27:少しだけ甘えさせて
ギシッという音にドキッとした。
アンディが隣で横になったと分かった。
私はドキドキだが、もふもふ達からは「スー」「ピー」と寝息が聞こえ、爆睡している。
「ナタリー」
「な、何かしら!?」
「抱き寄せてもいい? 少し冷えるから……」
確かにくっつている方が温かい。
で、でも……!
ち、違うわ。
アンディは不埒なことは考えていない。
だって私の立場を理解している。
それにこうやって二人で森の家に戻ることを許してくれている、私の両親。
そう、両親にもアンディは、敬意を払っている。
ゆえに万一はない。アンディに限って!
よって「うん」と応じると、アンディがふわりと私を抱き寄せ、腕枕をしてくれた。
今もアンディからは石鹸のいい香りがしている。
ドキドキはピークだが……。
初めての腕枕……いい!
腕に頭を載せるわけではなく、腕の付け根というか、肩に頭を載せるのね。
「ナタリー」
「ひゃいっ!」
アンディが私の頭を優しく撫でたと思ったら……。
ゆっくり頭を枕に載せてくれる。
「こうやって、頭を枕に載せると、首のところに隙間ができるだろう。ここに腕を通すと痺れず、朝まで抱き寄せたまま眠ることができる」
「あ、なるほど」
「こうやってナタリーを抱きしめていると、安心できる」
ふわりとぎゅっと私を抱きしめるアンディの呼吸は、とても落ち着いていた。
アンディが俺様なのは表面的なもので、根は真面目なのよね。
「俺、大人しいと思う?」
「?」
「実は無理矢理気持ちを落ち着かせている。そうしないと俺……」
アンディがそこでぎゅっと私の体に触れている腕に力を込めるので、いきなり心臓が反応することになる。
「でもこんなに使い魔達に囲まれている。それにナタリーのこと大切だから我慢……」
「ありがとう、アンディ。私、アンディのそういう優しいところ、大好き」
「ナタリー。……少しだけ、甘えてもいい?」
アンディ……。
なんて可愛いのだろう。
これで「ダメ」なんて言えるわけがないのに!
少しだけ甘えるアンディとの時間を過ごしているうちに、気持ちが満たされ、深い眠りへと落ちて行く――。
◇
ザロックの森から戻ったアンディは、パールとブラウンに命じ、いろいろと調べてくれた。
その結果。
屋敷内でおかしなことはない。
使用人に私を狙う者はいないし、何か怪しい物が持ち込まれた形跡はなかった。
私の部屋の中にある、あらゆる物も総点検したが、特にこれと言って怪しい物は見つからない。
「まさかと思った。でも文献で調べたところ、こんな事例があった」
それは神話であるが、前世でも似たようなものがある。
多分、この乙女ゲームの世界でも、その話が採用されているようだ。
とある英雄の男性が、世話になり、結婚の約束をした魔女を裏切り、他の女性と再婚しようとした。それに怒った魔女が、呪いと毒を込めた美しい布を贈り、受け取った女性はその布をまとい、死んでしまったというのだ。
前世ではギリシャ神話で知られるイアソンとメディアの話と似ている。
「布に呪いや毒を込める……そこでシルク商会のスキー氏がナタリーに見せたレース。これについて調べてみたんだ」
スキー氏はそのレースの出所を私に話していなかったが、アンディから書簡で問われると、すぐに返信している。その手紙にはこう書かれていた。
『そのレースはニコラ修道院から寄贈されたものです。修道院にいる修道女の皆様が丹精込めて作り上げたものの一つで、王宮付き魔術師様とミラー伯爵令嬢の婚約を祝い、私の所へ贈られてきました』
「ナタリーは二コラ修道院、聞いたことがあるか?」
仕事を早く切り上げ、我が家にやって来たアンディは、紺碧色のセットアップにアイスブルーのローブを羽織っている。アンディにとっても似合って素敵……ではなく、ニコラ修道院!
「あるわ。だってそこには、あのリリィがいるもの」
そう答えたローズ色のドレス姿の私は、ハッとすることになる。
「まさかレースに」
「そのまさかだと思う」
そう言ったアンディは、金属製の箱を、何もない空間からいきなりひょいと取り出す。
これはまるでマジックみたい!
れっきとした魔法なのに!
「スキー氏からそのレースを証拠品として預かって来た」
そう言うとアンディはこんなことを話しだす。
「例えば辰砂という鉱石がある。これは顔料、薬、装飾に用いられているが、その正体は硫化水銀だ。通常、毒性はないが、ある条件下で問題が起きる。熱を加えることだ。加熱されることで、硫化水銀が分解し、有毒なガスが……水銀蒸気が発生する。これを吸い込むと中毒死に至る可能性がある」
「まさかレースにその辰砂が!?」
「辰砂は赤い色をしているから、違う。でもこのレースには、別の物質が糸に含まれていた。白色の粉末状で、通常、25℃以下では無害。湿度などの外部影響も受けにくい。だが人間の体温に近い温度に達すると、活性化される」
それは……前世では聞いたことがない、この世界に存在する物質だった。
























































