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2、悲しき超能力者

 英国生まれのマリーちゃんだが、その半生は心を閉ざしてしまうには十分なほどに壮絶なものだった。


 行動障害を頻繁に起こしていた実の父親に襲われそうになった際に、衝動的に殺してしまったことが原因で、教会に孤児として暮らしていたマリーちゃん。そういった孤児になる子どもは何人もいて、それ自体は珍しいことではなかったそうだ。


 教会で同じような境遇の子ども達と暮らす日々。


 その後、心的外傷を負ってきた孤児の中でも特質、超能力開花の兆候が見られたマリーちゃんは超能力研究機関に引き取られ、当初は高い能力を発揮した。


 教会にとっては進路が決まったようなもので、早く追い出したいくらいだったのだろう。マリーちゃんに選択権はなく自分の意思などなかった。意思を持つだけの希望も持てなかったのだ。


 優秀なサイキッカーの育成を目指す超能力研究機関の組織はとても人権に配慮したものではなかった。

 孤児であると分かっている以上、大切にされることはなく、厳しい訓練も薬物投与による実験的強化も容赦がなかった。


 誰も止めるものはいない、飼育されている実験動物のような扱いであった。

 成功すれば何者にも替えの利かない優秀なサイキッカーとなって世界を変える程の存在となりうるが、失敗すれば地獄のような日々が最期まで待っている。


 何年も続く超能力研究機関での暮らし。

 身体は成長期を迎え、着実に大人へと近づいていくマリーちゃん。

 だが、人との交流や教育機会が足りないために心の成長が遅れていたマリーちゃんは何を間違ってこんな状況になったのかもわからぬまま、この世界の片隅で苦しみながら毎日を生き続けた。


 薬物投与による強化をしすぎたせいで精神的不安定な状態が続き、精神的苦痛に苛まれる中、精神科医である内藤医院院長、内藤房穂(ないとうふさほ)さんが診察に訪れた。


 既にこの頃には精神的不安定な状態が常態化していて、感情の制御が出来ないことから、協調性がないと周囲から判断され恐れられていた。

 そのため異常行動に苛まれるたびにさらなる悪循環が続き、マリーちゃんは一人孤独に過ごす時間が増え、さらに心を閉ざしていった。


「酷い有様だ……これが組織のやり方か。可哀想に、ここまで薬物投与され心を壊されてしまっては、ここでは生きては行けんだろう」


 院長はマリーちゃんの姿を見て嘆いた。自分で傷つけたのか、誰かの手によって傷つけれられたのか、もはやその判断が付かないほどに無数の痣が皮膚には残っていた。


「このままにしてはおけん。早急に手当てが必要だ。人間らしい暮らしが出来るように」


 ―――人の願望を叶えるサイキッカーとして役に立つ素材ではなくなったいずれ放棄される被検体アンナマリー・モーリンを内藤房穂(ないとうふさほ)は保護し、日本に連れて帰る判断を下した。


 それはもう、このまま放置するわけにはいかず、そうするしかないという苦渋の決断だった。


 日本にやってきたマリーちゃんは管理の行き届いた内藤邸に案内された。

 保護されたマリーちゃんへ我が家として安息の時を過ごしてほしいと願いを込め、迎え入れた内藤家の人々。

 やつれた表情をしたマリーちゃんはようやく地獄のような世界から解放された。


 日本の医療機関を使い治療が進み、苦痛に苛まれることは少なくなったが、生きる理由が見つからず無感情に時を過ごすマリーちゃん。その美しい外見とは裏腹に、広い内藤邸の一室でぼんやりと過ごす姿がよく見られたという。

 

 言われたままに従い食事を摂り、いかなる治療にもなんの疑いもなく受ける。


 それが、日本にやってきた頃のマリーちゃんの姿だった。

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