12:悲劇を繰り返さないために
「全て終わったと感じた。そんな折、僕は気づいてしまった」
そこで言葉を切り、マーランはこんなことを語り出す。
「強い魔力を感じるのは、久々だった。その魔力の持ち主こそ、君だ。ぜひ会いたいと思ってしまったが、気になったのは君だけではない。君には婚約者がいるだろう」
アンディが「そうです」と応じると、マーランがクスッと笑う様子が伝わって来る。
「君と、君が愛した女性。二人はまるで、僕とアマナに重なって見えた。君が深く彼女を愛せば愛する程、彼女が君の弱点になる。君が王宮付き魔術師として大成すればする程、彼女は狙われることになるんだ。魔法を使えないただの人間の女性を守る。そのためにはこのメビウス・リングが最適だと思った」
そこでマーランは、アンディに試練を課すことにした。
メビウス・リングを盗もうとした時に発動する魔法。
本来は全く別のものだった。
それが普通に発動したら、もう骨すら残らず、瞬時にこの世界から抹消されていた。
でも今回、そうではない形にしたのは他でもない。
マーランが失敗した選択を、アンディがどのように乗り越えるか。見てみたいと思ったからだ。さらにその選択により、彼の課した試練を見事乗り越えたならば。メビウス・リングをアンディに譲ろうと、マーランは決めていたと言う。
「助けられるのは、親友か愛する人か。君がどちらを選ぶのか。王太子と最愛。選択を迫られた僕と同じ状況だ。すると君はまさかの結果を示して見せた。二人を助け、自分が犠牲になるという選択だ。それは……僕にはできなかった、いや想像すらしていない選択だった」
もしもあの時。
王太子であれ、最愛であれ、どちらであろうと、その両方であろうと。
手に掛けることがあれば、僕が死を選ぶ――そう言うことが出来ていたら。
犯人はどうしただろうか。
王太子とアマナ、その二人は助かっただろうか?
それとも腹いせで、二人を手に掛ける……?
だがしかし。
一国の王太子を手に掛ければ、一生追われることになる。上手く逃げおおせたと思っても、捜索は王命が解除されるまで、続けられるだろう。彼の最愛を手に掛けても、当の魔術師が命を落としていては、それこそ意味がない。
つまり「僕が死を選ぶ」と言っていたら、王太子と最愛は助かったかもしれない――そうマーランはアンディに語った。
「本当に死ななくても、死を偽装してもよかったわけだ。敵が諦め、王太子やアマナを解放したら、捕らえることもできたかもしれない。でも当時の僕は、そんな発想には全く至ることがなかった」
しばしの沈黙の後、マーランが話始める。
「あのギリギリの局面で、二者択一を覆すことができた君は、魔法の腕は僕にはまだ及ばなくても、人間性では既に超えていると思った」
さらにマーランはこう続けた。
「君は僕の試練を乗り越えた。魔術師として成功しようとも、自らの最愛を守ることができるはずだ。そしてメビウス・リングの正しい使い方も、僕が言うまでもなく、分かるはずだ」
そう言うと背後から伸びた手が、メビウス・リングをアンディに持たせたのだ。
「君の使い魔は、随分とやんちゃだ。僕の作った結界魔法を突破し、君の元へ向かおうとしている。使い魔にここまで愛されるなんて。それだけでも偉業だ。大丈夫。君なら幸せに生きて行ける」
そこでマーランがアンディの両肩に、それぞれの手を載せた。
詠唱される魔法の呪文は、聞いたことがないもの。
でも目の前で景色が目まぐるしく変わり、それは見たことがない世界が展開された。
「これからの未来。産業に革命が起き、魔法は過去のものになるかもしれない。もしかすると君が最後の偉大な魔術師……そんな可能性もある。だが君なら辿り着けるはずだ。僕が至ることができた世界に。最愛と共にね」
この時、アンディはマーランの凄まじい魔力を感じ、鳥肌が立っていた。
「ではお幸せに。健闘を祈る」
その言葉を最後に、アンディは意識を失い、そして現実世界で即覚醒する。
「パール、ブラウン、止まって! お願い!」
遠くで聞こえる私の声に、アンディはすぐ様起き上がり、階段を駆け上る。
そしてアンディと私達は再会できたのだ。
「……以上が、俺があの地下納骨堂で体験したことだ」
既に食事は終わっている。
食後のデザートで、イチジクジャム入りクッキーを、紅茶と共に食べているところだった。
「マーラン、可哀想だな。愛する人を敵の手で……」
パールが沈黙を破り、言葉を発すると、ブラウンも同意を示す。
「本当に。そんな二者択一になったら、私達がその敵を制圧するわ!」
するともふもふ達も次々と「そうだ! そうだ!」「僕達がやっつける!」と同意を示す。
「ありがとう、みんな」とアンディが一人ずつにイチジクジャム入りクッキーを手渡す。
「しかしマーランは、どこでアンディとナタリー嬢のことを知ったのだろう?」
ディーンもイチジクジャム入りクッキーを食べながら、首を傾げる。
「それ、な。聞きそびれたよ。もう彼が話すことを夢中で聞いていて……」
「もしかしたらあのお店かもしれません。天球儀を手に入れた。あのお店は昔、彼の魔術工房があった場所なんですよね。だったらそこにマーランの霊がいても……」
「霊か」とアンディ。
「まさか霊が実在するとは」とディーン。
でもそれ以外、考えられないと思う。
「ともかく霊であろうと、何だろうといい。俺はメビウス・リングの持ち主として、マーランに認められた。そして指輪を譲ってもらえたんだ。正しく使うよう、言われたのだから――」
アンディはそう言うと「はい、ナタリー」と私に声を掛けた。
さらに手を差し出している。
「?」
私は正面に座るアンディの手に、自分の手を載せた。
「婚約指輪に重ね付けするか」と言いながら、アンディはなんと私の薬指に、メビウス・リングをはめたのだ。しかもその指輪、私の指にするっとはまったと思った瞬間。ジャストサイズになっている……!
事前にそうなると、知らされていた。
でも目の前で見てしまうと、とにかくビックリだった。
「メビウス・リングは、魔法が使える俺が持つ物ではない。最愛であるナタリーを守るためのもの。これでマーランが経験したような悲劇は、二度と起きない」
「アンディ……! ほ、本当にこれを!?」
「ああ。このためにマーランは天球儀で俺達を導き、そして試練を乗り越えさせ、このメビウス・リングを譲ってくれたのだと思う。これが正しい指輪の使い方だ」
























































