29:建国祭
「すごいぞ! あんなに巨大な人形が動いている!」
パールが興奮気味に叫び、ブラウンとマシュマロも感動している。
「見て! ハンサムな王子様もいるわぁ~」
「あたしはあの砂漠の王様みたいなのがいいわ!」
沿道でパレードを見守る人々からも、大歓声が起きている。
アンディと私、そしてパールとブラウンとマシュマロは、王族の観覧先のすぐ近くの貴賓席から、パレードの様子を見守っていた。
貴賓席には聖女であり神官長のルビー・アルティエリ、オルドリッチ辺境伯夫妻とディーン、オルドリッチ辺境伯のいとこにあたるマクラーレン公爵こと宰相夫妻とそのお嬢さんの姿もある。
遂に建国祭がスタートしたのだ。
今日から三日間は、国が主導で様々な行事が行われる。初日は今見ているパレード、夜は晩餐会。明日は日中、大聖堂で祝賀行事、夜は舞踏会。最終日は、功績のあった一般人も招待されるガーデンティーパーティー、夜は花火大会。国の行事はこの三日間だが、王都のお祭り状態は一週間続く。
王都では建国祭の一週間、街のあちこちに飲食や記念グッズを販売するスタンドショップが登場し、街灯には国花である薔薇が飾られ、建物には国旗が掲揚されていた。地方領から多くの領主が詰めかけ、さらに各国からの来賓、観光客も増え、一年で一番の人出となる。
この建国祭の警備体制に関わることになったアンディは……。
パレードの様子を楽しみつつ、騎士から報告を受けると、指示を出している。つまりとても忙しそう。
五歳で王太子の婚約者になってしまった私は、建国祭は王族の一員として毎年参加していた。国のすべての行事に王太子の婚約者として同席し、舞踏会も遅くならない時間まで椅子に座り観覧。その時はどれだけ警備に気を配っているなんて……正直、気にしていなかった。でもアンディの様子を見ると、大変なのだと伝わって来る。
しかもアンディは王宮付き魔術師に就任し、間もない。その上での初めての建国祭。勿論、警備の最高責任者は宰相であり、現場を仕切るのは王立騎士団で、現場責任者は騎士団長だ。アンディは王宮付き魔術師として、アドバイザーという立場に過ぎない。それでも根が真面目なアンディは、最善を尽くそうと頑張っていた。
「皆さま、最後のフロートが出発しましたので、これにてパレードは終了となります。夜の晩餐会まではご自由にお過ごしください」
係員の指示に、まず王族が退出。続いて各国の来賓が移動を開始する。晩餐会まで自由なのは、マルセル国の貴族達だけだ。王族と各国の来賓は、これから個別会談が忙しく行われる。その個別会談、マルセル国との関係性により、会談相手は国王陛下夫妻だったり、王太子だったりと相手が変わるのだ。昔の私は王太子の婚約者として同席していたが、分刻みでとにかく大変だった。
「ナタリー、本当はこの後、一緒にスタンドショップを見て回りたかったのだけど……」
そう言ってアンニュイな表情になるアンディは“ため息の貴公子”と評したくなる。
王立騎士団の儀礼用の濃紺の軍服に、自身の髪色と同じアイスブルーのローブをまとっているが、装飾品が多い。いつも飾りの少ないシンプルな装いが多いから、こうすると貴族っぽくなる……アンディは王族なのだけど!
王族ではあるが、立場は王宮付き魔術師。この建国祭でも、王子として外交に関わるより、内政……つまり王宮付き魔術師として動くことが優先された。
つまりパレードの観覧が終わったアンディは、現状の警備状況、刻一刻と報告される事案への対処を求められている。
表向きは、何の問題もなく建国祭は進んでいた。だが水面下では小さなトラブルが起きている。聞くつもりはなかったが、チラリと聞こえた騎士からの報告。例えばそれはこんな感じ。
「ウララ公国の大公ラクーン様が、伝統衣装で着用する宝剣は、どうしても陛下との謁見でつけたいと申されており、宰相がアドバイスを欲しいと」
会談の場への武器の持ち込みは一切禁止されている。
宝剣と言えど、剣であり、殺傷能力はある。
当然、武器扱いで持参はNG。
それはこの大陸共通のルールだった。
それに武器禁止については、事前に知らされていること。
一度は同意しているのに、当日になり、こんな風に我が儘を言う権力者がいるから……。
これに対しアンディは素早く対処する。
「分かりました。ウララ公国は民族意識が強いので、伝統を否定すると、戦争も辞さない好戦的な一面がある国です。会談の前に僕が大公に挨拶をして、宝剣に魔法をかけます。鞘から抜けない状態にすると宰相に伝えてください」
さすがアンディ! 相手国の特性を理解し、この判断ができるのは、王宮付き魔術師のアンディしかいない。皆が彼を頼るのも納得だった。
というわけで。
アンディが多忙なのは分かっている。
「大丈夫よ、アンディ。パールとブラウンと護衛騎士と一緒に少し街中を見たら、宮殿に戻るわ。そうしたら一緒にランチをしましょう。午後も……とにかく私は一人でも大丈夫だから。むしろ何か手伝えることはない?」
「ナタリー」とアンディは私を抱き寄せると「ありがとう」と耳元でささやく。
まだ貴賓席には沢山人がいる。
アンディ!と思うが……。
「ナタリーがそうやって俺を受け入れ、支えようとしてくれるだけで十分。お祭り、楽しんできて」
キュンな一言に周囲のことを忘れ、私もアンディをぎゅっと抱きしめてしまった。
























































