39:大聖堂
甘々な雰囲気に一瞬なりかけたアンディだが、私の両親がいることに気が付き、すぐにキリッとした表情に戻る。そして紳士的に私をエスコートすると、大聖堂へと向かっていく。
大聖堂の入口手前では、身分証となる紋章の提示に加え、手荷物検査も行われた。それは海外の来賓にも徹底して行われている。昨晩のテロ未遂について公にはされていない。よって皆、「随分と警備体制が厳しいのね」とささやきあっている。ただ、王宮付き魔術師であるアンディすらチェックを受けているのだ。こうなると誰も表立って文句は言えない。
ということで中に入ると、あちこちに警備を担当する兵や騎士の姿が見える。まさに物々しい状態だ。
大聖堂は、正面に向け真っ直ぐの通路があり、その左右に階段状に座席が設置されていた。祭壇の左手には楽団が、右手には聖歌隊が配置されている。
楽団近くに王族の席があり、その隣のエリアが貴賓席で、国内の重鎮や高位貴族が座ることになる。聖歌隊の近くの席は、国外の来賓席になっていた。着席すると向き合う形となり、そこにはウララ公国の大公と公国魔術師のブリュレ。ブルームーン帝国の皇太子と帝国魔術師のストリアの姿も見えている。
大公が少し不機嫌そうな顔なのは、昨晩、いろいろと話を聞かれたからかもしれない。ただ「テロを首謀しましたか!?」と聞くわけにはいかないし、その疑いもかけることはできない。それでいて大公が協力せずにいられないのは、勝手にシャンパンを飲んだ件だろう。
あくまで名目はシャンパンを勝手に飲んだ件としていろいろ話を聞いたのだろうけど……。しつこく聞かれることに、辟易しているのかもしれない。
隣に座るブリュレもなんだか元気がないが、いろいろと問題の多い上司(大公)に疲弊しているのだろう。
「アンディ、大聖堂の警備体制は完璧?」
「大聖堂については神官長、つまりは聖女の範疇だから、そこは彼女に任せている。宗教と政治は分けようというこの国の方針があるからね。ただ、アドバイスはしてある。見落としがないといいのだけど……」
それでも楽団、聖歌隊、聖職者などの身元確認も念入りになされ、あの手荷物検査もあったのだ。何も起こらないと思いたい。
ざわざわとする中、鐘の音が聞こえる。
ギイイイ……という音が響き、正面入口の扉が閉じられた。
聖歌隊の奥にある扉が開き、聖女ルビー、大司教に続き、国王陛下が祭壇へ向かう。
楽団の演奏が始まり、いよいよ儀式がスタートした。
◇
国王陛下が建国の歴史について語り始めた。
毎年聞かされる話であるが、国王陛下も工夫をしている。
大まかな流れはいつも同じだが、織り交ぜられるエピソードが毎回変わるのだ。
よって毎年同じ話を聞いているはずなのに。
ついつい聴き入ってしまう。
今年は建国王の馬丁の目線で歴史が語られた。
庶民の目線から見た歴史はこの世界では珍しく、各国の来賓も興味深そうに聞いている。
終わると盛大な拍手が起きた。
続いては、大司教が建国を祝う祈りを捧げる。
今年は聖女ルビーもいることから、二人で祈りが捧げられることになった。
大司教も聖女ルビーもとてもいい声をしている。
二人の声が奏でる祈りは、心に染みわたり、ハンカチで目元を拭う者も多い。
そんな最中のこと。
祈りはまだ中盤というところで、一瞬、鐘の音が聞こえた。
これには皆、「おやっ」となる。
でも一瞬のことだ。
大司教と聖女ルビーの祈りが終わった後、鐘は三度鳴らすのが恒例だった。
よってフライングした……ぐらいに思ってしまったが、アンディは違う。
隣の席に座っていたアンディは、すっと音もなく席を立つ。
アンディだけではない。
数名の騎士達が動く様子が、目の端々に捉えられた。
対面に座る来賓たちは、一瞬気にした様子を見せたが……。
儀式はまだまだ途中であるし、祈りの言葉は続ている。
皆、すぐに祈りの方に意識を戻した。
アンディが席を外したので、私は気になりはするが、何かできることもない。
そこで静観することにした。
大司教と聖女ルビーの祈りは続き、その後、鐘もちゃんと三回鳴っている。
そして聖歌隊が祝福の歌を主に贈ることになった。
こちらも本当に心が洗われるような歌声が響く。
主に捧げる曲が終わると、マルセル国の国歌斉唱だ。
これはマルセル国の人間は唱和することが必須であり、言われずとも起立することになっている。
両親も兄とその婚約者も。
視界には見えないが、王族全員、オルドリッチ辺境伯夫妻とディーンや宰相であるマクラーレン公爵も皆、起立しているはずだ。そしてメロディが流れる。
聖歌隊は高音の声だった。だが私達の声が加わることで、重厚感が増す。
大聖堂全体に低音から高音の声が広がり、それは鳥肌が立つぐらい荘厳だ。
歌が終わると海外の来賓達が一斉に拍手を送ってくれる。
同時に鐘が鳴り、正午を知らせ、儀式は終了。
結局、アンディは戻らなかったが、つつがなく儀式は終わった。
























































