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5、夜に駆ける二輪の華

 ―――2028年春。


 始まりは一発の銃声だった。


 この舞原(まいばら)市に頻繁に発生する呪いをまき散らすゴースト。

 人に様々な悪影響を与える危険極まりないゴーストは未練を持った生物が死後、怨念となって現れるもので、強い霊感が無ければ目に視えることのない存在だ。

 

 俺を含め、アンナマリーにも奈月にもゴーストが視える。

 そして、アンナマリーはどうしてか出現しやすい夜間を狙って、ゴーストを頻繁に狩りに出かけていた。


 超能力者であるアンナマリーは何処からともなく槍を発現させ、長い柄を駆使して器用にゆらゆらと揺らめくゴーストを切り裂き消し去っていく。


 万が一、ゴーストに敗れ身体に憑依されれば、呪われてしまい最悪の場合死に至る。だが、アンナマリーはそんなことは承知の上で果敢に立ち向かっていく。

 

 槍を振り回し、恐れを知らず戦うその勇敢な姿は孤高な女騎士のようであった。


 俺と出会ったその日の戦闘では数の多いゴースト相手にアンナマリーは苦戦していた。

 その理由の一端はまだ霊感のみ備わった未熟だった奈月がそばにいたことだった。

 引っ付いて歩くだけの無力な奈月を守りながら懸命に戦うアンナマリー。

 だが、戦いになると興奮状態に陥りがちなアンナマリーは奈月と距離が離れてしまったのに気付かず、奈月にゴーストが襲いかかろうと迫るのに気が付かなかった。


「くっ!! そっちにもいやがったのか!!」


 何匹ものゴーストを同時に相手にして身動きが取れず、焦った様子のアンナマリーが叫んだ。


「致し方ない……助ける!! そこから動くなよ!!」


 迫るゴーストの恐ろしさに震え、奈月が悲鳴を上げ目をそらしたその瞬間、俺は反射的にゴースト退治に効果のある魔銃を使って奈月を助けていた。


「危ないところだったな……」


 響き渡る銃声。距離はあったが確実に狙い撃ち、一撃にして黒い瘴気に包まれ、悪しき姿をしたゴーストは跡形もなく消えていく。物理兵器が通用しないと知っているアンナマリーは驚きの表情を浮かべていた。


 死を目前にした怯えた表情から、涙ぐみながら命がまだ繋がったことに安堵する奈月。


 そんな彼女は必死に立ち上がると俺に向かって駆け寄り、危機を脱した感謝を伝えてきた。


「うわあぁぁぁぁぁぁ!! 怖かったです……助けて下さってありがとうございます!!」

 

 だが、震えながらお辞儀をする奈月の姿を見た俺は遮り、後ろを向いてその場を立ち去った。助かったばかりでまだ脱力して身体に力の入らない奈月が追い掛けて来ることはなかった。


 明らかに手馴れた動きで死を恐れず立ち向かうアンナマリー。

 息の呑むような華麗な動きで器用に長い槍を使いこなしてゴーストを切り裂く少女の姿。

 それが超能力による秘めた力によるものだと気付くのに時間は要らなかった。

 明らかに訓練を受けてきた者の動き、只物ではないとすぐに分かった。


 だが、その白い肌と乱れ舞う美しいマリーゴールドに似た金色の髪をした少女に目もくれず、俺は瞳を潤ませ怯えた表情を浮かべる奈月のことが頭から離れなかった。


 あまりにも似ていたのだ……俺がただ一人愛する婚約者、清水沙耶に。


 長いまつ毛にクリっとした大きな瞳。肩幅は小さく、慎ましやかな胸と程よい肉付きをしたお尻のライン。細く白い足。傷一つない柔肌は触れるのを躊躇うほどに美しい。


 大和撫子と呼ぶに相応しい麗しい女性。また、髪を解くとふわりとした長い黒髪が風をそよぎ、思わず見惚れてしまうほどで、俺はただ、沙耶が大人になっていくのを、ずっとそばで見ていたかったのだ。

 いつも笑顔で俺を見る、彼女の絵の具で汚れた顔を、ただいつまでも。


 その後、何の因果か、俺が美術部の顧問を務め、いつも美術準備室に居座っている教師だと知った奈月は、親友のアンナマリーと一緒に美術部に入部し、ずっと懐いてしまうようになるのだった。


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