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異世界と関わるんじゃなかった

作者: Mr.後困る

「異世界から勇者を召喚する? 正気ですか?」


王宮の謁見の間にて

カルゾー王国の将軍、 ドン・カルストは怪訝そうな眼で国王のカルゾー14世に尋ねた。


「お前達が魔王軍を倒せていないからだろう」

「当たり前でしょう!! そもそも軍の予算が全く持って少ない!!

その上人員すら足りていない!! 兵を育てても優秀な物は近衛兵で持って行く!!

これでは軍備拡大も出来ないではありませんか!!」

「そう怒鳴るな」

「怒鳴るなではありませんよ!! 一体どれだけの兵が魔王軍との戦いで死んでいるのか!!」

「案ずるな、 勇者が召喚してから一時軍を下げ兵力を蓄える事にする

そうすれば軍備の拡充も出来るであろう」

「・・・・・我が国の軍が下がれば勇者は孤軍奮闘する羽目になると思いますが

その勇者とやらは頼りになるのですかな? 我が軍よりも」

「うむ、 伝承によれば「伝承!?」


ドンは大げさにリアクションを取りながら驚いた。


「はぁー、 これはこれは驚いた!! まさか根も葉もない言い伝えに

国家の一大事を委ねるとは!! 陛下の胆力に私驚嘆を隠せません!!」

「そう褒めるな」

「褒めてませんよ、 何ですか伝承って、 そこの根暗魔術師に何か吹き込まれたんですか」

「・・・・・」


宮廷魔術師のメデセルスは俯いていた。


「伝承によれば『勇者の力は凄まじく魔王を屠る』と」

「あやふやですねぇ!! その勇者とやらがどんな方が知りませんけども

一人が一軍に匹敵する訳ないでしょう!!

山を個人でぶっ飛ばせる人間が居ますか!? 居ませんよねぇ!!」

「ドン将軍、 さっきから失礼ではないか?」


近衛隊長のケセル・ティアーズが制する。


「はっ!! お前の様な体で陛下を誑し込んだようなふしだらな女に言われたくないね!!」

「何だと?」

「止めろ、 お前達」


カルゾー14世が更に制する。


「いずれにせよ、 決定事項だ、 もう準備も出来ている

お前も一軍の長だからとりあえず伝えた」

「決定事項!? はぁー!! 私には議論に参加する事も許されないんですか!?

