ギャンブラーの誕生
【運】とは、人間の境遇や未来を左右するような出来事の巡り合わせや、その巡り合わせを支配している人知を超えた作用を意味する言葉である。運寿幸田、彼の持つ【運】の強さは世界人口の合計よりも勝っており、【運】命を捻じ曲げるなんて容易いことだった。そう、世界中の誰もが彼には敵わないのである。
中田side
運寿か手からこぼした銃は、真っ直ぐ地面に落下した。その銃が地面に直撃した直後、銃は地面に打ち付けられた衝撃で暴発した。その暴発で出た弾は、私を押さえつけていた見張りの頭を貫通した。体が軽くなった私は、最後の一人を銃で打ち抜いた。偶然に偶然が重なって、結果的に私は助けられたのだ。【新入り】に。
私は安堵よりも先に驚きの感情が現れた。
「な、なぁ、今の、何だったんだ。」
驚きのあまり言葉が途切れ途切れになる。
「落としたらたまたま暴発してたまたま当たって...まぁ、【運】が良かったですね。」
「【運】が良かったで済むわけ無いだろ!一体どうやった!」
と、強めに言うと彼は少し沈黙した後答えた。
「...この際言っちゃいますけど、俺は生まれつき【運】が良いんですよ。暗証番号を打った時もそうですし、最初中田さんが不良に絡まれてたのを助けた時も【運】のお陰です。」
「何でそんなに【運】が...」と言いかけると彼は食い気味になって、
「それはまぁいいでしょ、そういうものだと思ってください。」
と返した。何かを隠してるような気もするが、今はまだ詮索しないでおくことにしよう。
「それじゃあまぁ、さっさと日本に帰ろう。」
「ええ、そうですね。」
数十分後、
私達はここに来た時と同じルートの船に乗った。そこで、運寿は私にこう話しかけてきた。
「俺って、スパイを続けていいんですかね。【運】しか武器が無いですし。」
確かに、彼はそう思ってしまうだろう。だが、私はそんな彼に、スパイとしての可能性を感じた。
彼のようなユニークなスパイが、任務達成の意外な鍵になるかもしれない。
「いや、私がお前を一流のスパイになるように鍛えてやる。だから、私に付いて来てくれ。」
彼は少し嬉しそうに笑った。どこかホッとしたような表情だ。その直後に彼は思い出したように言った。
「あ、そうだ。俺のコードネームは何になるんですか?」
「うーん、そうだな...」
運寿の特徴は、やっぱり【運】が強いという所が挙げられる。それに似合ったコードネームは...
「【ギャンブラー】...うん、これだな。これにしよう。今日からお前のコードネームは【ギャンブラー】だ。」
「ええ、何か少しダサいですよ。他に良いのは無いんですか?」
と、彼は不満そうにする。
「いいや、私の決定は絶対だ。異論は認めないぞ。」
そう言うと彼はしゅんとして、「はい....」と返事をしていた。
こうして、【ギャンブラー】というスパイの物語が始まったのである。