33:晩餐会に向けて
残されたストリアと私は「「大変……」」と声が揃ってしまった。
そこでお互いに顔を見合わせ、笑うことになる。
「ブルームーン帝国でも、こういうトラブルで魔術師が呼ばれることは……」
「あります。困った時の“魔術師頼み”という言葉があるぐらいです」
前世では、困った時……と言えば、神頼みだが、この世界は違う。
神でなければできないようなことを、魔術師がやってのけてしまうのだ。
そうなると必然的に、魔術師に頼ってしまうのだろう。
「ナタリー様は、アンディ様という素敵な婚約者がいてよかったですね」
「! それはありがとうございます!」
「婚約者がいても、遊ぶ男性は多いんですよ。特に政略結婚ですと、相手へ思い入れがない分、損得でしか考えない。結婚したら、遊べなくなる。今のうちに遊んでおこう――そんな打算的な考えになってしまいやすい。ブリュレ様みたいなことを言っていると、彼女自身がそういう悪い男に利用されないか、心配になってしまいます」
これには「なるほど」と思ってしまう。
婚約者がいる男性に「素敵です!」「好きです!」アピールをブリュレはしているのだ。アンディだったから、キッパリ断られた。だがもしストリアが言うような悪い男に引っかかったら……。
遊ばれ、捨てられ、お終いだ。
「さて。では私も皇太子の元へ戻ります。ランチ、お邪魔してごめんなさいね」
「邪魔なんて思っていません! 他国の方と、ましてや魔術師の方と食事できる機会なんて、早々あるわけではないので……。同席できてよかったです!」
「アンディ様が言う通り、お優しい方ですね。お二人の幸せ、願っています」
そこでストリアと別れた私は、パールとブラウンを連れ、アンディの執務室の隣の部屋に向かうことにした。
午前中、ディーンのおかげで一通り街の様子を見ることが出来たのだ。アンディはいろいろと案件を抱え、それではなくても気が休まらない状態。これで私が街へ出て何か起きたら、アンディが疲弊してしまう。せめて午前中と同じようにディーンがいてくれたら……と思うが、彼だって次期辺境伯として、忙しい身だ。ここは大人しくしていよう。
それに。
既に腕の中のパールとブラウンは「スピー」と気持ちよさそうに寝ている。
そう、満腹になり、眠くなっていた。
アンディの隣の部屋に、ベッドはないかもしれないが、ソファは絶対にあるはず。そこでも昼寝でもしたい……というのが今の私の本音だった。
◇
「ナタリー様!」
「ソーニャ、来てくれたのね。ありがとう」
「こちらこそ、宮殿なんてあまり来る機会がないので、ありがとうございます。でも警備体制が厳重ですね。パール様とブラウン様に差し上げようと、お菓子と野菜を持参したのですが、それは没収されてしまいました。ですが代わりに検品済みの食べ物を頂くことが出来ました!」
晩餐会のためのドレスの着替え。宮殿のメイドを部屋に手配してくれるとアンディは言ってくれたのだけど。宮殿の使用人はみんな、今、大忙し。他国の来賓を宮殿では大勢で迎えているからだ。よって着替えについてはミラー伯爵家から、ソーニャ他数名に手伝いに来てもらうことにしていた。そして彼女達が到着し、私も昼寝を終え、晩餐会の用意となった。
「パール様、ブラウン様、どうぞ」
メイドの一人、ペギーから宮殿のパテシェのお菓子をもらうことになったパールとブラウンは、大喜び。嬉しそうにマカロンやフィナンシェを食べている。
一方の私は準備開始だ。
まずは髪とメイクから。
「髪はどうされますか? アップにしますか? それともハーフアップにしますか?」
「今日はアップにしてもらえる?」
「かしこまりました」
ソーニャが私の髪をアップに結い上げ、その間に別のメイドがメイク道具を広げた。さらにもう一人のメイドは宝飾品を用意する。
今日の晩餐会のドレス。
アンディが自身の瞳のラピスラズリの色合いのテールコートを着ると言っていたので、ドレスはその色にした。
身頃にはドレープがあり、胸の大きさをカバーしてくれる。
アンディと婚約してからは、イブニングドレスで胸元が大きく開いたものを、あまり着たくない気持ちになっていた。男性は自然と異性の体に目がいってしまうと思うのだ。でも私はアンディ以外に、あまり自分の体を見られたくない――と思うようになっていた。
ということで胸元にドレープがあるのはありがたい。
さらにウエストのバックリボンが、とても素敵なデザインになっていた。スカートは裾に向けてふわりと広がるチュールが重ねられ、全体に濃淡ができ、大変美しい。
トルソーのドレスを鏡越しに見ながら、髪をセットし、メイクが終わると……。
ドレスに着替えた。
「大変美しいです、ナタリー様!」
準備完了。そして完璧なタイミングで扉がノックされた。