国の為に最前線で戦っているのに!!」

「幾度の呼び出しに来なかった男が何を言うか」

「・・・・・」


流石に国王の呼び出しを無視していた事をつつかれ気まずくなるドン。


「・・・・・分かりましたよ、 但し、 私はこれには反対したと覚えて下さい!!」


ドンは謁見の間を立ち去った。




「・・・・・何なんですか、 あの人」


カルゾー14世の横に居たレルゾー王太子が尋ねた。

彼はドンと初対面であった。


「あぁ、 アレはカルスト公爵の三男坊だよ、 コネで将軍になった様な男だよ」


カルゾー14世は吐き捨てた。


「カルスト公爵ですか・・・お母さまの生家の」

「あぁ、 元々かなりの力を持った家だからな、 上の二人は優秀な人材だが

奴だけは腕っぷししか誇れる物が無い低能だからな」

「若い頃は本当にカッコいい人でしたけどね、 今じゃあただの老害ですよ」


ケセルが追従する。


「・・・・・」


メデセルスがその場から去って行く。


「・・・若い頃ってあの人何歳ですか?」

「45」

「その歳でまだ最前線にいるんですか!? 軍人の定年は35ですよね!?」

「名誉職に就かせようとしても固辞してる

まぁ流石に今は剣は振るわず本陣で作戦を出してる

が、 大層無能だから碌な戦術取れない」

「戦術云々では無い」


ケセルの言葉を補足するカルゾー14世。


「奴の軍は全員が剣で武装している」

「・・・? それはおかしい事では無いのでは?」

「城なら分かるが屋外ならリーチが長い槍、 槍よりもリーチが長い弓が基本だ

にも拘らず矢の代金を渋る為に剣と言う選択、 ありえないだろ

何で一国の王のワシが将軍のアイツよりも荒事に詳しいんだ」

「・・・他の人間に交換した方が良いのでは?」

「魔王軍が根城にしている山岳地帯は様々な鉱脈がある、 が

そこまで一生懸命になってまで攻める必要は無い

だから如何でも良いドンに攻めさせている」

「では今回の勇者召喚は?」

「伝承もあるが一応のパフォーマンスみたいな物だ、 期待半分と言った所」

「じゃあドンを戻す必要は無いのでは?」

「アイツが嫉妬で勇者を殺すかもしれん」

「あぁ・・・なるほど・・・」




後日、 王宮の一室にて魔法陣を描き勇者召喚の儀式が始まった。

国の重鎮達が見守る中、 ドンは欠伸をしていた。


「ドン、 国事だぞ、 ふぬけた態度を取るなら帰れ」


宰相でもあるカルスト公爵がドンの脇腹に肘撃ちしながら言った。


「っ・・・・・っ・・・・・」

「80のじじぃのエルボーにそこまで痛がるな・・・これが我が国の将軍かよ・・・」


カルスト公爵は涙を流した。

と同時に魔法陣が光り輝いた。


「お、 ぉ?」


突如として魔法陣の輝くが白から紫に変化する。

そして大勢の人骨をデフォルメした様な仮面と黒い全身スーツの集団が魔法陣から続々と現れた。


「なっ!? なんだこれは!?」


カルゾー14世が叫んだ。


「あぁ、 良いから良いから気にしないで、 魔王討伐でしょ?

こっちは分かってるから、 慣れてるから」


人骨仮面の一人がそう言って退けと言わんばかりに手を振る。


「なっ、 貴様無礼「はいはい、 そう言うの良いから」


本気で面倒そうに人骨仮面があしらって居る。


「・・・・・何時まで出るんだ!!」


本当に続々と出ている、 軽く数千人は居るだろう。




「いやぁ、 すいませんねぇ、 あいつ等は戦闘要員なんで”外”の事は知らんのですよ」


人骨仮面が次々で出て来て王宮の城下町を埋め尽くしながら大移動した後にやって来た

デフォルメした骸骨のマークが刻印された帽子を被った眼鏡の女がヘラヘラと謝って来た。


「・・・"外"?」


カルゾー14世は怪訝そうに尋ねた。


「あぁ、 失敬、 我々は黄金郷(エルドラド)からやって来た者です

今回は勇者召喚と言う事ですよね?

たまにある事なので我々の方で魔術式を書き換えて制御する事にしました」

「書き換えて制御?」

「えぇ、 『面倒だから大勢で行け』と言うのが上の方針です

あんな骨董品の召喚魔法陣で次元移動させるのも面倒だろうという配慮です」

「そ、 そうか・・・では魔王を倒して貰えるという事で良いか?」

「えぇ、 勿論です「信用出来ないな」では具体的な御話をさせて貰いましょうか」


ドンの声を無視して話を進める女。


「おい、 無視するな」

「魔王を倒した後は魔王の土地を開墾し我々の制御下におきます」

「おいふざけるな!! 意味が無いだろうが!!」

「安心して下さい、 貴方達の生存権は保証します」

「生存権は保証しますぅ!? 何言ってんだ!?」

「生きていても良いという権利ですね

黄金郷(エルドラド)の魔術師王が生きていても良いと保障を貴方達に差し上げています

思う存分生きて下さい」

「・・・・・その魔術師王とやらが認めない者は死ね、 と言っている様に聞こえるが?」


ケセルが怒りを堪えながら尋ねる。


「魔術師王が生きていても良いと貴方達を認めるのは

多次元宇宙の中ではかなりのメリットになります」

「メリットぉ? 何だメリットって言うのは?」

「利点や価値の事です「ちげぇよ、 如何いうメリットが有るんだって話だよ」

「魔術師王が生きていても良いと言っている人間を殺すのは

魔術師王に対する反逆です、 貴方達は魔術師王の庇護を得たという事ですね

良い取引をしましたね「取引だぁ!? こっちは魔王を殺せって言ってるんだよ!!

取引も糞もない!! ただで魔王を殺せって言ってるんだよ!!」


ドンは叫んだ。


「そんな事を言っても私はただの交渉役ですのでそんな決定権は無いですよ」


ヘラヘラと女は笑った。


「ぶち殺すぞ」

「無理でしょ」


ドンの脅しに即答に返す女。


「・・・できねぇと思ってるのか?」

「私は交渉役ですので簡単に殺せますよ

私が死んだら新しいのが来るので意味無い上に多分貴方も殺されますよ」

「・・・・・」


ドンは歯軋りしながら下がった。


「ではこれで失礼します」


女はへらへらしながら立ち去った。




「如何する気ですか!! 俺は反対しましたよ!!」


女が帰った後に叫ぶドン。


「反対したってどうせアンタのポジションが奪われるからだろう!!

