36:真夜中の訪問者
晩餐会が終わると、隣室へ移動し、男性はお酒片手にカードゲームなどの娯楽、女性は紅茶と共におしゃべりに興じる。だがアンディは「ナタリー、ごめん」と私を見た。
「大丈夫よ、アンディ。乾杯の時に何かあったのよね。この後、関係者と話し合いがあるのでしょう? 私はこのままパールやブラウン、待機してくれているソーニャと一緒に屋敷へ戻るわ」
私の言葉を聞いたアンディは驚いた表情になったと思ったら。
顎に指を添え、自分の方へとくいっと持ち上げる。
いわゆる顎クイをされ、ドキッとすると。
「ナタリーは俺の心が読める? まだ何も言っていないのに、全部分かってくれる」
「指輪の力は使っていないわよ」
「それは分かっている」
微笑むアンディにこのままキスをされる……わけがない!
ここは晩餐会の会場。
皆、立ち上がり、移動を開始している。
キスをしてもバレない……いや、みんな見ると思う。
それに。
「アンディ様、ナタリー様、私は神殿へ戻りますね」
目の前に聖女ルビーがいるのだから!
◇
屋敷へ戻った私は、ドレスを脱いだ瞬間に、脱力。
なんだかんだで緊張していたのだろう。
湯船の中で寝ないようにするので大変だった。
パールとブラウンは晩餐会の最中、大運動会(?)をしていたようで、私より先に夢の中へ。
そんな状態だったので、普段より早い時間に、ベッドにもぐりこむことに。
そうやってすやすや寝ている中。
寝返りを打つと……何かに触れた。
「うん……」と呟き、目を開けると。
カーテンの隙間から射しこむ月明かりに照らされた、整った顔立ちが見える。
「えっ……アンディ?」
驚く私にアンディが「ごめん。起こしてしまったな」と優しい声でささやく。
「ナタリーの顔がどうしても見たくなって。魔法を使い、会いに来てしまった。……本当にごめん。こんな侵入者みたいなことをしてしまい」
「驚いたけど、大丈夫よ。それより疲れているでしょう」
両手を広げると、アンディの少し緊張気味だった表情が、緩んだように感じだ。
銀色の月明かりに照らされたアンディは、まるで大天使みたい。
「ナタリー」
ふわりと私に抱きつくアンディの体を、そのままベッドの方へと導く。
私の隣で横になったアンディは、森の家の時のように、私に腕枕をすると……。
「ナタリー、温かい」
「アンディは冷たいわ。一体どれぐらい前に部屋へ来たの?」
「数分前だよ。ナタリーを感じると、落ち着く」
「リラックスして、アンディ」
「ナタリー」とまるで甘えるように私の名を呼ぶと、アンディが私にぎゅっと抱きつく。
甘えん坊のアンディ。大型犬みたいで可愛い……。
「今日の晩餐会。乾杯のドリンクを給仕する使用人の何人かが、挙動不審だったんだ。そこで俺は今日起きた様々な出来事。その中で全体への影響が大きかった出来事を思い出していた。その際、室内の暑さも気になっていた。その瞬間、理解することになった」
アンディがあの時、何が起きていたのかを語り始めた。
「全体へ大きな影響が出たのは、乾杯のシャンパンが足りなくなったことだ。大公が昼に勝手に飲んでしまったのだろう。そして晩餐会で給仕する使用人の挙動不審。さらには室内の温度の暑さ……そこからこの状況が、作為的に作り上げられたものではないかと気づいた」
「作為的……」
「晩餐会のような場で行われる犯罪、その可能性はいくつかある。でも乾杯のドリンクをめぐるトラブルが既に起きている。そうなると起きるかもしれない犯罪は一つ。毒だ」
「毒!?」と思わず大声を出しそうになり、アンディの指が私の唇を優しく押さえた。
ドキッとして言葉はごくりと呑み込むことになる。
「布石はなされていた。ナタリーのレース事件だ」
「まさか」
「そのまさか、だよ。無味無臭で、飲み物に混ぜたところで、毒とはバレにくい。冷たいドリンクの中に溶けている時には、何も起きない。だがそれが体内に入ったら……。室内の温度を上げたのは、ダメ押しのためだろう。『Na2toxin』が活性化し、有毒ガスを体内で発生させ、死に至らしめるために」
衝撃的だった。
あの『Na2toxin』が使われていたなんて。
「では犯人は……修道院にいるリリィなの!? そんなこと、可能なの!?」
「可能なわけがない。監視も強化している。日々上がる報告にリリィが何かした形跡はない」
「え……」
そこでアンディが私をぎゅっと抱きしめ、言葉を紡ぐ。
「レース事件の犯人はリリィではなかった、ということになる。俺達の疑いの目がリリィに向くように仕向けた者がいる」
「一体誰が……! 挙動不審の使用人は捕えることができたのよね? 尋問はできたの?」
「尋問はできなかった。五名全員、魔法がかけられていた」
魔法。
すなわちアンディが私の弟のリックに本音を話させるために使った魔法と似たようなものだ。特定の言葉に反応して、行動を起こす。
尋問は別々の部屋で行われた。捕らえられた使用人は拘束されている。だが特定の言葉に反応し、部屋にいた警備兵から武器を奪い、自死を遂げたのだ。その際の動きは人間の域を超えたもの。魔法による強制的な動きであり、通常その拘束は解けず、警備兵から武器を奪うなんてできないはずだった。しかもそういった魔法がかけられていないか、事前に確認している。そこは問題なかった。
「魔法を無効にするアミュレット(御守)を、どうやら体内に埋め込んでいたようだ。尋問の前にボディチェックは行われている。そこではアミュレット(御守)は発見されていない。ゆえに問題なしで、尋問を始めてしまった。……本当は俺が立ち合えばよかったのだが、尋問は晩餐会が行われている最中に実施されたから……」
検死により発見されたアミュレット(御守)は、出所を特定できるようなものではなかった。それに今、マルセル国には各国からの来賓がいて、多くの魔術師が護衛のために同行している。魔法を使ったのは誰か、アミュレット(御守)を作ったのが誰なのか。特定は無理な状況だった。
さらに結果的にせっかく捕らえた使用人だったが、全員、死人に口なしになってしまった。
そもそも身元も明らかな人物でばかりで、なぜ今回このような凶行に手を貸すことになったのか。
まったく理由が分からない。
とはいえ、提出されていた紹介状が偽造されていたり、本人に成りすましている可能性もある。そちらの線での捜索は続くという。
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とあるコンテストで4作品が一次選考を通り
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