SS:後編
こうして私が二時間半近くかけ、アンディ、ブラウン、パールとこの王都に至るまでの体験を話すと……。
「わしの予想通りじゃ。お嬢さんは実に不思議な星の巡り合わせの下に生まれたのじゃな。人生のドン底を味わい、そして今は絶頂に向けのぼっている。頂点に至れば、あとは……穏やかと言いたいが、波乱はあるやもしれぬ。じゃがな、愛する人がそばにいる。信頼できる仲間がいる。だからその波乱も乗り越えることができるじゃろう」
店主は占い師みたいなことを言い、そして最後は私から金貨を受け取ると、天球儀を木箱にいれ、食べなかった和菓子も中にいれてくれた。
「案外いい人だったわね」とブラウンが本人を前に言うので、これには店主も含め、笑うことになった。
「では気を付けて帰るんじゃぞ」
そう言って見送られ、お店を出ると、私達は家路に着いた。
◇
後日。
私は仕事を終えたアンディを屋敷へ招待し、夕食を楽しんだ後、応接室へ移動し、この天球儀をプレゼントすることにした。ソファに対面で座り、私はおもむろにあの木箱を、ローテーブルに置く。
まさにサプライズになったので、アンディは大喜びし、木箱から取り出した天球儀をまじまじと見て感嘆する。
「これは……すごいな。機械自体は職人によるもの。これが半永久的に動くのは、王宮付きの魔術師マーランの魔法だ。そもそもこんな魔法、どうやって成立しているんだ!?」
「ねえ、アンディ。アンディはマーランを知っているのね? 有名なの?」
「そりゃあそうだ。先輩になるからな。よし、ナタリーに見せてやるよ」
するとあの時と同じ。
初めて会った時、地図を取り出した時のように。
宙に向けてアンディが手を伸ばしたと思ったら、その手には巻物が握られている。
するすると巻物をローテーブルに広げ、アンディが見せてくれたのは……。
「これが王宮付き魔術師のマーラン。王宮付きの魔術師として三人目、つまり三代目と言われている。王宮付き魔術師としては1、2位を争う天才だ。今、そこを争っているのは俺というわけだ……って、どうした、ナタリー?」
「アンディ、この人よ、この好々爺のおじいさんが、店主だったの!」
「ええええっ!?」
ブラウンとあの日、護衛についてくれた騎士にも確認してもらったが、確かに巻物に描かれたマーラン=店主だった。こうなると……あのお店にアンディと共にもう一度行こうとなる。
金曜日、仕事を早めに終えてくれたアンディと共に、あのお店へ向かうことになった。
早速馬車に乗り込むと……。
「百年前の人間だ。まさか生きている……いや、マーランなら時間を操作する魔法を使えるのかもしれない。彼なら生きていていも……。いや、でも本当に!?」
アンディと同じ気持ちの私とブラウンは、はやる気持ちが抑えられない。
馬車の中でもそわそわし、パールに笑われてしまった。
そして遂にお店に到着した!
お店はちゃんと、そこにあった。
そこは安堵しながら馬車を降り、店内に入ると、マーランらしき店主の姿はない。代わりにやけにハンサムな若い店員さんがいる。
プラチナブロンドの長髪を後ろで一本に結わき、澄んだ泉のような碧い瞳。
長身で鼻も高く、着ているブルーグレーのセットアップも実に似合っている。
「いらっしゃいませ。お客様」
彼の名はルマンでこの店の主であるという。
そこであの巻物を見せ、この人が店主ではないのかと尋ねると……。
「これはかつての王宮付き魔術師のマーランですよ。ここに彼の名前も書かれている。まあ、マーランとゆかりのある場所であることは確かです。ここはかつて彼の魔術工房の一つだった場所なので」
これはつまり……。
「もしかするとナタリーはマーランのゴースト(幽霊)に会ったのかもしれないな。ゴーストでも俺もマーランに会ってみたかった」
アンディはそんな風に言うけれど、私とブラウンは真っ青。
「あの時食べた和菓子はもしかして泥だったのかしら!?」
ブラウンがそんなことを言うから、さらに青くなると。
「和菓子? ああ、あれは俺も食べたがちゃんと甘いお菓子だった。さすがに泥なんて食べさせないだろう。きっとゴーストになってもマーランは魔法を使えたんだろう、きっと」
アンディはそんな呑気なことを言っているけれど……。
「大丈夫だよ、ナタリー。何も困ったことはないだろう? マーランの天球儀なんて、オークションに出したら金貨1万枚が最低入札価格だ。それがたった50枚で手に入ったのだから。安い買い物だよ。損はしていないし、ナタリーだって怖いとも思わないだろう?」
それは……確かにそうなのだ。
私は何も困ることはなかった。
「お客様、大丈夫ですか? 何かお困りごとでも?」
ハンサムな店主が、親切に声をかけてくれる。
私達は突然押しかけ、百年前に亡くなった魔術師が、ここの店主ではないかと言い出したのだ。かなり数奇な私達なのに。この店員さんは、白い目で見ることもない。とてもいい人だった。
結局、特に欲しいわけではなかった。だがせっかく来たのだからと、アンティークの香水瓶や魔術書を購入し、店を出ることになった。
「ありがとうございました」
見送るハンサムな店主がウィンクした時。
その瞳がアンディと同じラピスラズリ色に見えた気がした。
気のせい……?
「ナタリー、馬車に乗ろう」
「はーい」
「屋敷に戻って荷物を置いたら、ザロックの森へ帰るぞ!」
「「「はーい!」」」
パール、ブラウン、私の声が揃う。
そう、今日は金曜日。
私達のもう一つの家へ帰る日だった。
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