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帰ってきた麻由


実に「しん」とした部屋だ。

目の覚めた麻由は、どこかの病室にいた。


 どうやら、現実世界に帰ってきたようである。ここには、本当のママがいて、自分にとっての現実がある。


 ……思えば、「長野に帰りたい」という麻由の意識は、現実世界への渇望だったのかもしれない。


 ともあれ、麻由は帰ってきた。ここには本当の友達もいる。

戻るべき場所に戻ってきたんだ。

……麻由は、どこかそう自分に言い聞かせるように心で唱えた。


 病室には誰もいない。誰もが寝静まっている時間帯なのかもしれない。


 現実の病室の床にて、麻由は、自らのここ数ヶ月の数奇な生活を振り返った。

こっちの世界には、自分を待っている現実があり、自分を待っている家族友達がいる。

……それは、向こうの世界も一緒だった。第一、パパがまだ向こうに取り残されたままだ。

パパは一人で帰ってこれるだろうか。


「グア」


 ふと、声がして、見上げると、空中に巨大なカエルの顔があった。


「……マユちゃん?」


「ギョロロアンギャ」


「お別れを言いにきたの?」


「グア」


 麻由は、手を伸ばして、カエルの頬に触れた。温かい。

やがて、カエルの頭の奥の方から声が聞こえてきた。声が遠すぎて聞き取りづらいが、断片から……


「所長! ゲート閉じません!」 「カエルがゲートを塞いでます!!」


 ……と聞こえる。


「馬鹿もん!! このまま怪異たちが麻由を追って現実世界に入り込んできたら、世の中は大変なことになるぞ!!」


「しかしこれは現実にはあり得ないことでして……」


 何やら大変そうだ。


「グア」


 麻由は、自分の居場所……正確には、居るべき場所について考えた。


 虚構だろうが、なんだろうが、本来7丁目までしかないはずの松原8丁目は、麻由の居場所だった。

自分になついてくる、ヘンテコな怪異。

そして、頼りないパパ。

だが逆をいうと、いくら自分の居場所であろうとも、それは虚構に過ぎないのだ。

ここが、自分の居場所。……と、思えば思う程に、

麻由は8丁目のなかま達が恋しくなってしまった……。


 黙って出て行ったら、みんな悲しむかもしれない。


 だから、麻由は少しだけ起き上がる。まだ体がうまく動かせない。

体がだるい。

それでも上半身をお越し、傍に置いてあるサイドチェストと、都合よく置かれた落書き帳に、

麻由は、しばらく考えた後、筆を走らせた……。


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