26:まさかのドキドキ展開に
「……どうしたの、アンディ?」
「ナタリー……今週、何があった!?」
甘々な雰囲気の中、手の甲へキスをされる……のかと思ったら!
真剣な表情で問い掛けられ、私はキョトンとしてしまう。
それを見たアンディは私をひしっと抱きしめる。
「どうしちゃったの? アンディ……!?」
「指輪の変化、気付いていない?」
「えっ……」
アンディが腕から力を抜いたので、改めてメビウス・リングを見ると……。
「あ、少し変色しているかしら? 古いものだし、劣化かしら?」
するとアンディはふるふると首を振る。
「合金であれば、金に他の金属が含まれるから。劣化もある。でもこれは純金だ。純金は柔らかいから細かな傷はつくかもしれない。でも変色なんてしない。その性質上」
「えーと、酸化したり、錆びたりは?」
「合金ならする。でも純金はしない。ましてやこれは錬金術師が作ったもの。こんな風に変化するわけがないんだ」
アンディは壊れ物に触れるように、私の手を持ち上げ、考え込む。
「メビウス・リングの変化には、意味があるはずだ。つけているナタリーへのSOSの合図だと思う」
「そんな……でもありきたりの日常しか送っていないわ」
「その日常の中に、魔が潜む可能性もある。……ただ、ブラウンやパールがいるんだ。魔法だったら察知できるはず。魔法ではない別の方法でナタリーが狙われたとしたら……いや、その前に。普段とは違う行動、一切なかった?」
問われて思い出すことは……。
「絶対に違うと思うけど、シルク商会のスキー氏と面会したわ。ウェディングドレスの件で」
「シルク商会のスキー氏……。身辺調査は済んでいる。問題はなかったはずだ。ウェディングドレスの件で打ち合わせしただけか?」
「そうね。とても綺麗な手作りのレースを入手したからと、見せてくれたのよ。細い糸を使って、それは丁寧に、複雑で繊細なデザインを表現しているの。あれはまさに職人技で、ベールにするには」
「ごめん、ストップ、ナタリー。ドレスに使うレースだろう? それは関係ないだろう。スキー氏の様子がいつもと違うとか、何か渡されたとか、それはない?」
それについてはいつも通りの男装の麗人で、特に受け取った物はないとしか答えられない。
「そうなると……普段とは違う行動で何かあった線は消えるか。俺が動ければいいけど、仕方ない。ブラウンとパールに徹底的に調べさせる」
「この変色はこのままなのかしら?」
「マーランがこのメビウス・リングに、どんな魔法をどれだけ込めたかは分からない。それにどの魔法が発動したのかも……。ただ、ナタリーの身に危険が迫ったことは確かだ。その危機が回避されない限り、この変色は残ると思う……」
そこでアンディの顔がずんと暗く沈む。
「……マーランは職務上やむを得ず、自身の最愛を失うことになった。俺は……絶対にそんな風になりたくない」
「アンディ……。でもほら、見て。私はこの通り元気よ。どこも」
再びぎゅっと抱きしめられ、石鹸のいい香りに包まれる。
「いっそ魔法でナタリーの姿を変えて、俺のそばに」「ダメよ、アンディ、そんなこと!」
そう言ったものの。
気が付いてしまった。
いつも自信に溢れるアンディが、震えていることに。
「アンディ、落ち着いて。私はアマナさんとは違う。彼女のそばには使い魔もいなくて、メビウス・リングもなかった。それに居酒屋で働く身で、不特定対数の人と会うことが多かったと思うの。でも私は貴族令嬢で、屋敷には警備の兵だっている。基本的に約束をした相手としか会わないし、社交界シーズンが始まったら、アンディと一緒に晩餐会や舞踏会へ行くつもりよ。だから安心して」
「そうだな……。ありがとう、ナタリー。でもそこまで君の自由を奪うことはしたくない。過剰に心配するつもりはないけど……。現に今、メビウス・リングは変色している。起きるかもしれない――ではないんだ。既に起きている。だから俺は……」
そうだった。
アンディは過剰な心配で震えているわけではない。実際に起きているからここまで心配しているんだ。
そんな彼を安心させたい一心だった。
私は……ある提案をしていた。
◇
「ナタリー、明かり、消すよ?」
「う、うん。そうね」
もはやどんな会話をしたか思い出せない程、緊張している。
だって!
アンディと一緒のベッドで休むことになったのだから……!
王宮付き魔術師として忙しいアンディと過ごせる時間。それは限られていた。そして今、アンディは私の身を強く案じている。
日々の忙しさを忘れ、リフレッシュするため。
留守番をしていたもふもふ達と再会し、私とみんなで楽しい時間を過ごすために。
森の家に帰って来たのだ。
だが不安要素を見つけたアンディは、ベッドに横になっても眠れないはず。
だから提案してしまったのだ。一緒に休もうと……。
勿論。
貴族令嬢である私の立場を分かっている。だからアンディは額面通り「ただ一緒のベッドで休む」だけ、だと思う。何せもふもふ達も枕元に大集合している。アンディのベッドで爆睡中だったもふもふ達も、私の部屋に連れてきたからだ。
もし朝になり、アンディがいないとなると、もふもふ達は大騒ぎになるだろうから……。
ギシッとベッドの軋む音に、心臓が飛び出しそうになる。
アンディが隣で横になった……!
























































