20:彼の暴走
「下剤でも飲み物に混ぜるよう、ソーニャに指示を出そうかと思っていたんですよ。そうしたら連絡が来たんです。姉上はゴールドの指輪を婚約者から贈られたようだと。それを聞いたら、少しイラッとしました。リリィ様は修道院で着飾ることも許されないのに。姉上は婚約指輪もあるのに、ゴールドの指輪まで婚約者に貢がせたことを」
「なっ、貢がせた、だなんて! ナタリーと王宮付き魔術師であるアンディ様に失礼だぞ!」
父親が叫び、母親が宥める。
「そこでソーニャに、姉上が持つゴールドの指輪のスケッチを描かせました。彼女、美術の成績が良かったのでしょうね。とても精巧なデザインの絵を寄越してくれたから、早速、レプリカを作ったんですよ。金メッキの」
私はそこでそっとテーブルに、婚約指輪とゴールドの指輪をつけた手を載せた。
両親も兄も、リックさえ、私の手をじっと見ている。
「ソーニャに命じました。偽物の金メッキの指輪と、本物のゴールドの指輪をすり替えるようにと」
再度全員が、私の手についているゴールドの指輪を見た。
「婚約者が姉上に贈った指輪は、純金製ですよね。価値あるものと分かります。いつかリリィ様が修道院を出た時に差し上げるか、豪華な宝石をつけた指輪にリメイクして贈るのがいいか。いずれにせよ、利用価値があると思ったのです。それに偽物だと知らずにつけている姉上を見たら、少しは溜飲も下がるというもの。そしてソーニャは差し替えた指輪を送ってくれたのですが――」
そこでリックはテーブルに自身の手を載せた。
その手には、私がつけているゴールドの指輪と同じものがつけられている。
これを見た両親と兄は……。
「「「ナタリーにすぐに返しなさい!」」」
今にもリックに噛みつきそうな勢いで、そう叫んだ。
だがリックは――。
「父上、母上、兄上。落ち着いてください。どうして僕ばかり怒るのです? 王都のはずれの安宿にいる僕が、可哀そうだと思わないのですか? 姉上のせいでこうなったのですよ。それに姉上は『返せ』と言っていないのに、どうしてみんながそんなにムキになるのですか?」
父親は頭を抱え「どこでどう育て方を間違えたのか」と嘆き、母親と兄は「「すべてあのリリィという悪女のせいです!」」と声を揃えたが……。
「母上、兄上! リリィ様のことを悪く言ったら、いくら家族とはいえ、許しませんよ?」
「リック、いい加減にしろ! ナタリーのものをすり替えておいて、本人が返せと言わないから自分のものにしたり、リリィに贈るなど言語道断だ。目を覚ませ、自分の言動がいかに狂っているか、気付かないのか!?」
兄の言葉にリックは、片眉をくいっと上げる。
それはまさに“心外”という顔だ。
その上でリックは、ゴールドの指輪をつけた手を拳にして、前へと突き出す。
「これは姉上の婚約者、王宮付き魔術師が贈ったもの。ただの指輪だと思うのですか? ソーニャの手紙にはこう書かれていました。『この指輪はただの指輪ではない。婚約者の魔法が込められた指輪です』と。魔法が込められた指輪! すごいじゃないですか。リリィ様にお渡しするまでは、僕のものです」
「リック、それはナタリーが婚約者から贈られた大切なものなんだ。ナタリーに返しなさい。それにリリィという女に贈り物をするなら、自分の力で手に入れた物にするべきだ。盗んだ物を贈られて、喜ぶ人間がどこにいる?」
父親が半ば呆れた様子でそう言うと、リックの顔が赤くなる。
「な、父上、ヒドイです! 魔法が込められた指輪なんて、早々手に入る物ではありません! それなのにいとも簡単に自分で買えだなんて!」
「リック。お父様は、魔法が込められた指輪を買い、リリィさんに贈ればいいだなんて、言っていないわ。別に魔法が込められた指輪を贈る必要なんてないでしょう。綺麗な薔薇の花束やチョコレートだっていいじゃない」
「なんてことを母上! リリィ様を愚弄しないでください! あの方に薔薇やチョコレートなどありきたりの物を贈っても、喜んではいただけません。きっとこの指輪を贈れば、リリィ様は僕と結婚することを誓ってくれます!」
リックが目を輝かせているが、家族はドン引き状態。
「恋は盲目と言いますが、リックはもはやリリィという女以外は頭に入らないようです。これ以上何を言っても無駄かと」
兄の言葉に父親が頷き、バトラー達を呼ぶ。
控えてこの様子を見守っていたバトラー達。
何をすればいいか、分かっているようだ。
細かい指示を父親が出さずとも、動き出す。
つまりはリックに近づき、その手を押さえ、指輪を外そうとしたが――。
「やめろ! 放せ! 放さないと魔法を発動するぞ! 呪文を唱えなくても、考えるだけで魔法は発動するんだぞ!」
リックの言葉に、バトラー達の手が止まる。
























































