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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アイスコーヒーアイドル「アイコ×3☆」

作者: 九JACK

喫茶店でアイスコーヒー飲んだことがきっかけでできたアイドルグループのお話です。

「みんなー、こんばんはー! 夏の酷暑を乗り切るためのアイドル『アイコ×3☆(アイコスリースターズ)』です!」

「ちがうでしょ、ハニー。私たちは季節問わずに愛されるアイスコーヒーのアイドル『アイコ×3☆』だよ!」

「てへっ☆ でも季節感があっていいじゃなーい!」

 イチャイチャしてやがる……と間に挟まれた目付きの悪いアイドルは思っていた。

 アイスコーヒー系アイドル、という正直意味のわからないジャンルのアイドルとして売り出された三人の少女「アイコ×3☆」は今、人気音楽番組の収録中である。センターを務めるのが今喋っていない冷めた目をした少女。クール系として売っている「ブラックアイコ」だ。

 いかにもぶりっ子な感じのほわほわかわいい系女子が「ハニーアイコ」ツッコミ役のようでいて、ハニーと仲良し感を出している爽やかイケメン系女子が「ミルクアイコ」である。

 ブラックはアイドル志望の女の子ではなかった。だが、顔は抜群に良くて、スカウトされ、それを引き受けた。

 何故なら、ブラックは……百合が好きだから!


 ブラックアイコこと黒澤櫻子は恋愛に全然興味のない女子だった。恋愛に興味がなく、クラスで男女カップルが成立すると「うへー」という恋愛嫌いでもあった。

 ただ、彼女は中学生。思春期に差し掛かる所謂お年頃というやつだ。自分でもそういう感情が湧かないことを気にしていたりする。

 ジェンダー問題というのは今になってようやく深刻に見られるようになってきた。海外からすれば遅いと言われるかもしれないが、日本は進歩してきている。性同一性障害や同性愛に関して、昔より広く知られるようになってきた。

 そのため、ネットの波に乗れば、自分の悩みにある程度の当たりをつけられる。

 だが、櫻子の恋愛対象が同性というわけでもなかった。櫻子はダウナーやクールな印象を抱かれているらしいが、恋愛感情というものがまるで欠落している。趣味もなく、物事に執着することが少ない。

 顔がいいだけのノンケ。事実そうなのだが、響きがなんか嫌だった。

 そんなとき「今や死語!? LGBTに関わるかもしれない昔の言葉」という記事を見つけ、何の気なしに開いた。

 百合、薔薇、桜、ホモにレズ、オカマにオナベと現役っぽいのからそうでもないものまで解説がされている。

 そこで櫻子は見つけた。

「私、オコゲじゃん……!?」

 可愛いものを眺めていると、人は大抵幸せになる。櫻子には二人の妹がおり、年が離れているため、妹たちは櫻子に取っつきづらそうにしていて、二人同士で仲良くしている。

 自分が遠巻きにされていること含め、妹二人が可愛くて仕方がない。それが櫻子であった。

 家族愛の範疇かと考えていたのだが、思い返すと、クラスメイトに「黒澤さん、たまに目をやるとにこにこしてこっち見てるから和むときがあるんだよねー」と指摘されたことがある。大体仲良し女子グループの誰かに言われるのだが、櫻子は笑っている自覚がなかった。自分って笑うんだ!? とセルフ驚きすらしたものだ。

 それから「笑ってる!」と指摘されるたびに直前の出来事を振り返るのだが、自分では何もしていない。ただ暇なので教室を見回して……仲の良い女子たちが朗らかに話しているのを眺めているときに自分に笑顔が降りてくるらしいことがわかった。

 確かに女子同士が仲良くしているのを眺めているのは楽しい。最近は特に学級委員の陽キャ女子がおさげ眼鏡の地味女子に話しかけに行っているのが気になっている。陽キャの距離感に戸惑うおさげちゃんが陽キャと勉強教え合って、問題が解けたときに陽キャがハイタッチしたのはよかった。おさげのそろそろと手を合わせる初々しい感じ。それから、日に日にボディタッチが増え、期末でワンツー取ったときに陽キャが抱きついたのをびくってしてからそっと抱きしめ返したのは尊いが過ぎた。

 あとは地雷系な見た目のツイテ女子が髪紐の切れたポニテ女子にヘアゴム貸すのも尊かった。普段ツイテの子がそんなに絡みがあるわけでもない子のために髪型を変えるの尊い。更にポニテでオソロになるところもポイント高い。何なら髪紐もオソロだ。しかも、こっそりポニテ女子がツイテ女子に給食のデザートを譲っていた。戸惑うツイテにポニテがウインクしたときは自分が黒澤櫻子でなければ昇天していたと思うほどだ。