自分は関係無いアピールするな!!」

「んだとこのアマ!!」

「何よ、 このコネ男!!」


ケセルの言葉に逆上するドン。

互いにつかみ合いの喧嘩をする中でカルゾー14世


「・・・・・魔王軍の土地が奪えないのは

残念だがこれで魔王軍が無くなったと思え悪い話では無い筈だ」

「そうは問屋が卸しません」


カルゾー14世の言葉をカルスト公爵が否定する。


「どういう事だ?」

「あの髑髏頭の行軍により物流がストップし経済悪化

更に連中は略奪を働き、 幾つもの村を潰しているとか」

「何だと!? 略奪!?」

「これに関して連中は『飯も喰わねば死ぬ』と

『こんな不味い飯を食って我慢するのだから寧ろこっちが文句を言いたい』と・・・」


怒りを込めてカルスト公爵が言う。


「連中は家畜や備蓄はおろか種籾、 皮製品、 草木の一本に至るまで食い尽くしています」

「人は食わないのか?」

「あぁ見えて連中は人間らしいです、 あの髑髏は被り物みたいですね」

「止められないのか?」

「全員恐ろしく強く単騎で一軍に匹敵するとか」

「・・・・・」


重苦しい表情で気落ちする一同。


「この人数、 この行軍スピードなら恐らく一週間で魔王軍は死に絶えるでしょう

しかしこの甚大な被害で我が国は恐らく一年、 いいや半年で死に絶えるでしょう」

「そ、 そんなに酷いのか?」

「えぇ、 試算の結果ですが、 此度の騒動の救済には1500億Gが必要になるかと」

「「1500ぅううううううううううううううううう!?」」


掴み合いをしていたケセルとドンが仰天する。


「我が国にそこまでの金が有るのか!?」

「国庫の7割強と言った所でしょうか・・・直ぐにでも「待て」


カルゾー14世が制止する。


「陛下!! もう一刻の猶予は有りません!!

飢えた民草が反乱を起こし「父上!! 反乱など我が軍が」お前は黙れドン!!

民草の反乱を抑えても民草と軍の消耗により我が国はジリ貧だ!!

弱った国民と弱った軍で何が出来る!!」


ドンの言葉を否定するカルスト公爵。


「はぁー・・・はぁー・・・」

「カルストよ、 其方の言い分は十分わかっている

しかしながら国庫を使えば国が弱まる」

「しかしながら国が民草を見捨てれば先に言った通りの民草と軍の消耗ですよ・・・

一刻の猶予はありません」

「・・・・・」


メデセルスを見るカルゾー14世。


「・・・え? まさか・・・」

「そのまさかだ」

「・・・・・・・・・・・!? 陛下!! まさかまた勇者を召喚すると!?」

「そうだ、 流石にこんな事は二度は続かない「ふざけているのか!!」


カルスト公爵は激昂する。


「勇者を召喚しようとしてあんな訳の分からん連中を呼んだんだぞ!!

