1:星空
楽しい夕食の後。
洗い物はみんなで手分けして行い、それが終わると……。
夕食を用意し、留守を守るもふもふ達に、アンディは王都で手に入れたお菓子のお土産を渡していく。
受け取ったもふもふの使い魔達は、そのつぶらな瞳をキラキラと輝かせて喜ぶ。
お菓子もそうだが、そのお菓子が入っているブリキ缶がオシャレだったりするので、コレクションしている子も多いのだ。
「さて。ナタリー。これからだけど、星を見ようと思うんだ」
「トランクに天球儀があったけど、もしかして」
ブラウンがネタバレしていたが、とりあえずなかったことにして、アンディに尋ねる。
「うん。今晩の星の運行を確認して、それから出掛けようと思ってさ」
アンディは私が棚に置いた天球儀を手に取ると、ソファの前のローテーブルに置いた。そしてソファに座る私の横に改めて座ると、天球儀の日付をセットする。
すると。
いつもならすぐにその日付の太陽・月・星の運行が再現されるのに、今はカチカチカチと金属音がするが、動きがない。代わりに日付が……。
「うん!? これは明日の夜の日付に勝手にセットされたぞ」
「本当だわ」
太陽が昇り、沈んで、月や星々が現れたが……。
「!? 今度はここで止まった」
「どうしたのかしら?」
アンディは首を傾げつつ、再度、日付を今日にしてみるが……。
先程と同じことが繰り返される。
日付は勝手に明日にセットされ、そしてまたも星の運航の途中で止まってしまう。
アンディが何度か繰り返したが、結果は同じ。
「うーん。アンティーク品だから仕方ないのか。今日の夜は、もう明日と認識されてしまうのか」
「壊れちゃったのかしら?」
「それはないだろう。マーランの品だ。そんなポンコツなわけがない。とりあえず星を見に行こうか」
そう言うとアンディは「一応、念のため」と言って出してくれたオフホワイトのショールを、私の肩からかけてくれる。
「パール、護衛を頼む。ブラウン、他の使い魔達と留守番を」
「イエス、サー!」「任せて!」
パールを抱っこすると、アンディが私の肩を抱き寄せる。
「ではナタリー。移動するよ」
「はいっ!」
魔法で移動した場所は……木々が途切れ、遥か彼方にダンスをした湖が見える場所だ!
ここには以前、来たことがある。
大雨の後、アンディと二人、ここから虹を見た。
つまり、とても見晴らしがいい場所だった。
今は周囲の木々にランタンが飾られ、なんとラタン製のソファも置かれている!
「さあ、座って、ナタリー」
パールを膝に乗せ、ソファに腰を下ろす。
アンディが隣に座ると、「じゃあ、ナタリー。一度、目を閉じて」と言われ、その通りにする。
「5・4・3・2・1」
カウントダウンしたアンディが指をパチンと鳴らし、目を開けると、「夜空を見上げてご覧」と言われる。そこで顔を上げると……。
「うわあああああ!」
もう感嘆の声しかでない!
あの指の合図でランタンの明かりは全て消えている。
つまりあのランタンもアンディの魔法で出したものだったのだろう。
そして真っ暗になった森の上に広がるのは、星空どころではない。
銀河!
もう宇宙が見えているとしか思わない!
森の中で暮らしている時、夜に家から外へ出ることは少なかった。
よってここまでしっかり夜空を見上げるのは、実はこれが初めてだったのだけど……。
「アンディ、すごい。こんなに……ここが地上であることを忘れそう。宇宙みたい」
「ウチュウ……?」
「あ、えっと、その星の海の中にいるみたい!」
するとアンディがクスクス笑う。
「星の海か。素敵なたとえだ。そうだな。星の海……少しだけ、散歩してみる?」
「えっ!?」
驚く私のことを、いわゆるお姫様抱っこしたアンディは……。
ふわりとその体が浮き上がった。
パールはしっかり私に抱きつき、ビックリした私もアンディの首にぎゅっと腕を絡める。
「ナタリー、大丈夫だから、少し力を緩めて、周囲を見てご覧」
そう言われ、恐る恐るで閉じていた目を開けると――。
「わああああ」
もう気の利いた言葉なんて無理!
あまりにも感動し、涙が出そうになっている。
「アンディ、すごいわ。私、本当に、星の海にいるみたい」
「そうだな。森は真っ暗だから、なおのこと、星の海にいるみたいだ」
「すげーな、アンディ! オイラぐらいじゃないか!? 空を飛んだウサギは!」
しばらくは星空の遊泳散歩を楽しんだ。
「あ、この星。天球儀が止まった瞬間に示されていた星だ。これは……アルテラスという星だ。この季節に一番明るく見える星」
アンディに言われ、その星を見ると……。
彼の瞳のようなラピスラズリ色に輝いている。
とても美しい星だった。
「アルテラスという星は、航海における羅針盤と言われている星。“この星の輝きの導きに、従うべし”という星言葉でも知られている……」
そこでアンディが真剣な表情になるので、私も思わず黙り込み、彼の顔をじっと見てしまうと。
「ああ、ごめん、ナタリー。そろそろ帰ろうか」
アンディが呪文を唱えると、あのランタンが一斉に灯り、帰るべき場所が分かる状態になった。
「よし、まずはあの場所へ戻ろう」
こうしてこの日の、星空の遊泳散歩は終了だった。
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