21:三回
「やめろ! 放せ! 放さないと魔法を発動するぞ! 呪文を唱えなくても、考えるだけで魔法は発動するんだぞ!」
リックの言葉にバトラー達の手が止まり、両親と兄も固まってしまう。
「ナタリー、リックが言っていることは本当か?」
兄に問われた私は「そうですね」と答えた。
すると今度は父親が私に尋ねる。
「大切な指輪なのだろう? アンディ様にもらった。リックに譲るつもりはないはずだ」
「あの指輪は別に構いません。リックにあげます」
「「「「ええっ!」」」」
両親と兄が叫ぶのは分かる。
しかしリックまで声をあげることには……呆れるしかない。
「それでリック。そのゴールドの魔法がかかっている指輪。実際に魔法を使ったことはあるの?」
「そんな簡単に使うわけないだろう、姉上。ソーニャによると三回しか……しまった! 回数は秘密なのに!」
「使えるかどうかも試さず、本当に魔法が使える指輪なのかしら?」
リックはムッとした顔になる。
「姉上、自分が婚約者にもらった指輪なのでしょう! 魔法が使えるかどうかだなんて疑うのは、ご自身の婚約者に対する侮辱になりますよ!」
「でも私、性格的に本当に魔法を使えるのか、試すと思うの。それに魔法なんて一度も使ったことがないから、使いたいってどうしても思ってしまうと思うのよ」
「ま……まさか、姉上はたった三回しか使えないのに、そのうちの一回をもう使ってしまったのですか!?」
そこで私はニッコリと笑う。
「さあ、どうかしら? でも呪文いらずで使えるでしょう。うっかり……はあるかもしれないわよね?」
メイドに合図を送ると、すっかり冷めた紅茶を新しいものに変えてくれる。
それを私は優雅に口へと運ぶ。
「リリィ嬢に贈った時。魔法を使える指輪のはずが、使えないと分かったら……百年の恋も冷めてしまいそうね」
「姉上、三回、魔法を使ったのですか!?」
「さあ、どうかしら?」
リックは「可能性としては……本当に使えるか気になり、一度試した。ということは、あと二回は使えるはず。そうだ。使えるはず……」と呟くと、ハッとした表情になった。そして拳にした手を、私の方へ向ける。まさにあの指輪を見せつけるように。
「姉上、答えてください! この指輪、あと何回、魔法を使えるのですか!?」
「はい。リック様、お答えします。ゼロ回です」
「な……!」
そこでリックが地面へと崩れ落ちる。
「使えるか試したので一回。それに加え、うっかりで一回、使ってしまったのよね。残り一回だった。リック、魔法で命じて私に答えさせるなんて。愚かなことをしたわね。でも今、ちゃんと私は答えた。魔法を使える指輪というのは、本当だったのよ、リック。でも今はただのゴールドの指輪ね」
「くそっ! こんな指輪ー!」
リックが指輪を外し、投げつけた先にいたのは……。
「これは……どういうことだろうか?」
爽やかな声が聞こえる。
声を投影したかのような、これまた清々しい顔立ちの青年が、指輪をキャッチしていた。
髪の色はアイスブルー、瞳はラピスラズリ。鼻梁が通り、薄紅色の綺麗な形の口をしていた。肌艶も良く、着ているスカイブルーのセットアップとパールホワイトのローブも実に似合っている。
そう、私の最愛、アンディだ!
リックが戻る件は、アンディにも話していた。
でもリックが来るのは、彼が仕事の最中。
顔を出すことは難しいと思っていたが……時間を調整し、来てくれたようだ。
「俺に物を投げつける……それは不敬罪に問うことが可能だと、知っているか? 王宮付き魔術師が、国王陛下から許可されている特別権限の一つ。それは自分自身やその家族に対する侮辱を、不敬罪に問うことができることだ」
「!? 偶然です! たまたま投げたら」
「しかもこの指輪は、俺がナタリーに贈った物だ。なぜそれを君が……君があのリックか?」
アンディの整った顔が、冷たい表情になると、周辺の気温がぐんと下がったように感じてしまう。
その顔で怒るだけでも、武器になるのね……。
「ミラー伯爵。彼を不敬罪に問うこと、お許しいただけますか?」
「ええ。そう言われても仕方ないことを、アンディ様がいらっしゃるまでの間、さんざんこのバカ息子は言っていました。不敬罪に処していただいて構いません。ただ、どうか死刑だけは。禁固刑や罰金刑にしていただけると……」
「ち、父上、なんてことを!」
だが父親はもう呆れており、警備の兵を呼び、リックを連行させる。
リックは何度も両親の名を呼ぶが、父親は……。
「実の姉に対し、あんなことを言えるなんて……。牢獄の中で、反省するといい」
止めるかと思った母親も「死刑にならないだけでも、良かったと思いなさい。これを機に、あの悪女との縁も切るといいわ」とバッサリ。
一方のアンディは両親に対し、こんなフォローをする。
「幽閉で済むようにします。おそらくリリィという女性から、入れ知恵されていた可能性もあると思うので。彼女と距離を置くいい機会だと思います。カウンセラーや司祭とも、定期的な面談をさせましょう」
「「「ありがとうございます!」」」
両親と兄が、アンディに頭を下げた。
























































