9:あの時何が?
「では、いただきます!」
アンディとディーンが用意してくれた昼食。
たっぷり野菜のスープ、グリーンサラダ、オムレツ、ベーコンのステーキ。
これにほくほくの湯がいたジャガイモ。
なんだかんだでお腹も空いていた。
人間も使い魔も。
みんな揃って豪快な食欲を見せる。
しかも美味しいのだから、パクパク食べることを止められない!
そうやって食事が始まると、アンディが早速口を開いた。
「今日はこの指輪のおかげで、大変な目に遭った」
そう言ったアンディがテーブルに置いたのは、メビウス・リング!
きっと持ち帰ったのだろうと思っていたが、予想通りだった。
「メビウス・リング! ……触れてももう、何も起きないのか?」
ディーンが心配そうにスープを飲みながら、指輪を見ている。
「もう試練はクリアした。そしてこの指輪の持ち主として認められた」
「アンディ、それはどういうことなの?」
尋ねた私を見て、アンディは爽やかな笑顔になる。
「聞いて驚いてくれ。このメビウス・リングには、あのマーランの魔法がかけられていた」
「「!?」」
ディーンはジャガイモを持ったまま、私はサラダを口に運ぼうとした姿で、固まってしまう。
もふもふ達は、パールとブラウンをのぞき「「「「まーらん?」」」」と可愛らしく首を傾げている。
「試練を終えた俺は、マーランの魔法を体感した。もう背筋がゾクゾクする程すごいものだった。俺は……マーランと自分が匹敵するなんて考えていたけれど……それは訂正。俺なんかまだまだだよ」
「「一体何が!?」」
ディーンと私の声が揃ってしまう。
「俺がメビウス・リングに触れた瞬間。空気が変わったように感じただろう? 指輪に触れる=魔法の発動条件だった」
発動した魔法により、空気は薄くなり、その場にいる魔力持ちは、たとえ使い魔であろうと、魔力を奪われていく。人間であれば呼吸がままならなくなる。
人間にとって呼吸は、生存に関わるもの。
空気が薄くなる=死活問題。
魔術師にとっての魔力もそれに等しい。
魔力がなければ、ただの人間と変わらなくなってしまう。
メビウス・リングが手に入れば、魔力がなくても問題ない……なんて冷静に考えることは、不可能。どんどん魔力を奪われる恐怖を前に、冷静な思考などできないからだ。
「人間も魔術師も、メビウス・リングに触れれば死の恐怖を感じ、逃げ出す。そうやってメビウス・リングに触れる者を拒んできた……ということか、アンディ? つまりは盗難防止のための魔法がかけられている……?」
実際のところ、この方法でどれだけの人間、魔術師が撃退されてきたかは、誰も分からないと思う。
そもそもあの場所にメビウス・リングがあると知る人は、少なかったのでは? もしかすると指輪にかけられた魔法が発動したのは……これが初めてだったのかもしれない。
「まあ、そこは一旦置いておいて話そう。いずれにせよ魔法が発動した時点で、みんな、分かっただろう? この指輪が、本物のメビウス・リングであると」
それはそうだと思う。墓に納められた財宝を盗まれないように、トラップを仕掛けるのは定番の話。本物のメビウス・リングだからこそ、魔法が発動した。
「マーランの魔法であると、すぐに分かったのか、アンディ?」
ディーンがオムレツを食べながら尋ねる。
「いや、分からない。特殊な魔法であることは分かったけど……。人間と魔術師の弱点を突く魔法が込められていたことに、頭のいい魔術師がいたもんだ……としか最初は思わなかった。一体何者なのか。でもその謎もすぐに解けた」
あの時のアンディは、魔力をどんどん失い、魔法を使える状況ではない。
目の前にはアンディにとっての親友、そして私=婚約者。
そして私とディーンは、ほぼ同時に意識を失ってしまう。
順番に担ぎ出していたら、もう一方は取り返しのつかないことになる――アンディは本能的に分かっていた。さらに自分自身の身だって、どうなるか分からない。魔力を完全に失った瞬間。自分自身も人間と変わらなくなる。そうなれば即、呼吸ができなくなり、意識を失うかもしれないのだ。
つまり助け出せるのは、二人に一人。
そんな究極の状態に陥るとは思わなかった。
しかもゆっくり検証する時間はない。
そこでアンディがとった方法――それは自らの犠牲だ。
「残った魔力でなんとか魔法を使い、ディーン、ナタリー、パール、ブラウンを建物の外へ移動させた。俺自身が逃げる魔力は残っていない。そこで予想通り。完全な魔力切れとなり、すぐに呼吸ができなくなった。あんなにもすぐ動けなくなるとは……。でも普段から鍛えているディーンが動けない状態になったんだ。そうなることぐらい、想定できたのに……。そこは甘かった。一歩踏み出すと同時に膝を床に着き、そしてそのまま……意識を失ってしまい……」
意識を失ったのだから、夢で見たのか。
現実ではないと思う。
ともかく気絶したアンディだったが、唐突に目が覚め、そこは美しい森の中だ。
木々の間に陽射しが射し込み、鳥の鳴き声が聞こえ、柔らかい風が吹いている。
アンディは一瞬、ここが死後の世界と思った。
それに拍車をかけたのが、聞こえてきた声だ。
「今生の王宮付き魔術師くん。君は……なかなか気概があるようだ。歓迎するよ」
どこかで聞いたことがあるような声だった。
そして彼はこう名乗る。
「僕はかつての王宮付き魔術師、名はマーラン。メビウス・リングに魔法をかけた者だ」
























































