40:あの鐘を
大聖堂から出ると、丁度、お昼時だ。
ただ、大聖堂の周囲ではお祝いのクッキーが配られる。
そのクッキーは、聖職者が祝福を与えてるため、いわゆる“ご利益がある”と思われているのだ。つまり皆、ランチタイムそっちのけで、クッキーを手に入れようとしている。
よって海外の来賓達はこのまま馬車で宮殿へ戻り、用意されている昼食を摂ることになるが、国内貴族はそのまま街のレストランで食事する流れだった。できればアンディも一緒に……と思うが、その姿がない。儀式の最中、大聖堂の外で待機していたパールとブラウンと合流し、両親達と昼食を摂り、屋敷へ戻ろうかと思っていたら……。
「ナタリー!」
アンディが戻って来た!
「ごめん。儀式の最中、一人にしてしまった」
「大丈夫よ、アンディ。こっちは何も問題なかったわ」
「これから宮殿に戻るけど、ナタリーも来ないか? 昼食は用意させる。もしご両親と街中で食事をするなら、邪魔をするつもりはない。俺は宮殿に戻る必要があるから、同席はできないのだけど……」
両親に確認すると「ナタリーとは毎朝、朝食を共にしています。我々のことは気にせず、どうぞナタリーと宮殿へ戻り、昼食をおとりください」とアンディに告げる。アンディは両親に深々と頭を下げ、さらに兄とその婚約者にも御礼を言うと、私をエスコートして歩き出す。
私の肩にはブラウン、腕にはパールを抱きかかえ、人々の中を進む。
席を外した後、何があったのか聞きたいが、周囲には沢山人もいる。
今はやめた方がいいだろう――そう判断した。
ゆえに馬車に着くまでは、アンディが席を外して以降の儀式の様子を伝えた。
それを聞いたアンディは……。
「建国祭に参加したのは、子供の頃だからな。ほとんど覚えていない。でも大司教と聖女の祈り。きっと素晴らしいものだったのだろう。聖歌隊の歌声もいいのだろうけど……。俺としてはナタリーの歌声が気になるかな」
「私の歌声!? そんな、たいしたものではないわ……」
「そんなことないさ。俺はナタリーが大好きだから。その声も含めて」
またも不意打ちで甘い言葉をささやかれ、メロメロになりそうだった。
すぐに馬車に乗るタイミングで良かったと思う。
もうアンディにドキドキさせられ、膝がガクガクだったから!
というわけで馬車に乗り込むと、アンディの顔を見た。
馬車が走り始めると、アンディが何があったのかを教えてくれる。
「不自然に鐘が鳴っただろう。本来それはあり得ないことだ。この日のために完璧な練習を行っている。よってこれはテロにつながる行為かもしれないと、様子を見に行くことにした」
つまり鐘楼がある塔へ向かったわけだ。
あの時、数名の騎士が動いたので、彼らを連れて。
「すると階段の途中で倒れている聖職者を発見した。彼らは鐘楼の鐘を鳴らすための、メンバーだ。確認すると気絶しているが、命はある。同行していた騎士に運ばせ、俺が鐘楼へ向かうと、そこでは騎士と敵が戦闘中だった」
アンディは騎士に加勢し、犯人を取り押さえる。
取り押さえ、彼が聖職者であることに驚く。
「何をしようとしているのか。俺が尋問することにした。何か細工をしていないか確認してから。話を聞くと、テロなんかではなかった。個人的な復讐だった」
「復讐……?」
「そうだ。復讐したい相手は、元神官長のカルロ・キージだ」
これには「え……」と唸ることになる。
元神官長のカルロ・キージ。
アンディが将来、強い魔術師かつ国王になることを嫌い、貶めた腹黒タヌキ!
数々の偽りの神託を国政の場で進言し、多くの混乱をもたらした罪で、モルデル島にある幽閉施設に収監されている。つまり既に罪人として罰せられているのに、その復讐……?
今更、何のための復讐かと思ったが……。
「犯人はカルロのせいで、既に心が壊れていた。でも聖職者として勤めることは、ルーチンの繰り返し。それを行う分には、病んでいることがバレなかった。だがとっくに心は壊れている。そして既にカルロは神官長ではないのに、まだそこに彼がいると思い込んでいた。彼に恥をかかせる。醜態を晒すことを願い、重要な儀式が行われている最中に、鐘を鳴らすことを思いついたんだ」
これにはもう驚き過ぎて言葉が出ない。昨日は怨恨かテロかという国家転覆につながる一大事に直面した。それなのに今度は個人的な復讐? 事件の重大さの落差が大き過ぎて、驚きしかない。
「どうして犯人はそこまでカルロのことを恨んでいたのかしら?」
「その犯人には歳の近い妹さんがいた。聖職者になった兄の元をよく訪ねていたそうだ。実家は果物屋だったから、兄にフルーツをよく届けに来ていたそうだ。器量も良く、性格も優しい子だったらしい。だがそのせいで、カルロに目をつけられてしまった」
「え、まさか……」
神官長という立場だったのに。カルロはその妹に手を出した。しかも一度ではなかったようだ。恐ろしい目に遭いつもも、兄に会いたい気持ちは変わらない。カルロは兄の元を訪れた彼女に、何度も手を出し……。遂には妊娠してしまい、彼女は……自ら河に飛び込み、命を絶っていた。
それがきっかけで、犯人は心を病み、今回の暴挙に出てしまったというのだ。
「罪を犯したことは事実。でもそれは大いなる勘違いが原因であり、彼自身、心神喪失状態。しかも諸悪の根源は、元神官長カルロにある。犯人の罪が軽くなるよう、陛下に進言するつもりだ」














