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新しい友達。


鈴木一家が、新居となる世田谷区の松原に到着したのは、小雨の降る夏の終わりだった。


「お、ここだここだ。ついたぞ」


「まあ! 立派なお庭!! ね! 麻由」


「んー」



鈴木宏明の父、黒鉄から相続した家は住宅街の一角にあり、十数年前に改築をしたばかりで家自体は比較的新しく、

父親が亡くなってからはご近所の方のご好意で家の掃除から庭の手入れをしていただいたみたいである。

確かに立派な庭だ。確か、庭になる前は元々父親の持ち物で、賃貸物件だったはずだ。

それを、老朽化だったかなんだったか……の理由で取り壊し、新しいアパートを建てるでもなく、駐車場にするでもなく、

自分の家の庭として残した。

よって自分の家より広大なスペースを有している。


駐車場にすれば手入れも楽だしお金になるのになあ。


と宏明は思っており、実際いつかはそうするつもりなのだが、

遺言状によれば庭を改築したら父親が化けて出ると言う脅し文句が書いてあったので、後々考えることにした。


「夏はおっきいプールが置けるな。麻由」


「んー……」


麻由は小学2年生で、長野のお友達とお別れして東京にやってきた。

すぐ新しい友達ができるよ。と宏明は言ったが、そんなものは大人側の都合の言葉である。

というのは、宏明の職場は東京にあるが妻の実家が娘を自分の身から離そうとせず、仕方がないので宏明が東京に単身赴任していたのだ。

それが、父が亡くなった途端に義母さんの気が変わり、一家で東京に引っ越す許可を頂くくだりとなった。



車をガレージに入れ、各々手荷物を置いたらまず一家で庭を探索することにした。

足を踏み入れてみれば、

やれ枯山水や、立派な杉の木が置いてある庭然とした庭ではなく、

それはどちらかというと、空いた広い土地を持て余していると言う印象の庭、と言うより芝の生えて閑散とした土地だった。

宏明にはますます、駐車場にしない意味がわからなかった。

唯一のアクティビティと呼べそうなものは、庭の隅に建てられた小屋だ。


父親の手作りだろうか?小屋というよりか、大きめな犬小屋という佇まいで、大人が一人、中腰で収まることができる大きさの、木製の小屋だ。

外には「マユちゃん」と書かれた、やはり木の看板が屋根に取り付けられている。

娘のために父が作ってくれたのだろう。それなりに丁寧な作りだ。


「入ってみて。麻由」


妻の靖子はさっきから一人で楽しそうだ。新しい生活に興奮しているのだろう。


「うん」


麻由はゆっくり、「マユちゃん」の小屋に入り、中で体育座りをした。


「どう?」


「暗い。土の匂いがする」


麻由は、喜ぶでも、嫌がるでもなく淡々と感想を述べた。

妻の靖子は、広い庭と、新居に目を向けた。


「これからここで家族で暮らすのね」


「うん」


「長野とは勝手が随分違うわねきっと」


「うん」


「麻由、頑張れそう?」


「……うーん……」


麻由は不安そうに答えた。

多感な時期の子だ。麻由は、友達作りが得意な方ではない。まして、長野の友達以外の同年代の子と話したことがない。

不安でいっぱいなのだろう。

宏明は、麻由が新しい地で新しい生活に順応し、平和に育ってくれることを祈った。




その祈りは、宏明が想像もしてなかった形で叶うこととなる。






1週間続いた雨の夜の事、家から少し離れたところに、麻由のような女の子が傘をさして立っていた。

近づいてみればそれは麻由だった。

仕事終わりで駅から歩いてきた宏明を、出迎えてくれたのだ。


「おかえり!!」


麻由はすっかり元気を取り戻したようだった。宏明は麻由がもう生活に順応したのか。若さとはすごいな。と感動していた。


「ただいま。寒いのにありがとう」


「パパ!!きてきて!!」


麻由は宏明の手をひく。


「どうしたの?」


「友達ができたの!!」


やはり宏明の心配は杞憂だったようだ。今夜は娘の新しい出会いを祝して乾杯でもしよう。




と、思っていたのだが……





「え…… …… ……」




「みてみて!新しい友達!家に来てくれたの!!」


「え…… ええええ!?」







『友達』は、まん丸い目を宙に向け、巨大な口を半開きにしたまま微動だにせずしゃがんでいた。

それは、体長1mを裕に越える巨大なヒキガエルだった。

雨に濡れるのを気にする事なく、そして宏明の視線すら気にせずただ、「どしん」と、鈴木家の庭にそれは立っていた。

まるで、はるか昔からこの地にいたかのようだ。


唖然と、若干下顎を痙攣させながら目の前の怪異を眺めていると、カエルの方がようやく麻由と宏明に気づいたようで、



「グア」


と声を出した。

麻由は大喜びである。


ヒキガエルの手を掴んだり、頭を撫でたりするが、カエルの方はそれを全く気にしていない様子だった。



「ねえねえ、あなたのお名前は何ていうの?」


「…… ……マーーーユーーー」


「あなたもマユちゃんっていうの!?私と同じ!!」


「グア」


「あれ?パパ?」


宏明はいつの間にか失神していた。



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