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黒鉄の目的。


親父が生きている……?


 足早に自宅の庭に走る宏明と麻由。それから宏明にたかる拳大のバユの群。

夕方過ぎに二人と数匹が庭で目撃したものは、それこそ異様な景色だった。


 庭の一角にある木の小屋『マユちゃん』の小屋から、15色のランダムな光が室内で発光している。

小屋の周りには、学校の椅子、宏明の愛読書、麻由のランドセル、宏明の自転車、

そう言った二人の私物が螺旋を描くように宙に舞っていた。


 そして超次元的な力を演出しているのか、うぉんうぉんうぉん、と、なんとも形容し難い聞きなれないハム音? のような音が響き渡っていた。

空にはは夕方過ぎで、一番星が顔を覗かせていた。


 麻由と宏明が、あんぐりと口を開けてその様を眺めていると、夜空をスクリーンに巨大な顔が映し出された。サングラスをしていて、空から二人を見下ろしている。


「あ! 地下のおじいちゃん!!」


 麻由は指を刺した。

隣で宏明は震えていた


「……親父……」


 巨大な顔は、サングラスを指でいじりながら、


「やれやれ……」


 と言葉を漏らした。


「あのパンダは誰がプログラミングしたんだ全く。操作しにくいったらありゃしない」


 おそらく独り言のようである。


「親父! これはどういうことだ! 俺はあんたの喪主まで務めたんだぞ!」


「みてたとも。相変わらず段取りが悪いなお前は」


「何を!」


「おじいちゃん! 生きてるの!?」


 麻由が親子の喧嘩に割って入ると、黒鉄は小さくため息を漏らしてゆっくり語った。


「麻由ちゃんのためだったんだ。

 でもちょっと、おじいちゃんは悪ふざけが過ぎちゃったんだな。これも麻由ちゃんのためを思ってだったんだ。許してくれ」


「どういうことなの?」


「麻由ちゃん。そこそろ、こっちに帰っておいで」


「こっち?」


 すると、黒鉄の後ろから騒がしい声が聞こえてきた。うまく聞き取れないが、

『所長!』 『もう限界です』とか、そう聞こえた。


 すると突然、『マユちゃんの小屋』が爆発し、粉砕した。

宏明と麻由は、15色の光に飲み込まれた。






 ……そこからの光景は、夢を見ているような、あるいは、

夢の中で映像を見せられているような感覚だった。


 黒鉄が、庭に立ちすくみ、空に手を上げて泣き叫んでいた。

声は聞こえないが、

口で、


「麻由ちゃん!!  麻由ちゃん!!」


 何度も麻由の名前を空に向かって呼んでいるのがわかる。


そして、眩しい白地に文字が浮かぶ。


 麻由に、会いたい。麻由に、会いたい。マユちゃん……マユちゃん……



 突拍子もなく、画面は変わり、次は現実的な景色が眼前に広まる。

臨場感が凄まじく、目からの情報だけではなく、例えば雨が降っている冷たさ、草木、土が梅雨に濡れる匂い。

焦げたエンジンの匂い。

雨の音。車の音が聞こえてきた。

そこは、麻由の記憶にもある、長野の山だった。


再び、白地に文字が浮かぶ。


 長野県、飯田市伊豆木の山道で自動車事故。カーブ曲がりきれず横転。雨による視界不良か。

父、娘意識不明。


 ……冬なのに鈴虫が鳴いている。松原8丁目、鈴木家の庭である。

目が覚めた二人の前に、あの木の小屋は無くなっており、

代わりに光を放つ扉が立っていた。


 あたりに、黒鉄の声が響く。


「麻由ちゃん。そろそろ帰っておいで。おじいちゃんも、ママも、みんな待ってる」


「え……」


 するとそこに……


「麻由ー? 晩御飯できましたよー!!」


 靖子の声が響いてきた。


「いかん!! あれはママの声ではない! 君をここに押しとどめようとする防衛プログラムだ!!」


「え?」


 すると鈴木家の勝手口が開き、エプロン姿の靖子が現れた。張り付いた笑顔だ。


「早く来い麻由ちゃん! ゲートはそんなに長く開けないのだ!」


「え、え」


「麻由ー? 遠くに行かないでくださいよー?」


 靖子が近づいてくる。

 

「うわーーー!!」


 そこに宏明が靖子に駆け寄り、8本の腕で靖子を抑えた。


「パパ!?」


「行け! 麻由! 行くんだ!!」


「でもパパ!!」


「俺はいい! 一歩踏み出せ!!」


「麻由ちゃん急げ!!」


 靖子は、宏明の腕を一本一本、振り解いていく。凄まじい怪力である。


「いーたい! 痛い! 痛い!」


「邪魔しないでくださいます? 宏明さん」


「ま、ま麻由! 靖子強い! あまり長くもたない!」


「麻由ちゃん! くるんだ!!」


「バユン バユン バユン」


 麻由は、目を閉じて、 光の扉の中に飛び込んだ。


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