15:幸せの裏側で
『君の姉がやったこと。もし世間が知れば、どうなると思う? 君の姉が恥をかくだけではない。君の両親、君自身、親族……一族が社交界から干されるぞ。そうなれば運営する商会にも当然、影響が出る。借金が重なり、爵位の維持も……難しいだろう』
リック様から届いた手紙。
一通の手紙が私の運命を変える……。
◇
私は男爵家に生まれた末っ子。
末っ子といえば、愛されるイメージがあるが……。
我が家は違う。
まず、長女と次女は父親と同じブロンドで青い瞳。
でも私は母親と同じ、赤毛で瞳はヘーゼル色。
母親自身、自分と瓜二つの私より、父親似の二人の姉を、赤ん坊の頃から可愛がっていたという。
実際、私自身、両親に大切にされていると感じることは……少なかった。
その理由は簡単。
愛され役は末っ子ではなく、我が家の場合、長女にあったからだ。
長女は器量も良く、頭もいい。
両親は、将来、長女が玉の輿に乗ると信じた。
よって何かと気にかけるのは、姉だった。
その一方で次女は、少し変わっている。
五歳で厚い信仰心に目覚め、修道院に入ることを願ったのだ。
両親は最初こそ驚いたが、次女が修道院に入れば、いろいろな費用が浮く。
浮いた費用は……すべて長女へ使うことができる。
そこで表向きは泣く泣くで、次女が修道院へ向かうことを許した。
そして私。
三女であるが、実質次女に格上げされたが……何も変わらない。
蝶よ花よで育てられるのは、変わらず長女だ。
私が社交界デビューしても、長女の婿探しに奔走する両親は、私の結婚相手のことなど全く考えてくれない。それどころが学校を卒業すると「行儀見習いでメイドでもやりなさい」と、やんわり屋敷から追い出された。
こうして行儀見習いのメイドとして働き始めたのが、ミラー伯爵家だった。
ミラー伯爵家でメイドで働くこと自体、私にとっては転機になる。
環境がガラリと変わったことは勿論、実家にいた頃より、食事は豪華になり、与えられた部屋もシンプルだが調度品の質はいい。何よりも給金がもらえる。半分は実家に送金することを強要されていた。でも残りの半分は自由に使えるのだ。
少しずつお金を貯め、いつかは自由を手に入れる。
そう誓い、頑張っていたのだが……。
ミラー伯爵の次男であるリック様。
彼の専属メイドの一人に抜擢された時は、少し胸がときめいた。
リック様は癖毛のブロンドに、ワイン色の瞳で、王子様みたいな風貌だった。
私より三歳年下で、少しあどけなく、なんだか弟みたいにも思える。
そんなリック様に仕える日々は、とても楽しいものだった。
だがしかし。
リック様の様子がおかしくなったのは、一人の女性に入れ込むようになってからだ。
平民出身ながら、頭の良さが買われ、なんとリック様が通う学園に入学した。
そのリリィという娘以外は、王侯貴族の令息令嬢ばかりなのに。
しかも学費が高額なので、我が家では長女が入学したが、私の入学は許されなかった。
ともかくそんな幸運の持ち主であるリリィに、リック様が恋心を持つ。
リック様の性格が変わっていったのは、その頃からだ。
なんというか、妄信的にリリィに心酔していったのだ。
そのピークが自身の姉よりも、リリィを選んだところだと思う。
そもそもリック様の姉は、王太子の婚約者だった。
ところが婚約破棄を自ら宣告し、不敬罪に問われ、鞭打ちされた上で国外追放されている。それだけ聞けば、その姉であるナタリー様はどんな令嬢なのかと思われるだろう。でも私が知る限り、ナタリー様はそこまで悪人とされるような人間には思えなかった。
なぜなら王太子は、リック様が心酔するリリィと、その後すぐ婚約したのだ。それはどう考えてもナタリー様という婚約者がいる間に、王太子がリリィとの関係を深めた可能性が高い。つまり王太子は浮気していたのだ。そんな王太子に愛想を尽かすのも、そのリリィに対し、ナタリー様が嫌がらせするのも……仕方ないのでは?と思えてしまう。それは狩りやスポーツで、弱者や劣勢なチームを応援したくなる気持ちに少し似ていた。
ナタリー様が屋敷からいなくなり、しばらくすると、事態が動く。
私の勘が当たったのだ。ナタリー様は無実であることが判明した。しかも王太子はナタリー様を取り戻すため、とんでもないことをやらかしたようで、廃太子に追い込まれている。
ナタリー様の代わりに、王太子の婚約者の座に収まっていたリリィ。彼女と王太子の婚約は破棄された。そしてリリィは修道院送りになったのだ。
そもそも王太子の新しい婚約者になったリリィの評判は、すこぶる悪いものだった。王太子の婚約者になれたことに舞い上がり、その言動が度々問題視され、浪費癖も指摘されている。その悪事がバレた時は、「それ見たことか」となったのだが、リック様は違う。
「姉上がリリィさまをいじめていなかった……国王陛下もそう言うのなら、それはそうなのでしょう。でも僕はリリィさまの味方です。あんなに美しく、若いリリィさまが修道院でこれから一生過ごすなんて、僕には耐えられません。なんとしてもリリィさまを救い出します」
こんなことを言い出し、屋敷を出て行ってしまう。向かった先は、リリィが入ることになった修道院のある王都のはずれ。そこの安宿に滞在し、リリィ解放の嘆願書を毎日のように書き、リリィと面会するため、毎日修道院へ足を運んでいるというのだ。
妄信的にリリィに心酔するリック様に、屋敷へ戻るようにと、ミラー伯爵夫妻はあの手この手を試みるが、成果は出ない。
そんな状況なので、しばらくリック様は戻らないだろうとなり、私はリック様付きの専属メイドから、屋敷全般の業務を担当するメイドに配属されることになった。















