SS:前編
「パール、ブラウン、お願いがあるの!」
「どうしたんだよ、ナタリー」
「何かしらぁ? ナタリー」
そこで私はクリーム色のドレスをつまみ、フワリとしゃがみ込み、アンディの使い魔である子ウサギのパールと子リスのブラウンに極力顔を近づける。
パールもブラウンも好奇心いっぱいの顔で私を見上げた。
「私ね、アンディに婚約指輪を貰ったの。それでお返しの品をアンディに用意したいのよ。でもそれはサプライズにしたいの。つまりアンディには内緒で買い物をしたいのよ。でもアンディはいろいろなことが私の身に起きたから、過保護になっているでしょう? だから自身の使い魔なのに、パールとブラウンを私のそばに置いている。二人とも毎日アンディに報告しているのでしょう、私がその日一日、どうしていたのかを」
「なんだよ、ナタリーにバレバレじゃん。でもその通り。スチュはもう二度とナタリーに悪さなんてできない。でもアンディはまだナタリーと一緒に暮らしているわけじゃないからな。だから心配なのさ」
パールが長い耳をぴくぴくさせながら、答えると、ブラウンはふさりとその尻尾をふって私に告げる。
「ナタリー、そこはアンディの気持ちを分かってあげて。あの子にとってナタリーがこの世界で一番大切なの。悪気はないのよ」
「パール、ブラウン、安心して。二人が報告していることは、気にしていないわ。それに私、何もやましいことがないから。ただ、明日、街へ買い物へ行くこと。それはアンディに秘密にしておいて」
「サプライズにしたいんだもんな。なら仕方ないよ。大丈夫。アンディには黙っておくよ」
「ナタリー、あなたちゃんと護衛の騎士は連れて行くのよね?」
ブラウンが心配そうに私を見上げるので「それは勿論」と応じる。そして二人に尋ねる。
「パールかブラウン、どちらかに私について来て欲しいの。私は屋敷にいる、ということにするけど、急にアンディから魔法を使った連絡が来るかもしれないでしょう。そうなった時、どちらかに対応してもらいたいの。だからパールとブラウンのどちらかが、明日の買い物に付き合ってくれない?」
するとその瞬間。
普段は仲がいいはずのパールとブラウンがにらみ合い、私の脳内には、西部劇で流れそうな音楽が流れる。
「ブラウン、ニンジンでもいいわよ」
「オイラはくるみでもいいぜ」
パールとブラウンは、お互いにニヤリと笑う。
「それなら公平に、今の季節が旬のチェリーで勝負しましょう」
「いいだろう、ブラウン、勝負だ!」
可愛いもふもふの使い魔は、チェリーをどちらが沢山食べられるかの競争を始めた。
勝者が私に同行するという。
私はわんこそばのように、二人のお皿が空になると、チェリーを補給することになった。
「では始めるわよ」
二人の目の前には、厨房から手に入れた美味しそうなチェリーが山盛りになっていた。
パールもブラウンも、昼食をとった後なのに、目がらんらんと輝いている。
チェリーはパールもブラウンも大好物だった。
「よーい、スタート!」
私の掛け声で、もふもふ達の仁義なき戦いが始まった。
◇
「さあ、ナタリー、出掛けるわよ!」
ブラウンは尻尾をふさりと振ると、ソファの前のローテーブルからジャンプし、あっという間に腕から肩へと移動する。
「くーっ。リスがあんなに頬にチェリーを蓄えられると思わなかった。あんなの反則だ!」
「潔く負けを認めなさい、パール。あたしがナタリーとお出かけで、あなたはお・留・守・番」
チェリーの勝負はブラウンに軍配が上がった。
どちらもお腹をパンパンにさせ、最後はブラウンが頬までパンパンにして勝利だったのだ。
「じゃあ、パール、お留守番、お願いね」
「分かったよぉ、ナタリー。気を付けてな」
パールに見送られ、私はシャーベットピンク色のワンピースの肩にブラウンを乗せたまま、部屋を出る。
街中をてきぱきと動き回るには、ドレスよりもワンピースだ。
ということでエントランスに向かい、馬車に乗り込むと、お店が立ち並ぶプラザ・ストリートへと向かう。馬車には二人の護衛騎士が同乗しているが、あまりにも物々しいと、金持ち貴族とスリに目をつけられる。よって二人には、仕事がオフの騎士に見えるよう、軽装備にしてもらっていた。それでも腰に帯剣し、短剣なども隠し持っているので、護衛はバッチリだ。
今回、アンディにプレゼントしようと思っているのは、アンティークや珍しい品だった。そういった品を扱うお店は、貴族から平民まで足を運ぶ。よって少し物騒と言えば、物騒だが、護衛の騎士もいるし、ブラウンもいれば問題なしだろう。
ちなみにアンティークや珍しい品を贈ろうと思ったのには、理由がある。
王宮付きの魔術師になったアンディなら、高級品はいくらでもこれから贈り物でもらうことになるだろう。そう言った高級品よりも、私はアンディが目を輝かせそうな、沈没船から見つかった古の帝国の盃とか、古い魔法の書とか、アンティークの懐中時計とか、そう言ったものをプレゼントしたいと思ったのだ。
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とあるコンテスト二次選考中記念でSS公開です。
























