それなのにまた呼ぶと!? 正気か!?」

「今度は良い奴が来るかも「更に悪い奴が来たら如何すっ」


カルスト公爵は突如として胸を抑え倒れた。


「カルスト!?」

「おい!! 医者を!!」


カルストは興奮し過ぎて倒れてしまったのだった。

この事が切欠でカルストは長期の病気療養に入り、 宰相の職を辞する事になった。




「陛下、 本当にやるつもりですか?」


カルゾー14世の執務室にやって来たメデセルスは尋ねる。


「やるしかないだろう、 国庫もピンチだ」

「そこまで財政が悪いのですか?」

「あぁ・・・」


カルゾー王国は財政悪化の一途を辿っていた。

理由としては長年の政治的膠着による汚職や横領。

それに伴う生産力の低下。

生産力低下による税収悪化、 税収を取り戻す為の重税化

重税から逃れる為の平民の反社化、 そして治安悪化。

魔王軍との戦争と言う名目で戦争を行い、 民衆を宥めるのも限界が来ていた。


「そうですか、 しかし召喚魔法陣を書く為の資金はかかりますよ」

「国庫の7割よりはマシだ、 いや・・・14割か」


国の力を強く見せる為に国庫の資金や税収は粉飾されており

実態は宰相であるカルスト公爵の認識の半分である。


「この事を病床の公爵が知ればどうなるか」

「どうにもならん、 奴はもう宰相じゃない」

「さいですか、 私は予算を出して頂ければ充分です」

「ごうつくばりが」

「陛下の身の安全が買えれば安い買い物では?」


メデセルスはくっくと笑った。

カルゾー14世がメデセルスは無口で根暗な地味な女と侮っていたのが運の尽き。

調べ上げられ今はたかられる毎日である。




二度目の勇者召喚は穏便に済む事が出来た。


「なるほどなるほど、 分かりますぅ~

魔術師王さんの所はそういう強引な所があるんですよぉ~」


やって来たのは|Multi Universe Corporation《多次元企業》 Mikeの

人材派遣部門の山田というサラリーマン風の男であった。

中年のしょぼくれた超越性を感じないが

多次元にまたをかける大企業に所属しているらしい。

普通のサラリーマンとは違い頭にヘッドホンの様な機械を付けていた。

彼曰くこれは翻訳機で、 他の世界では言語が通じない事も多いので

商人の彼等には必須の代物である。

以前来た女とは違い、 山田はこちらの意見を全て全肯定してくれた。

山田とカルゾー14世は商談と言う体で別室に移動し話し合っていた。

護衛としてケセルも同室していた。


「山田よ、 そなたの商会、 いや会社か、 彼等で魔術師王の手下を倒せるか?」

「倒せない事はないでしょうけどもお金がかかりますし国土を荒らす事になりますよ?

