32:その言葉に彼は……
「マーラン法ねぇ。あ、でも抜け道があったわ!」
そこでブリュレはアンディを見て、目を輝かせる。
「愛し合う二人は引き裂けない……つまり魔術師が他国の異性と恋に落ち、婚姻のためにその国に向かうことは止められない……」
「ブリュレ様、アンディ様は婚約しているんですよ」
ストリアがそう言うが、ブリュレは……。
「婚約、でしょう。結婚していないのよ。ならばギリギリセーフでしょう! アンディ、私と」
「ブリュレ」
アンディはカチャッとナイフとフォークをお皿に置くと、腕組みをして、怖い顔になった。
それだけでもその場が凍り付いている。
その上で話し出したアンディの声は、鋭い刃のようにキレキレだった。
「君が客人ではなく、また他国の魔術師でなければ、僕の……俺とナタリーに対する不敬罪に問うところだ。冗談でも言われたくないことを、君は言おうとしている。しかも俺の婚約者の目の前で。とても不快だ。腹立たしく感じる。二度と関わりたくない。顔を見たくないぐらいだ!」
「ご、ごめんなさい。冗談……にはならないようなことを口にしてしまいました。二度と、このようなことは口しません。お許しください」
ブリュレは震える声で謝罪し、ストリアもフォローに入る。
「ブリュレ様はまだ十六歳で、魔術師になったばかり。外交として他国に赴くのも今回が初めてと聞いています。とはいえ無礼な言葉があったのは事実。年齢も近いことから、友達感覚で話してしまったのでしょう。本人も強く反省しているようなので、ここはどうか寛大なご配慮を」
ストリアは多分この中で、一番年長なのかもしれない。
クールであるかもしれないが、とても落ち着いている。
ブリュレとは今回初めて会ったというが、そこまで親しいわけではないのに、彼女の未熟さを指摘し、アンディに配慮を求めている。大人な対応だ。ならば私も。
「アンディ、私もそこまで気にしていないわ。ランチの席の冗談だと思う。それに思わず『私と結婚しない?』と言いたくなるぐらい、アンディが魅力的ということでしょう。私からすると、鼻高々だわ」
「ナタリー……。ここは君が怒ってもいいのに」
アンディが甘々な声で私に熱い視線を送る。
アンディと私は、会った瞬間に熱烈な抱擁をして、そして今もこんなに熱い視線を交わしている。最初からつけ入る隙なんてないのに、ブリュレは気付いていなかったのかな。
「ブリュレ。俺の婚約者が優しくてよかったな。二度目はないから……。俺もついカッとなってしまい、申し訳なかった。でも本当に。ナタリーのことがとても大切なんだ。だからもう二度と彼女を軽んじる発言はしないで欲しい」
これにはすぐにブリュレが応じ、謝罪を繰り返し、ようやくその場は収まった。
そんなドキッとする一幕もあったが、無事、昼食は終了。
別れ際のアンディは激甘になっていた。
「ナタリー」
「はい」
「俺の執務室の隣の部屋に、ドレスとか晩餐会で必要となるものは運んでおいたから。そこで着替えたら、待っていて。迎えに行くから」
これを伝えるため、アンディは私の腰を抱き寄せた。
私のおでこにアンディのおでこが重なり、一気に距離が近くなる。
パール、ブラウン、マシュマロが背後で何か言っているが、今のアンディには聞こえていないようだ。
「ナタリーのそば、離れたくない」
「うん。私も同じ」
「でも行かないといけない……」
「寂しいけれど、晩餐会で会えるわ」
アンディの鼻が私の鼻に触れ、もうキスができそうな距離になっている。
もしやブリュレに見せつけるため、まさかみんなの前で……。
心臓が急速にトクトク忙しくなる。
「魔術師アンディ様!」
慌てた様子の騎士の声に、パール達から「あ~あ(残念:心の声)」と聞こえてくる。
「あ、えっと、失礼しました!」
騎士が謝罪の言葉を急いで口にする。
既にアンディは私と距離をとったが、腰に手を回したままだった。ようやくそこで私の存在に気付いた騎士が、謝罪をして回れ右をしてくれたが、遅い! アンディの表情は、完全に王宮付き魔術師モードになってしまった。
「何か?」と問う声はキリッとしており、その手も私の腰から離れた。
「それが晩餐会で出す予定のシャンパンを、ウララ公国の大公が昼食の席で勝手に飲んでしまい……。自身の部下にも振る舞い、かなりの本数がなくなってしまいました。混乱したシェフがソムリエと共に、魔術師アンディ様に相談したいと言われ……」
アンディは警備体制のサポートしているが、まさか厨房で起きたこのトラブルにも呼び出されるの!? 儀式の多くが侍従長が取り仕切る。このシャンパン問題は侍従長に相談するべきでは!?
「まさかシャンパンを魔法で調達して欲しいということか!? シャンパンは全て念入りな検品と毒見が済んでいるものだ。魔法で用意したシャンパンを、各国の来賓に出せるわけがないのに。……ともかく僕ができることがあるのか分からないが、会うとしよう」
なるほど!
王宮付き魔術師に求められることは、多岐に渡るんだわ。
「あ、あの、それ、私も同行します。私はウララ公国の公国魔術師です。大公が……その、ご迷惑をおかけしたこと、深くお詫びします。申し訳ありません。私で手伝えることがあれば、お手伝いさせてください」
ブリュレの言葉にアンディは「同行を許可しよう」と言い、騎士には……。
「宰相に今の件を伝え、会議には遅れると」「かしこまりました!」
アンディはマシュマロを連れ、急ぎ足で移動を開始。
残されたストリアと私は「「大変……」」と声が揃ってしまった。
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【完結】一気読み派の読者様へ
『悪役令嬢は我が道を行く
~婚約破棄と断罪回避は成功です~』
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【『風媒花とヒヤシンス:変わらぬ愛の物語】が完結。
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