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宏明の受難 下



「なるほど。話はわかった」


気力の限界点にて、宏明はなんとか喋り出した。


 鈴木家のリビングに一家全員集合した。この時間に全員集合するのは初めてのことである。

麻由はすでに眠気のあまり船を漕ぎ始めていた。

麻由が椅子から落ちないように、猫の怪異が麻由とプリンちゃんを抱えて座っている。


 ペンギンを2階から引き摺り下ろし、家族全員席に着くまで実に1時間30分を費やした。

まず、誰がどこに座るのか席順でモメたのだ。

主に宏明と皇帝ペンギンのどちらが靖子の隣に座り、どちらがテーブルの向かいに座るのかの問答で1時間を使ったと言っても過言ではない。


宏明はこのペンギンとの対話にうんざりしていた。

気力の限界点にて、宏明はなんとか二言目を絞りだした。


「こうしよう。この馬鹿猫を連れてどこかに去ってくれ」


と、言った途端に猫のビンタが宏明を襲った。


……先ほど『話はわかった』となんとなく雰囲気で言った宏明だが、正直なところわかった事は、

この皇帝ペンギンは我が家を、自分の家だと思っていて、

靖子を『照美』だと思っていて、

麻由を『千代子』だと思っていて、

馬鹿猫を『達郎』だと思っている。それが全てだった。


「これじゃあ埒があかないよ! なんか言ったらどうなんだい!」


と、言ったのは、靖子の隣にふてぶていしく座っている皇帝ペンギンだった。

さっきから話がお互い平行線で一向に交わらない。


ペンギンは、『腹が減っている』と靖子に言い、靖子も靖子で、どう言う訳かペンギンのためにうどんを茹でた。

ペンギンはものの10秒で一杯の素うどんを平らげ、それでも空腹が抑えられないといい、明日の分の麻友のおやつを平らげ、

それでもまだ腹が減っていると言うので、カップラーメンにお湯を注いで2分と待たずに食い始め、

二口ほど口に入れると『腹が一杯になった』と言って、食いかけのカップラーメンの蓋をテープで止めて冷蔵庫に入れた。


それで自分でお茶を入れて一口のみ、ゲップを出した。


俺より俺ん家でくつろいでる……宏明は一連の皇帝ペンギンの動作を黙ってみていた。

そして誰一人として、皇帝ペンギンの自由すぎる振る舞いに意見するものはいなかった。

靖子はなんだかまんざらでもなさそうだし、

麻由は半分寝ているし、

猫は怯えて震えていた。


宏明は鈴木家のリビングにいながら、心は違う宇宙を漂っていた。

それも宏明の想像もしたこともない類の宇宙だ。


この数週間で宏明は、それでこそ自分が知っていた常識が実は常識ではなかったのではないかと思わされる体験をしてきたわけだが、

それでも自分の理解できる宇宙空間にすっぽり納まる範疇のことだった。


このペンギンに関しては違う。

この宇宙空間は、なんというか……『プルーロストルームに立つときスパークゴアリズムがマヒャビッド回転する』のだ。

つまり意味がわからないのである。


別に、『プルーロスト宇宙空間』が存在すること自体は宏明にとって一向に構わない。

ただ、『宏明がプルーロスト宇宙空間を遊泳しないといけない』となると話は180度変わってくる。

具体的に、思考を停止するわけにはいかなくなるのだ。

何せ、その宇宙空間ではスパークゴアリズムがクァロロッサ指数に従ってマヒャビッド回転を週ポでダヴィルるのだから。


意識の臨界点にて、宏明は言葉を絞り出した。


「靖子さん……なんとか言ってやってくれ」


「そうね。みんなで仲良く暮らせばいいんじゃないかしら」


なぜ!?


なぜそうなる!?

宏明は混乱した。

同じ宇宙の住民だと思っていた靖子でさえ、怪異に侵食されてしまったのだろうか。

これも自分の長い単身赴任生活のせいなのだろうか……


もしかしたら、この世界は幻で今頃俺は病院のベッドで夢でもみてるのではないか。



……それとも、俺がおかしいのか!?

俺が三十余年思っていた常識は実は間違えてるのか!?


宏明の気力は限界を越え、リビングのテーブルに突っ伏した。


「話は終わったかね。」


皇帝ペンギンが、『靖子の歯ブラシ』を使ってクチバシを磨いている。


「じゃあ私は寝るとするよ。おやすみ千代子、達郎、照美。そして君はー……

 間男だから『マオちゃん』だ。おやすみマオちゃん」


鈴木家の主人は、この瞬間を以って『間男のマオちゃん』になった。

宏明はアイデンティティの上で消滅してしまった。


家族会議はペンギンの号令で解散し、照美は千代子を2階に連れて行き、

皇帝ペンギンは『寝る前の内臓運動』と言う背骨を無視した上下運動を行ってから寝室に消えた。


リビングには、抜け殻になったマオちゃんと、達郎が残った。


達郎はじぃ……っとマオちゃんを眺め、


「シャメニンゲン(ダメ人間)」と捨て台詞を吐いて二階に登っていった。


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