31:二人の美しい……
「ナタリー!」
宮殿の庭園の一角に、アンディは昼食の用意をしてくれていた。
そこにはパーゴラ(藤棚)があり、その下にテーブルと椅子が並べられている。
私をエスコートしてくれたディーンとはここでお別れ。
ディーンは父親であるオルドリッチ辺境伯と社交を兼ねた会食ランチの予定があるからだ。
そのディーンと入れ違いのように、マシュマロを連れたアンディが姿を現わした。そして私を見つけるとダッシュでこちらへ来て、熱い抱擁。
もうこれには愛されていることを実感し、メロメロになりそうになるが……。
「ついにするか」
「すると思うわ」
「して欲しいわね」
パール、ブラウン、マシュマロの言葉にアンディが我に返り、熱烈抱擁タイムは終了。
そこで気が付く。
アンディの背後に見知らぬ女性が二人いることに。
「アンディ、こちらは……?」
「あ、すまない。忘れていた」
「もう、ひどいわ、アンディ!」
いきなりアンディを名前で呼んだのは、赤毛に琥珀色の瞳、キャロットオレンジ色のローブを着た女子だ。ツインテールにした左右の髪を三つ編みにして、輪っか状にしてまとめ、ローブと同色のリボンでとめている。どこか魔法少女っぽい。
「悪かったよ。今、ちゃんと紹介するから」
そう言うとアンディは私から離れ、順に二人のことを紹介してくれる。
「ナタリー、彼女はウララ公国の公国魔術師のブリュレ・ノートン。こちらはブルームーン帝国の帝国魔術師のストリア・ティロール」
魔法少女っぽい方がブリュレ、もう一人の銀髪ロングに碧眼で、瞳と同じ碧いローブを着ている綺麗な女性がストリア。二人とも……魔術師なんだ。しかも建国祭に合わせて来ており、アンディと一緒にいるということは……それぞれ公国、帝国のお抱え魔術師。つまりとんでもないエリートだ。
見た感じ、年齢は私やアンディと同じぐらい見える。
若いのにその地位ということは、魔術師としての腕も相当なのだろう。
なんだか……圧倒される。
「二人とも、今回の建国祭にあわせ、それぞれの大公、皇太子と共に、マルセル国へやって来た。さっきまで警備体制の件で打ち合わせをしていたんだ。二人とも、昼食は自由行動。よって俺達と一緒に食べたいらしい。元々建国祭の最中は、晩餐会などの公的行事をのぞき、コース料理の提供はないんだ。よって大皿料理が用意されるから、人数が増える分には問題ないけれど……」
そこでアンディの目を見て分かってしまう。彼としては私と二人きりで昼食を楽しみたいと思っていた。でもこの二人……主にブリュレの方だろう。彼女が「一緒にお昼を食べましょう、アンディ!」となったに違いない。
主賓たちは王族と昼食会で、付き人は食堂で昼食ができるようになっていた。でもアンディと食べたいと言うのなら……。
「お二人とも魔術師なんですね。初めまして。私はナタリー・ミラーです。ミラー伯爵家の長女で、こちらのアンディの婚約者です。せっかくですから一緒にランチ、いかがでしょうか」
これが私に求められた対応だ。そしてアンディの顔を見れば、正解だったと分かる。ホッとした表情をしていた。
ここまで付いて来た二人に挨拶だけして「ではご機嫌よう、さようなら」と言ってしまう、気の強い令嬢もいる。家格が高い公爵家や侯爵家の令嬢だ。彼女達がそういう態度をとっても、下位貴族の人間は何も言えない。私も今の自分の立場なら「ではご機嫌よう、さようなら」と言えるのだろうけど……。そんなことはしたくなかった。
アンディの立場への配慮もあるし、社交と外交の観点からも、一緒に食事がいいはずだ。
こうして近くにいたメイドにパール、ブラウン、マシュマロへ食事をあげてもらうことにして、私達は着席した。すぐに大皿料理が運ばれ、メイドがお皿にサーブしてくれる。
「それにしてもアンディ、あなた最高よ! 宝剣の着用を認めたけど、鞘から抜けない魔法をかけるなんて! 『陛下との会談で、抜く必要はないですよね』と冷静にあなたに言われた時のラクーン大公の顔! この小僧め!と思ったはずなのに、何も言えないんだもの。いい気味だわ~」
ブリュレはよく食べ、よく話した。しかも公国の大公はどうやら我が儘らしく、アンディの対応が気に入ったようで、ブリュレは大喜びしている。
「ねえ、アンディ、あなた公国に来ない? アンディがいてくれたら、とても仕事がしやすくなるわ!」
「ブリュレ様。他国の魔術師のスカウトは、国際協定で禁止されています。マーラン法、ご存知ですよね? かつて偉大な魔術師マーランが存命だった時代。大陸では、マーランを手に入れようと、熾烈な争奪戦が繰り広げられました。マーラン争奪のための戦争さえ、行ったのです。ゆえに各国の魔術師を自国にへ招くようなことは、国際協定で禁じられるようになったこと、お忘れですか?」
マーラン法!
王太子妃教育の一環でサラリと習った気がする。でも自分に深く関わることではないと忘れていた。
これだけ深く関わっているのに、忘れていたなんて!
それにしてもストリアは、見た目からしてクールビューティーだった。そして話し方も声音も、その見た目同様、少し冷たい感じだ。指摘されたブリュレは一瞬、しゅんとしたように思えたが……。
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