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新しいパパオーディション


「パパが動物園に引っ越しちゃったの!」


「そう。じゃあ新しいパパを選びましょう」


 その日の夕刻、テナントビルの動物園から帰ってきた麻由と靖子は新幹線のぞみもびっくりな超高速展開を見せた。


「やだ! パパがいい!!」


「でも、新品のパパですよ。なんでも新品はいいものです」


 靖子には一連の話がすでに飲み込めており、『新しいパパ』を決める手筈を整えていた。 

まるで、冷蔵庫のマヨネーズが切れたから新しいものを買いに行こう、と言う時とまるで同じ言い回しだった。

靖子にとって宏明とは、冷蔵庫のマヨネーズほどの価値しかないものだったのかもしれない。麻由は途端に悲しくなった。


「そうだ麻由。せっかくだから一緒に新しいパパを選びましょうか」


「やだ!」


「まあまあそう言わないの。こうしましょう。お庭で『新しいパパオーディションin松原』を開くんです。

 きっとご近所も賑わいますわよ」


「やだ! どうせペンギンとバルちゃんしか来ない!!」


「あらあら。ペンギンもザリガニも麻由は好きでしょう?」


「好きだけど! 友達として好きなの! パパじゃやだ!!」


「あら。麻由、その考え方は前時代的すぎますよ。今は多様化が進んで一緒に住む家族を手軽に決められる時代なんです。

 そう言う時代を麻由は生きてるんですよ。喜ばしいじゃない」


「麻由はパパがいいの!!」


「駄々をこねないの。まあ一度選んでみましょう」


 そう、靖子が言ってからの展開はさらに早かった。靖子が鈴木家のSNSを屈指して、

『麻由の新しいパパ募集、明日夕刻。会場鈴木家庭。学歴不問。年齢不問。人種、怪異種不問。清潔な方に限る』と雑な一文を発信した途端、

2300通の応募が来たのだ。

 靖子はその応募を一人で全部目を通し、10数名が書類審査をパスした形となった。

そして翌夕刻。『二代目鈴木家のパパオーディション』が庭にて本当に開かれてしまった……。


 トップバッターは、書類審査に落ちたものの、敗者復活戦を勝ち上がってきた春崎藤右衛門。

実技試験という名のアピールタイムでは、『子別れ、芝浜』という、落語家さんが真打に昇格した時に披露する2大巨頭の長話を、

合計して3分に短縮するという離業を披露したが、なにぶん麻由にはその凄さが伝わらなかった。


 次は、同じく書類審査に落ちたものの皇帝権限でオーディションに参加した、

すでに家に居着いている皇帝ペンギンである。


「どうも。皇帝ペンギンです」


「はーい、じゃあ皇帝ペンギンさん、麻由にアピールしてください。」


 当日は、靖子が司会進行を務め、10人の二代目父親志願者が新しい麻由の父親の座を狙って争うこととなった。


「ペンペンお父さんはね、千代子のためにユーチューバーを目指すよ!」


「それは、どんなユーチューバーですか?」


「今流行りの、『節約系ユーチューバー』です!!」


「わかりました。では、麻由に実演して見せてください」


 靖子が、仮設されたPAブースに合図を出すと、フリー素材の音源が流れた。


「こんにちはー。節約系ユーチューバーのペンペンでーす。

 今日から、1週間5千円生活を始めたいと思います。 

 じゃあ、一日目、行ってみよー。

 冷蔵庫の中をチェックします。

 ……何もないので今日は買い物からです。

 お腹が空いているので、外で食べましょう。今日は、お寿司の気分なので銀座の花鳥風月本店さんにきました。

 ランチタイムで4000円。安ーい!

 ……えーと、冷蔵庫は増えたかな? みてみましょう。

 ……何もありませんね。妻を叱りつけましょう。コラ!! 照美やい!! 

 お金が残り1000円を切っているので、娘からお小遣いをせびりましょう。

 千代子!! 明日のおやつは抜きだよ!! 現実を受け入れなさい!」


「はい! 実技試験はここまでですー。 10人もいるからテンポ良くまいりましょうね。

 次の挑戦者の方ー」


 ペンペンが退場した後、現れたのは、

筋骨隆々な、アイルランド系米国人男性だった。

その体躯は相当立派なものだ。上半身は冬だというのに皮のベストの下は裸で、

ダメージジーンズを履きこなし、立派な髭を生やしている。


「チャック・ノリノリです。特技は回し蹴りです。もちろん、チャックは全開です。

 座右の銘は『社会の窓を開くとき、社会からの窓は閉ざされる』です。」


「では、麻由に向けてアピールしてください」


 すると、チャックと名乗る男性は、腕立て伏せをした。


「私は今、腕立て伏せをしていますが、腕で体を持ち上げているのではありません。地球を押し下げているのです……」


「……どうですか?麻由」


「筋肉っぽい人苦手……」


「はいチャックさんありがとうございましたー。次の挑戦者の方どうぞー」


 チャックが退場した後は、なんの脈略もなく人型のサイボーグが現れて、


「アイヤアアアア!!!」


 と、奇声を発しながら敷地内を荒らし回り、残りの6人の挑戦者を薙ぎ倒して、

鈴木家、隣家の佐藤家の一階を走り回って穴だらけにした後、


「イヤアアアア!!!」とどこかに消えてしまった。


「えーと、残りの挑戦者の方はノックアウトされてしまったので退場扱いですね。

  ご参加ありがとうございました。さ、麻由、誰がいい?」


「みんなヤダよ!! パパがいい!!」


「そう……じゃあー……」


 靖子は、数秒間考えた末……


「この4名は全員合格にします! 麻由をよろしくお願いしますわね」


「え! 待ってよ!! パパは!?」


「この4名様が新しいパパですよ。仲良くしなさいね麻由」


「やだよ!! 話が難しいバルちゃんも、お小遣いを勝手に使うペンギンも、筋肉も、サイボーグもやだよ!!」




鈴木家の庭に、麻由の孤独な叫びがこだますのみだった……。



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