19:彼の帰館
ミラー伯爵家の庭園。
実は自慢できる庭園だ。
なぜならその庭園は、ちょっとした遊びの施設みたいだから。
なにせ庭園の中には、温室、ミラーハウス、バードドームがあるのだ。
だが今日はそららで遊ぶわけではない。
久しぶりに屋敷へ戻って来るリックを、わざわざ仕事を休んだ父親に加え、母親、兄、そして私と家族全員が迎えることになった。そして話し合いの場を設けることになったが、それは庭園で行われる。
庭園にしたのは秋晴れで気候も良く、室内より明るく、気分が上向くと思ったからだ。
何しろ私は全てを知っているが、両親と兄は何も知らない。
急に屋敷に戻ると言い出したリックに対し、緊張している。
その緊張が少しでも緩和するようにと、庭園の一角にイスとテーブルを用意してもらい、そこでティータイムの時間を使い、リックを迎えることにしたのだ。
予定時刻通りにリックは、ミラー伯爵家に戻って来た。
馬車から降りたリックは、安宿暮らしが長引いているからだろうか。
金髪はボサボサに見えるし、目の下にはクマもある。
着ている臙脂色のスーツも皺が目立つ。
一方の父親は、グレーのセットアップ、母親はプラム色のドレス、兄はダークグリーンのスーツとビシッと決まっていた。私もロイヤルブルーのドレスをしっかり着て、オシャレをしている。
私達がきっちりしている分、リックのそのヨロヨロした感じが際立つ。
正直、もうリリィのことは諦め、屋敷に戻った方がいいのに……と思ってしまう。それは両親も兄も感じているに違いない。
ともかく家族四人でリックを出迎えると、そのまま庭園の席まで案内することになった。
庭園に到着し、全員が着席すると、父親が合図を送る。
メイドが一斉にティーカップに紅茶を注いだ。
ひとまず全員で紅茶を飲み、一息つくと、父親が口を開く。
「それでリック。突然、屋敷へ戻って来たのは、何かあったのかね?」
「……お姉様が屋敷へ戻って来いと、手紙を……寄越したのです。兄も婚約したのだから、一度くらい顔を出しなさいと」
これを聞いた両親と兄は「「「!?」」」と驚いている。
兄の婚約者になったイングリッドの家族を招いての夕食会。参加するようにと両親が手紙を何度送っても、リックは無視だった。それなのに私の手紙で帰って来たことに、衝撃を受けている。それを含め両親に話していないのは……全て理由があるのだけど……。
「どういうことなんだい、ナタリー?」
父親に問われた私は、逆にリックに尋ねる。
「呼び出したのは私よ、リック。でも応じたのはあなた。ここへ来たということは、理由があるのよね。つまりリックから私に、打ち明けるべきことがあるのでは?」
これを聞いた瞬間。
リックはぐっと手を握り締める。
その手には∞をモチーフにした、捻りのデザインの金の指輪がつけられている。
「その通りです。打ち明けることがあります。そのために屋敷へ戻りました」
両親と兄は「「「!?」」」とリックをじっと見つめる。
「僕はこのミラー家の屋敷に、スパイを置いていました。ソーニャというメイドで、彼女が僕のスパイです。ソーニャには姉がいるのですが、彼女は僕と一度、一晩の関係を持ったことがあります。仮面舞踏会で」
「「「何っ!?」」」
両親と兄の声が揃い、一斉に話し出しそうになるのを、私は制した。
三人ともぐっとこらえ、そしてリックは話を続ける。
「嫁入り前なのに、僕と関係を持ったソーニャの姉。姉の恥をバラされたら、ソーニャの一族は、恥をかくことになります。社交界から干されますよね」
「まさかそれをネタに、ソーニャというメイドを脅したのか!?」
父親が怒鳴るように言うので、それは母親が宥める。
「ええ、その通りです」
「それが公になったら、リック、お前自身の恥にもなるんだぞ! ミラー家だって後ろ指を刺される!」
兄がそう言うと、被せるようにしてリックが口を開く。
「僕はどうせ今、社交界から身を引いた状態。社交界から干されようと、関係ありません。そもそもそんな醜聞、王都のはずれまで届きませんよ。それに僕が王都のはずれにいることは、既に噂になっているでしょう。その僕がワンナイトラブを過去に楽しんでいたとしても、“ああ、ミラー家は、嫡男はよくできた息子なのに、次男は……”と言われる程度で済むはずです」
「「なっ……」」
父親と兄が絶句しているが、構わずにリックは話し続ける。
「さらに言えば姉上は、王宮付き魔術師の婚約者なんです。ミラー家そのものを攻撃するような噂をすることは……ないでしょう。婚約者がその攻撃に対し、何をするか分かりませんから」
「「むむっ」」
今度は父親と兄は唸っている。
「ということで脅迫した結果、ソーニャは僕のために、姉上の情報を定期的に知らせてくれるようになりました。リリィ様が修道院に入ることになったのは……姉上のせいでもありますよね? リリィ様が姉上に無実の罪を被せた。リリィ様がそうなるまで、姉上が追い詰めたのです。だから少し姉上に意地悪をしたかったのです。そのための情報収集を、ソーニャにさせていました」
「お前は実の姉に対し、なんてことを言い出しているんだ!」
ガタッと音を立て、父親が椅子から立ち上がり、母親が「あなた」とひとまず席に座らせる。
「でもソーニャが無能なのか、姉上が平和ボケしているのか……。寄せられる情報は……平日は、半年後の結婚式に向けた準備や令嬢を招いてのお茶会。今の時期は舞踏会や晩餐会もないので、夜は読書をしたらすぐ寝てしまう。週末になると婚約者と森に引きこもる。味気ない日々で意地悪のしようもない」
「「「リック!」」」
両親と兄が同時に怒鳴るので、私が「落ち着いてください」と三人を宥める。
だがリックはさらに三人が激高しそうなことを話しだした。
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【お知らせ】第四章完結
『森でおじいさんを拾った魔女です
~ここからどうやって溺愛展開に!?』
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まるで大人のおとぎ話。
おじいさんの正体は実は●●●で
引っ込み思案の魔女は、彼と共に旅に出て……。
遂に始まる決戦とその結末。
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