23:一件落着
ソーニャの置かれている状況。
それはメビウス・リングの魔法が発動し、私は知ることになった。
家族との関係で悩んでいること。
リックに脅され、私に対し、何か悪事を働こうとしていること。
本当は悪事に手を染めたくないと思い、私に打ち明けたいと思っていることに、気づけたのだ。
だからソーニャに問い掛けた。
「ソーニャに聞きたいことがあるの。ソーニャも私に、何か聞きたいことがあるのでは?」と。
その後ナイトティーは、ソーニャと一緒に飲み、話をすることになった。
ソーニャの話を聞き、弟のリックの暴走状態に、驚愕することになる。
まさかそれが何であるとも知らずに、メビウス・リングを偽物とすり替えようとしているなんて! しかもリメイクして、元ヒロインのリリィに贈ろうとしているなんて!
それこそ鬼に金棒になってしまう。
リリィは魅了魔法でも使い、攻略対象達を次々と手に入れるに違いない。
それを阻止できたのは……幸運だった。
ではどうやって阻止したのか。
ソーニャが裏切ったと知れば、リックは容赦ないだろう。
彼女の姉の醜聞を社交界に流し、一族が再起不能になるよう仕向ける。
それは阻止しなければならない。
「確かにこの指輪、私が持っている指輪とそっくりだわ。これを逆手にとりましょう」
私はソーニャにそう言うと、思いついた方法を説明した。
まず、リックが用意した指輪に『すり替えが成功しました』という手紙を添えて送り返す。そこでリックが疑わないよう、一捻りを加える。
この指輪をつけると、魔法を三回だけ、呪文なしで発動できる――という捻りを。
リックは間違いなく、魔法三回に目が眩む。
まさか自分が用意した指輪が戻って来たとは気づかない。
しかもあの指輪。
本当に魔法がかかっていたのだ。
そう、アンディに魔法をかけてもらっていた。
「俺がかけた魔法も、うまく発動したんだな」
まさにアンディの魔法のことを思い出しているタイミングで、彼がマカロンをつまみながら、声を掛けてくれた。
「ええ。アンディにかけてもらった二つの魔法は、見事発動してくれたわ。一つ目の魔法は、ソーニャの手紙を読んだら、問答無用で屋敷に戻ることを決め、両親に手紙を書くこと。二つ目の魔法は屋敷に戻り、私が『私に打ち明けるべきことがあるのでは?』と言ったら、本音で全てを話すこと。二つの魔法が発動し、リックを追い詰めることに成功したわ」
あの偽物の指輪に魔法をかける場合、通常は一つが限界。でもそこは王宮付き魔術師のアンディ。人の言動をコントロールする、とても高度な魔法を、ただの金メッキの指輪に二つもかけてくれたのだ。
メビウス・リングであれば、魔法の重ね掛けができる。だが普通の物に対し、複数の高度な魔法を掛けることは、できなかった。だからこそ魔法の重ね掛けができるメビウス・リングは希少であり、貴重だった。
ということでかけられていた魔法は二つのみ。
ではリックが発動した魔法は?
ない。リックは魔法を発動していない。
ただ、私の誘導尋問に乗ってしまったリックは、想定通りの質問を私にしていた。
――「姉上、三回、魔法を使ったのですか!?」
それをのらり、くらりとかわせば、当然だが「本当はどうなんですか!」と問いたくなる。
そして尋ねたのだ、リックは。
分かりやすく指輪を私に向け、いかにも魔法を発動させました!という顔で。
そうなれば私は、あたかも魔法のせいで答えました――という演技をすればよかった。
そう。
あれは私の演技だったのだ。
「ではナタリーの作戦は大成功だったということで、改めて乾杯をしよう」
そう言ったアンディはティーカップを掲げる。
紅茶で乾杯だなんてシュールだけど、私もティーカップを持つ。
「ナタリーの勝利に、乾杯」
「アンディの魔法に、乾杯」
◇
修道院で大人しくしていると思った元ヒロインのリリィ。
俗世から切り離され、悔い改めているのかと思いきや、弟のリックをそそのかすのだから……。
本当に恐ろしいわ。
でも目の前に迫りつつあった脅威は、アンディの協力を得て排除することができた。
剣を使えるわけでもない。魔法を使えるわけでもない。
そんな私でも、ちょっとした気づきからソーニャを味方につけることができた。
そして話術とアンディの魔法により、一件落着にできたのだ。
私、やればできる子なのかも!
きっとこの先、何か事件が起きたとしても。
アンディと共に乗り越えられるはず!
……一番は平穏無事なのだけどネ!
お読みいただき、ありがとうございます!
リックの件はひと段落しました~
























