ここは交渉で何とかするべきだと思います」

「交渉か、 可能なのか?」

「えぇ、 大丈夫ですよ

魔術師王さんも我が社と殺し合いはしたくないでしょうから

魔術師王さんはぱっぱと決められる事はぱっぱと決める様にしてますよ

しかしながら魔王軍を殺して土地を奪った彼等から

その土地全部を譲って貰うのは無理な話ですよ」

「無理なんですか?」


ケセルが呟いた。


「流石にそんな一方的な要求は向こうも呑みません

しかしながら所有の権利を認めて貰って借地料を取るという形には出来るでしょう」

「借地料? アパートの家賃みたいな事か?」

「そうなりますね、 今回のケースなら・・・これ位は取れますね」


見積書を出す山田。

そこに書かれていた額は想定よりも遥かに安く

現状の問題を解決できる額ではなかった。


「た、 たったこれだけ!?」


ケセルが叫んだ。


「不労所得としては妥当の額ではありませんか?」

「しかし!! これでは生活が成り立たない!!」

「それでしたら大丈夫ですよ、 我々が用立てて差し上げます

我が社は貸金業も行っています」

「しかし返す目途が何時になるか・・・」

「そうですねぇ・・・ならばご相談が・・・」




MUCMikeは黄金郷(エルドラド)と交渉を行っていた。

互いの外部窓口同士の通信機器越しの対話であった。


黄金郷(エルドラド)さんには本当に何時もお世話になっていますー』

『何を言うか結局は君達の方が得をしているのだろう』

『たはは、 いやはや適いませんなぁ』

『まぁ良い、 今回はどうなった?』

『今回は現地の王国に多額の債務やら条件を呑ませたんで

利潤は充分に確保できております、 あとは其方と交渉した()が必要なので

王国に干渉しなければ問題無いです』

『こちらは最初からそのつもりなんだがな

話は分かった、 所でMikeの商人よ、 占領した魔王軍とやらの土地だが

鉱石の類はそれなりに良い物が揃っている、 しかしながら重要な物は特にない様だ』

『ほう、 それで?』

『君の所に採掘を依頼したい』

『それはそれは助かります、 では詳しい契約内容を・・・』




MUCMikeの多額の貸付により急場を脱したカルゾー王国だったが

結局はMUCMikeからの借金であった、 借金返済の為に千年単位の分割払い

税制の免除、 MUCMikeのカルゾー王国内の事業展開の支援など

MUCMikeに対してかなりの条件を呑む事になった。


「って触れ込みだったから相当な悪徳商会かと思ったら寧ろ良い連中じゃねぇか」


軍人のミリオは珈琲を飲みながらぼやいていた。

彼は生まれ故郷の田舎町を守る軍人であった

とは言えこの街は昔から大した事無いしょぼくれた村故に争いも無く

貧しいが平和な村だった。

黄金郷(エルドラド)の行軍にも関係が無かったがMUCMikeと言う

大仰な触れ込みの連中の出店に警戒していた。

しかし蓋を開ければ砦の如く巨大な店はほぼ毎日の様に安売りをしている。

これにより自分の生活もだいぶ楽になった。

道路の舗装も行い通行も安全になり

菓子類も安く手に入り、 気分は王侯貴族である。

特に珈琲は素晴らしい、 MUCMikeの齎した一番素晴らしい物と呼べる。


「ふざけんじゃねぇ!!」

「あ、 まただ」


ミリオはMUCMikeの店の前で騒ぐ男を取り押さえに行った。

最近こういう事が多い。

田舎の個人商店が安売りをするMUCMikeの店に殴り込みをかけるのだ。

早急に取り押さえてミリオは軍の詰め所に男を連れて行ったのだった。


「お前ふざけるなよ!! こんなに安売りされてちゃ物が売れないだろうが!!」

「ひがんでんじゃねぇよ」




「ひどすぎるな・・・」

「あぁ・・・珍しく意見が合うな」


ドンとケセルは集めた資料を見て憤っていた。

不当に安く売って競合店を潰す不当廉売(ダンピング)を始め

様々なあくどい商売をしていた、 それらは全てカルゾー王国の法律に抵触していない。

無理もない、 カルゾー王国は競合店を潰す為に商品を安くする等

想像もしていなかったのだ。


「商人だからと完全に舐めていた・・・ここまであくどい事を何で次々と考えられる?」

「多次元企業、 つまり複数の世界に渡って展開している組織だ

大勢居るから悪だくみも多種多様と言う事だな」

「・・・どうする? マイクの税は免除されているんだぞ

個人商店は潰れるかマイクの傘下になっちまう

これじゃあカルゾー王国の税収はどんどん下がって干上がっちまうぞ」

「俺の実家も不味い状況になって来ている・・・」

「宰相閣下、 いや元宰相閣下か、 彼は・・・」

「寝たきりだがまだまだ元気だよ」

「それは良かった・・・何とかお知恵を貸して貰う事は出来るか?」

「無茶言うな、 こんな現実を知ったら今度こそ怒り狂ってあの世行きだ」

「それは・・・避けたいな・・・」


溜息を吐くケセル。


「だが如何するよ、 これから」

「如何しようも出来ない、 最近はマイクから兵隊も雇うつもりらしい

俺達も職にあぶれるという訳だな」

「・・・・・」


溜息を吐くケセル。


「怒らないのか?」

「明確に私は陛下から『安く済むなら新しいのに代える』と言われている

忠義も何もかも吹っ飛ぶわ」

「そうか・・・では如何する?」

「職を辞する事にするか?」

「それが良い、 辞めさせられる前に辞めた方が恰好がつく」

「珍しく意見が合うな」


溜息を吐く二人。


「でも再就職先如何する?」

「アンタは公爵家の男でしょ」

「三男坊だから大して権力は使えないんだよ」




30年後、 カルゾー王国は既に斜陽である。

インフラが整備されており民草の教育水準も上がっている。

MUCMikeのカルゾー王国支社に入社する者も大勢居る。

しかしながら最早カルゾー王国は自らの主権を失っていた。

軍事もインフラ、 医療、 食料生産も全てMUCMikeの物になっている。

反対勢力は潰されて久しい。

単に権力に飢えたと思ってドンとケセルを処刑してしまった事が心苦しかった。


レルゾー王太子はカルゾー15世を継承したが既にお飾りとなっている。

貴族の大半は単なる役人と変わらず没落するか反乱して鎮圧される感の二択である。


カルゾー14世は失意の中倒れ、 大量の管と機械に繋がれ無駄に延命させられ

医療費と共に没した。


「・・・・・」


カルゾー15世は一人で魔法陣を描いていた。

メデセルスはMUCMikeにヘッドハンティングされた。

先に彼はお飾りと評したが、 正確にはお飾りですらない。

誰も彼を見ていない、 既に王宮は売り払われ

離れの離宮にカルゾー15世は暮らしていた。

恐らく自分がカルゾー王朝の最後の王だろう、 ならば最後にもう一度勇者召喚の魔法を使い

この窮地を切り抜ける最後の賭けだろう。

そしてその賭けは無惨に失敗した。

召喚の魔法陣から現れたのは拳位の小さな丸っこい体に棒の様な手足が生えた

(´ω`)(脱力する顔)の謎の生き物だった。


「・・・・・君、 強かったりする?」

「なんでもすききらいせずにたべるにょ」

「・・・・・」


カルゾー15世は絶望した。

既に魔法陣を描く材料は無い、 完全に積んでいる。


「なぁ!! おかしいだろう!! 何でだよ!! もう後は無いのに何でこんな…!!」

「?」


(´ω`)は首を傾げた。


「最後の希望に賭けて召喚したんだぜ!? それなのによ!!

