのに。
でもね。二度目の人生は、幸せなことばかりだった。
ハレムの生活だって悪くないしね。
寵愛は一切ないけど、毎日ごろごろして、ご馳走食べてる。
ただ、やっぱり、家族に会いたい────
すると、夫が迎えにきた。
「羊毛とイベリアを交換した。寵妃になんて、なれなかったんだろ? 絶世の美女もたいしたことないな」
「だって、貴方じゃなきゃ」
「うん。うん。私もだ。イベリアじゃなきゃ嫌だ」
元々好みなのに、渋みも増した夫が微笑む。
「貴方は、大人の決めた結婚に、従っただけだと思ってたのに」
「結婚式で誓ったじゃないか。病める時も健やかなる時もって。白髪になってもずっと一緒にいたい。愛してるよ」
「私も、一緒にいたかった……」
「女神の帰国だぁ────ッ!!!!」
帰国すると、こそばゆい歓迎をされた。
そして、ついに私は、家族と寄り添って生きられた。
幸せ。
お読み頂き、ありがとうございました!
この作品は夫婦愛がテーマで、長くなってしまいましたが、最後まで読んで頂いて、凄く嬉しいです!!
本当にありがとうございました!
もし面白いと思って頂けましたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願い致します。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直なご感想を頂けると、めちゃめちゃ喜びます!
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