一風変わった任務
初めての任務を終えて日本に帰った後、俺はひたすら特訓をした。その時に中田さんも付きっ切りでサポートしてくれたおかげもあって、一週間が経った頃にはスパイとして最低限必要な基礎を、全て身に着けることができた。まだ命のやり取りをするほどの覚悟は出来てはいないけど、まぁ頑張ったと思う。
それから程なくして次の任務が入ってきたので、UTOPIAのメンバーで会議をすることになり、今はまさにその会議が始まろうとしていた。最初に口を開いたのは石原さんだ。
「それで、今回の任務は何だ?【シルバー】。」その言葉に大山さんも続ける。
「僕たちにも出番が欲しいところですが。」
「済まないが今回も二人の出番は無しだ。代わりに次はお前たち二人への任務があるから我慢してくれ。」
中田さんがそう返すと、二人はまだ少しだけ不満そうな表情をした。
「それで任務の内容だが、それが少し特殊でな。怪盗をする事になった。」
あまりにも予想とかけ離れていたため、思わず「えっ。」、と声を漏らしてしまった。
「か、怪盗⁉何だよその任務。」今回出番のない石原さんも大きく反応する。だが、大山さんは冷静だった。
「つまり、盗む対象が今回の任務のきっかけ、というわけですね。」
「まさにその通りだ、【天狗】。今回の任務で盗むことになったのは、イギリスにある【ヘルヤード博物館】に展示されている、呪いの宝石で有名なあの【ホープダイヤモンド】だ。」
俺は言われた内容に少し違和感を抱いたので、中田さんに質問をした。
「待ってください、それってアメリカの博物館にある宝石ですよね。何故イギリスに?」
「ホープダイヤモンドは二つある。ルイ14世がカットしたからな。イギリスにあるのはその切れ端だ。世には知られてないから、周りに知られちゃマズいんだよな...」
「あと、【ヘルヤード博物館】って聞いたことないんですが、それは一体...」
「聞き覚えが無いのは仕方ない、なんせ明日開館する博物館だからな。宣伝もあまりしてないし。」
そういうことか...しかし、直感だが中田さんには何か別の狙いがあるのではとも思った。
「多分もうわかっていると思うが、任務に行くのは私と【ギャンブラー】の二人だ。」
「さっさと終わらせて来いよ。二人共。」と、石原さんは不満オーラ全開だった。
「あ、ちなみにだけどさ。」
「なんかやってみたかったから予告状出しといたよ。向こうに。」
これには冷静な大山さんも反射的にツッコんでしまう。
「何やってるんですか【シルバー】!これじゃ警備が強くなるだけですよ!」
「ま、まぁそう怒らずに...絶対に任務成功させるからさ。」
中田さんが何かボソッと言っていたが、よく聞こえなかった。
ーーー
(その頃、ヘルヤード博物館)
警備員が難しそうな顔をして二枚の紙切れを机の上に並べ、まじまじと見つめている。
一つの紙切れにはこう書いてあった。
『ー予告状ー
明日の夜に、ヘルヤード博物館に展示される予定の【ホープダイヤモンド】を頂戴します。
シルバー』
そして、もう一つの紙切れには――
『ー予告状ー
明日の夜、呪いの宝石【ホープダイヤモンド】を頂戴致します。
怪盗 アルセーヌ・ナイア』