5:とても……綺麗だ
「これで大丈夫かしら? ドライアプリコットでカップケーキも焼こうかしら?」
「いや、これで十分だと思う。豆のサラダ、イノシシ肉のシチュー、焼き立てパン、川魚のフリッター、アプリコットジャムのパウンドケーキ、アプリコット入りのゼリー、アプリコットジャムのクッキー……」
テーブルの上には、ディーンのために用意した昼食がズラリと並んでいた。朝食を終えた後、アンディと二人がかりで用意したものだ。
「料理はこれで十分だ。それより、ナタリーの服、それを変えよう」
「服を変える!?」
「ドレスに変える。これはブラウンが得意なんだ。おい、ブラウン頼むよ」
ブラウンはアンディの使い魔の子リスだ。
「は~ぁい、まかせて頂戴。終わったらアンディを呼ぶから、庭で花でも摘んでいて。髪に飾るから!」
「分かったよ」
ブラウンは姿こそ子リスだけど。
なんだか貫禄がありママンという感じだ。
「じゃあ、ナタリー、そこの鏡の前に移動して頂戴」
私の部屋――寝室のドアは開けっ放しになっていて、丁度言われた位置に立つと、ベッドの傍の鏡が見える。そしてそこに映る、ピンクのワンピースに白のエプロン姿の私も見えていた。
「さあ~、ナタリー。変身タイムの時間よぉ。ここは森の奥の一軒家。街にあるような仕立屋はないけれど、腕は一流のこのブラウンがいるのだから。あっという間にそのワンピースは素敵なドレスへ早変わり~」
まるでアニメ映画のワンシーンのように、ブラウンが歌いながら私の周りをウロウロしていると……。
「すごいわ、スカートの裾がレースに変ったわ!」
「まだ、まだこれからよぉ~」
ブラウンが尻尾をふわりと振ると。
ワンピース全体に薔薇の花柄がプリントされている。
さらに、両手をパンパンと叩くと。
スカート全体にシアー感のあるチュールがふわっと重なった。
そして私の周りをブラウンが一回転すると。
ウエストには白いリボンベルトが飾られていた。
「仕上げはこれよ~」
ブラウンが大きくジャンプすると。
胸元には小さな立体的な薔薇が散りばめられた。
「すごいわ、ブラウン! なんだかお姫様みたいだわ」
「ナタリーは素敵なご令嬢よぉ」
「じゃあ、次はあたしの出番ね!」
そう言ったのは真っ白な子猫の姿のマシュマロだ。
マシュマロが可愛くウィンクすると。
後ろに一本に結わいていた髪が、ゆるふわ編み込みになり、左側に束ねられている。続いて尻尾をピンと立てると、首元にはパールのネックレス、耳元にはパールのイヤリング。
「うおー、すんげ! 可愛いぞ、ナタリー」
子ウサギのパールが大絶賛すると、ブラウンがパールにアンディを呼びに行くように命じる。パールはピョンピョンとドアへ向かい、器用に扉を開けて庭へと出て行く。
この家に来た時の私は……ほぼ全裸のような状態だった。
そして魔法で出してもらった装飾のないワンピースを毎日のように着ていた。こんなドレス姿を見せるのは勿論初めて。
どんな反応をされるだろう。
なんだかドキドキしてしまう。
緊張しながら、今一度鏡に映る自分の姿を見ていると。
顔を真っ赤にして、手にはピンク色の薔薇を持つアンディの姿が映った。
「……ナ、ナタリー……その、とても……綺麗だ」
アンディが、アイスブルーのサラサラの前髪を震わせ、ラピスラズリのような瞳を潤ませ、さらに顔を赤くして、息を飲んでいる。
綺麗。
その言葉がもたらすインパクトは……。
もう背中に羽がはえ、舞い上がってしまいそう。
普通に。
普通に、綺麗と言われたら嬉しい。
しかも。
アンディはかなりの美貌のイケメン。
そんな青年からこの表情で「綺麗だ」と言われたのだから。
舞い上がりそうになっても……仕方ないと思います!
「そ、そう、ありがとう」
私まで顔を赤くしながら応じると、マシュマロがアンディの足をパンとはたく。
「その持っているピンクの薔薇を、ナタリーの髪に飾ってあげて!」
「わ、分かったよ」
アンディはとんでもなく緊張した手付きで、持っていた鋏で長い茎を落とし、さらに棘を手でとり、私の髪にピンクの薔薇を飾ってくれた。
「というか、アンディもどうかしないと。ナタリーと並んだ時に様にならないぞ」
パールの一言にブラウンが「ああ、そうだったわねぇ」と言い、尻尾を一振りした瞬間。
目の前でアンディのズボンが消え、下着姿になり、私は悲鳴を上げることになる。
「ご、ごめん、ナタリー! というか、ブラウン、俺のズボン!」
「はい、はい」
ハプニングがあったものの。
アンディも普段よりオシャレな姿に変った。
ブラウンはもっとフォーマルにしたがったが、アンディはそこまでしなくていいと言い、結局。白のシャツに私のドレスとあわせたパステルピンクのベスト、ポケットに白のハンカチーフ。ズボンはベストと同色。焦げ茶色の革靴という姿に収まった。
そしてそこに遂にディーンがやってきた。