38:今日は私が……
「……自分の力で幸せな未来を作る」
そう断言できるアンディに、私の不安の波は、すーっと引いていく。
アンディは……なんて芯の強い人間なのだろう。
だからこそあのザロックの森でも、たくましく自身の魔法の力一つで生き抜くことが出来たのね。
そんなアンディに心惹かれ、ディーンやオルドリッチ辺境伯のような仲間を手に入れることができた。もふもふの使い魔達にも愛されているんだ。
「アンディが幸せになれるように、私ができること、何かある?」
「何もしなくていい。ただそばにいてくれればそれでいい……と言ってもナタリーは納得しないよな」
アンディは私の性格、よく分かっている!
「そうね。それでは納得できないわ」と笑いながら答えると……。
「じゃあ、こうやっていつでも甘えさせて」
「アンディ」
ぎゅっと抱きつくアンディを、私もぎゅっと抱きしめる。
そこでディーンの言葉を思い出す。
――「ナタリー嬢はアンディの精神的支柱だと思います。アンディが強くなれるのは、ナタリー嬢がいるからですよ」
そうね。私は剣を手に戦えるわけではない。メビウス・リングがあっても、魔法を使えるわけではないのだ。だからこそ元気でアンディのそばにいること。それこそが最重要なんだ。
「一連の事件は解決したわけではない。明日もいくつも行事がある。気を抜くことはできない。陛下も王太子も、これで行事を取り止めたら、テロに屈することになると、止めるつもりはないんだ。それが間違った判断とは言えない。国の威信もあるから」
アンディが私を抱きしめたまま、自分の心のうちを吐露する。
「ナタリーの身に何かあると心配だ。本当は屋敷にとどまった方がいいのか……とも考えたけど……。ナタリーがこの屋敷にいると分かれば、ピンポイントで狙われる可能性だってある。だから完全に安全な場所なんてないのかもしれない。それならば」
「それならば、予定されていた通りに行動するわ。未来は自分達の手で作るのでしょう。だったら恨みだろうが、テロだろうが、悪いことが起きない未来にしましょうよ、アンディ!」
「そうだな。ありがとう、ナタリー。俺の考えを理解してくれて」
そう言うとアンディは体を起こそうとする。
つまり、王宮へ戻るつもりなんだ。
「アンディ」
「どうした?」
「今日は私が甘えてもいい?」
「え!?」
「帰らないで。朝まで一緒にいて」
こんな風に自分から甘えるなんて初めてのこと。
心臓はドキドキ、爆発しそうだった。
でもアンディは「ナタリー」と甘々な声になり、再びベッドへ身を沈める。
いつの間にかアンディの体も温まり、私の心もぽかぽかとなり。
二人で朝までぐっすりだった。
◇
翌朝、私が目覚めた時に、アンディの姿はない。
でもサイドテーブルは魔法で出したのだろう。
薔薇の花が一輪、置かれている。
「いい香りがするわぁ~」
「本当だ!」
ブラウンとパールもこの“碧い薔薇”の香りにうっとりしている。
碧い薔薇。
この世界には存在しないもの。
魔法だから作り出された碧い薔薇は、花びらがみずみずしく肉厚で、朝露のような透明な香りを漂わせている。気持ちが清々しくなり、とても健やかな目覚めを迎えることができた。
実在しない薔薇なのに。
碧い薔薇には「奇跡」と言う花言葉が存在している。
アンディと出会えた奇跡に感謝して、この碧い薔薇を髪に飾ることにした。
今日は日中、大聖堂で祝賀行事がある。
国王陛下が建国の歴史について語り、大司教が建国を祝う祈りを捧げ、聖歌隊が祝福の歌を主に贈る。終了後は鐘が鳴り響き、大聖堂の周囲ではお祝いのクッキーも配られる。各国の来賓も出席し、前世だったら全世界に映像配信されるような一大イベントだった。
今日のドレスはアンディの髪色に合わせたアイスブルーで、銀糸による繊細な刺繍があしらわれている。碧い薔薇はおろした髪の右側、耳の上の辺りに飾ってもらった。香水いらずで見た目も美しく、これを見たソーニャは……。
「碧い薔薇、造花と思ったら、生花ですよね!? 初めて見ました。本当に奇跡! しかもなんていい香りなんでしょう……」
準備が整い、私は両親と共に馬車で大聖堂へ向かう。
膝にはパールとブラウンが大人しく乗っている。
アンディとは大聖堂で待ち合わせだった。
ちなみに兄は、婚約者のイングリッドを迎えに行き、それから大聖堂へ行くことになっていた。
昨日の事件を知る両親は馬車の中で「今日は何も起こらないといいな」と言っているが、本当に私もそう思っている。何か起きればまたアンディも忙しくなるのだ。平和が一番と思わずにいられない。
こうして馬車は大聖堂の近くまでやって来た。交通規制されているので、大聖堂前の広場で馬車を降り、正門まで歩くことになるのだけど。
「ナタリー!」
声の方を見ると、アイスブルーのフロックコートに、紺碧のローブ姿のアンディがいた。私が髪に碧い薔薇を飾っていることに気が付くと、こぼれるような笑顔になっている。