 つまり、女の子同士のイチャイチャにときめきを感じるのが櫻子というわけであった。

 古今東西……かどうかは知らないが、「百合に挟まる男は死ね」という格言は有名である。自分が女でよかった、と櫻子は実感した。

 が、別に櫻子は百合に挟まりたいわけではない。百合を眺めていたいのだ。

 その姿勢に一番近い言葉がオコゲである。まあ、オコゲの正確な意味は「オカマやオナベにくっついて回る人」なのだが。

 そんな妙な気づきを得た矢先に、スカウトされた。

「キミのルックスなら、センター狙えるヨ」

 明らかに胡散臭いチャラ男だった。ちょうど飲みたかったコーヒーを奢ってくれるということだったので、話を聞くことにしたのだ。

 櫻子は顔もスタイルも歩き方もいいので、スカウトには何回か遭っていた。あしらうのも慣れてきて、餌で釣ろうとするやつには事務所に連れ込まれないようにだけ警戒して、ときたま応じたりする。

「デビュー前のアイドル三人ユニット、ですか」

「そう! 二人はもう組んでるんだけど、もう一人欲しいって、聞かなくてサ」

「そんな我が儘許してるんですか? 緩い運営ですね」

「そう、その緩さでキミたちの私生活まで縛りつけないようにしていく方針なんだ」

「タレントを縛りつけるのが事務所の役割では?」

 ヘンテコなのに捕まったな、と思ったが、そのチャラ男は想像の上を行った。

「キミデショ? どんなスカウトも華麗にかわす高嶺の花の超絶クールビューティー女子って」

「どんな噂ですか!?」

「界隈のウワサの拡散能力を舐めちゃいけない」

「いいですけど……それで、その噂を聞いた上で、私を口説きに来たと?」

「そういうクールビューティー女子をグループの二人は求めてるからネ。自分たちはほわほわしてばかりでダメだって。ちゃんと上昇志向のあるコたちダヨ」

「ふーん、そうですか。それで?」

 櫻子の対応は素っ気なかったはずだが、男はにやりと笑った。

「キミに耳寄りな情報がある。これはキミに対する伝家の宝刀だからネ、これが効かなかったら諦めるヨ」

「男に二言はないですよね?」

「モチロン」

 なかなかの自信だ。どんな特典や報酬をつけられようと、受ける気はないが。

「その二人組の女の子はとっても仲良しでネ。そのグループに入ったら、キミ……間近で百合が見られるヨ?」

「入ります!」

 これが即落ち二コマというやつである。


 で、アイスコーヒー系アイドルという謎のジャンルでデビューをさせられ、ヒットソングも出し、音楽番組に出られるようになった。

 ブラックアイコとなった櫻子の「イチャイチャしてやがる」は櫻子へのご褒美的な意味である。ただ、プロになった以上、顔には出さない。

「皆さん仲良しの『アイコ×3☆』ですが、センター決めのときはやはり揉めたとか?」

「そうなんですよ!」

 三人メンバーのうちの一人、ミルクアイコが食らいつく。

「元々はハニーと二人で組んでた私たちのところに、ブラックが入ってきたので、ブラックが遠慮しちゃったみたいで」

「え、そうなんですか? 意外です。ブラックアイコさんは堂々とセンターをやっているので」

「あのときのブラックちゃん、面白かったよねー。ゆりにはさ」

 余計なことを言いかけたハニーの口をブラックが咄嗟に塞ぐ。

「その話はしない約束でしょ」

「ブラック、やっぱり反射神経いいね」

 ミルクが斜め上のことを言い、話が逸れる。

 ブラックはほっとした。出番がもうすぐというカンペに助けられた。

 ブラックがセンターをやる条件はブラックの性癖を表に二人が晒さないことである。ほわほわの二人には約束を守るという厳しさを教えなければ、と櫻子は考えたのだ。

「ほら、ブラック、手を」

 ミルクに言われて、ブラックはハニーから手を離す。すると、瞬く間にブラックがハニーの口に触れていた手を取って、指先に口づける。

「ちょっとらしくなかったんじゃない?」

「ミルクは名前の割に気障ね」

 と、最大限クールに振る舞ったが、頬の緩みを抑えられなかった。

『ハニーとミルクの間接キスだわーーーーー!』

 というのが櫻子の脳内であったが。

 営業以外のスマイルを見せないことで有名だったブラックアイコが初めて微笑んだ、しかも女神の微笑みと称され、この回は神回と呼ばれることとなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白い展開であっという間に読んでしまいました 2人とブラックちゃんの関係がどうなっていくか気になります
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