何でこんな訳の分かんない奴が出て来るんだよ!!」

「どゆこと?」

「俺達の世界は大ピンチなんだよ!! それを救ってくれる勇者が必要なんだよ!!

だから異世界から呼び出そうとしてこれだよ!!」

「う~ん・・・それってふつうにじぶんでなんとかするべきじゃなかったの?」

「・・・あ?」

「だってふつうにかんがえて、 いせかいからゆうしゃをよびだすっておかしいにょ

ゆうしゃがわるいやつだったらぼこぼこにされるよ?

しらないひとをいえにいれちゃいけないとおもうけども・・・」

「・・・・・」

「それにじぶんのもんだいをひとにやらせるっておかしいじゃない

おにぎりたべたいからひとのおにぎりたべたらおこられるしけんかになるよ

なんでほかのせかいのひとがきみのもんだいをかいけつしないといけないの?」

「そりゃあ・・・勇者ってそういうもんだろう」

「ん-、 じゃあおでぶちゃんはおなかいっぱいだべたいからごはんちょうだい」

「何でそんな事しないといけないんだ」

「ゆうしゃもそういうだろうね」

「・・・・・」


至極真っ当な事を(´ω`)に言われた。

カルゾー15世は(´ω`)を掴み、 窓の外に思い切り放り投げた。


「にょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお・・・・・」


(´ω`)は綺麗な線を描きながら飛んで行った。


「・・・・・異世界と関わるんじゃなかった」


カルゾー15世のその後は誰も知らない、 既に彼は誰からの関心も買っていないのだった。




そこから更に時は過ぎ100年後

MUCMikeが経営するコーヒーショップ、 Mike珈琲店にて。


「えー!? マイクこの世界から撤退するんですか!?」


MUCMikeカルゾー王国支社現地採用組のクリクは先輩のマコルメの言葉に驚いた。


「まぁそうなる見通しだね、 最近変な小さくて丸っこいのに出くわすだろ?」

「確かに見ますね、 (´ω`)(でぶ妖精)って言いましたっけ?」

「そう、 アレには農薬どころか爆撃でも駆除できない

捕まえて封印する位しか出来ない奴だ」

「そこまで害がある様には見えませんが・・・作物を食べるにせよ

そこまで壊滅的な被害が出ない様にでぶ妖精も配慮していますし・・・」

「そうじゃなくて、 でぶ妖精の侵入経路が分からないのが問題らしい

連中も異世界の住人だからこの世界に来るには侵入経路が有る筈だ」

「・・・?」

「あー、 そうか、 分かり易く言うと家の中に自分が知らない入口が有ったら怖いだろ?

その入口からでぶ妖精が入ってるって事だ

今はでぶ妖精だけだが何が入って来るか分かったもんじゃない」

「なるほどなるほど、 しかし黄金郷(エルドラド)の採掘事業は如何なさるおつもりで?」

「アレはとっくの昔に終わったよ、 もう屑鉄しか出ない

黄金郷(エルドラド)もこの世界は放置らしいよ

まぁ絞れ採れる物は全部搾り取ったから充分利益は双方に出ただろう」

「しかし、 MUCMikeが撤退するとなるとこの世界ももうおしまいでは?」

「そんな事は無いだろう

昔はMUCMikeや黄金郷(エルドラド)が無くてもやっていけたんだ

だったら問題無いと思うぜ」


そう言いながらマコルメは珈琲を飲んだ。


「・・・でも先輩

珈琲とかアスファルトの道路とかってMUCMikeが来る前には無かったみたいですよ?」

「そりゃ数千年前とかそういう話だろぉ?」


カッカとマコルメは笑いながら豆菓子を食べていった。


「珈琲もアスファルトも無い生活なんてそんなの原始時代だろう、 想像できるか?」

「・・・出来ませんね、 デマですかね」


クリクも笑って珈琲を飲んだのだった。

その時、 クリクのスマホにメールが着信した。


「あ、 俺、 本社に移動らしいです」

「ようやるわ、 異世界勤めの本社移動はソルジャー採用(一生平)だぞ」

「まぁカルゾー王国の支社が無くなったら俺職は無いですし

・・・先輩はどうするつもりですか?」

「俺? 俺は撤収作業で動いてから独立する事になった」

「独立ですか!?」

「あぁ、 商店を格安で譲ってくれてな」

「それはおめでとうございます!!」


二人は笑い合った、 彼等の人生はこうして決まったのだった。

自分の事は自分でやろう・・・

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