エピローグ
王都に戻ってからの日々は、怒涛の勢いで流れて行った。
まずは悪人が一掃され、王都のはずれの村で暮らしていた聖女ルビーが王宮へとやってくることになった。アンディも王宮付きの魔術師に無事就任することができた。
オルドリッチ辺境伯は、アンディが王宮付きの魔術師に就任するのをその目で確かめると「ノースコートでまた会おう」と、ディーンの待つ城へと帰っていった。
アンディはそのまま王宮に入り、そして私は――。
ミラー家の屋敷で暮らしながら、半年後の結婚式に向け、準備を始めていた。
そう。
私はアンディのプロポーズを喜んで受け入れた。そして私とアンディの婚約は、正式に国王陛下の許可も出ている。アンディは「もう、待ちきれないから」と、多忙の身であるが、半年後の結婚式を決めた。
それは彼が一刻も早く私と暮らしたいと思っているからであり、それを思うと……。とても嬉しくなってしまう。でもなんだかんだでアンディとは、一緒にいることができている。だってアンディは金曜日の夜になると、あのザロックの森のポツンと一軒家に帰るからだ。そこに私が同行することを、両親も許してくれていた。
鞭で打たれ、傷ついた体で河に落とされ、死と隣合わせだった私を救ったのがアンディであることを、両親も知っている。救助された私が元気になったのは、その森の家であることも、両親には話していた。つまりその家でアンディと私は既に共に過ごしたことがあり、二人にとってかけがえのない場所であることを分かってくれている。だからこそ、週末にそこでアンディと過ごすことを許してくれた。
それに私の両親、国王陛下夫妻のことも、実はこの森の家に招待したこともあるのだ!
もちろん、アンディの魔法で、私の両親も国王陛下夫妻もあの森の中の家にやってきた。街からはオルドリッチ辺境伯とディーンも駆け付けてくれて……。
あの時はもう大変。
モフモフの使い魔達も総動員で、ディーンも手伝ってくれて、食事の用意をした。前日に仕留めたイノシシ肉を使った料理に加え、旬のミラベル(西洋スモモ)を使い、私がタルトやミラベルのジャム入りのカップケーキを焼いたりもした。
アンディの魔法で瞬時に帰ることができるからと、国王陛下夫妻も私の両親も、空に星が瞬く時間まで森の中のあの家にいたが……。彼らの様子を見ていると、とても寛いでいることが伝わってきた。家の中はいつもより人が多くて、ワイワイガヤガヤにぎやかだが、外に出ればそこは静かな時間が流れている。
虫の鳴き声や梟の声、遠くにいる獣の声なども聞こえるが、人工的な音や光はない。見上げた夜空には満点の星々。王都では体験できない自然に満ちたこの場所に、国王陛下夫妻も両親もとても感動していた。そしてアンディが週末だけでもここに戻りたいと願い出た気持ちを、よく理解してくれたと思う。
そしてこの日は……私にとって忘れられない日にもなった。
「お、アンディが戻ったようですね。ではナタリー嬢、私と父上も帰らせてもらいます」
国王陛下夫妻、そして私の両親と、順番に魔法で王都へ送り届けたアンディが、森の中の家に帰ってきた。ディーンとオルドリッチ辺境伯は、私が一人にならないようにと、アンディが見送りしている間、家で一緒に待っていてくれた。
「また来るよ、アンディ」
「ああ、ディーン。俺もまた街へ顔を出すよ」
「アンディ、ナタリー嬢、ご馳走様。また会おう」
「こちらこそ、ありがとうございます、オルドリッチ辺境伯」
それぞれ挨拶をかわすと、ディーンの魔法でオルドリッチ辺境伯達は、あっという間に姿が消えていた。
さっきまで沢山の人がいて、狭いぐらいに感じていた家の中は、急にシンとして、広く感じてしまう。皆、また会えると分かっているのに。なんとも言えない郷愁に駆られてしまう。
「アンディ、ナタリー、片づけやろうぜ」
パールとモフモフの使い魔の言葉に、アンディと私は後片付けを始める。食器は全然足りなかったので、半分は魔法で用意したものだった。
「まさかこの家に、あんなに大勢が集まるとは思わなかったな」
「本当はベッドがあったらみんな、泊ったかしら?」
「ナタリーの両親は泊ってくれたかな。父上と母上は……今日もお忍びで来たわけだし、さすがに泊りがけは、マクラーレンが卒倒すると思う」
そんなことを言いながら後片付けを終え、次はお風呂の準備かなと思った時だった。
「ナタリー、お風呂、今日はズルして魔法で沸かすから、ちょっとソファに座ってもらえるか?」
「! 今日はアンディ、沢山魔法を使ったわね。……ミラベルのジャム入りクッキーがあるけど、食べる?」
「ありがとう、ナタリー。でもさすがに満腹だから、大丈夫だよ」
アンディに優しく頭を撫でられ、思わず胸がキュンとする。そのキュンキュンを抱えたまま、ソファに並んで座ると。
アンディがベストのポケットから取り出したのは、指輪だ。
彼の瞳みたいな、綺麗な碧い宝石が埋め込まれている。
「俺は無一文に近い状態でのスタートで、ナタリーにまだ、婚約指輪も贈れていなかった。王宮付きの魔術師として本格的に働き始めて、実は昨日、ようやく給金が出たんだ。それでこの指輪を、ナタリーに贈ろうと思って」
そう言うとアンディは私の手をとった。
私はまさか今のこのタイミングで婚約指輪をもらえると思っていなかったので、目を大きく見開き、驚いてしまう。
「アンディ、せっかくの初任給なのに、私のために……」
なんとかそう言うので精一杯だ。
「勿論、俺は王族の一人と認められたから、国から支給されているお金はある。でも婚約指輪は、ちゃんと自分の力で手に入れたお金で買いたいと思っていた。だから、受け取ってくれる? ナタリー」
「勿論よ! まさか今、指輪を贈られるなんて思わなかったから! とても驚いてしまったわ。でも嬉しい。……本当に」
アンディはラピスラズリのような瞳を輝かせ、笑顔になる。
「婚約の証として、ナタリーにこの指輪を贈る」
手にしていた指輪を、アンディが私の左手の薬指にはめてくれる。
指輪は不思議なことに、ピッタリだった。
「ありがとう、アンディ! 大切にするわ」
「うん。ナタリー、大好きだよ」
アンディに抱きしめられた私は、幸せな気持ちでいっぱいだった。
悪役令嬢として『愛され姫は誰のもの?』という乙女ゲームの世界に転生し、ゲームの抑止力に打ち勝つことはできず、断罪を回避することはできなかった。それでも最後に悪あがきをして、禁じ手を行使した結果。ゲームのシナリオにもない不敬罪に問われ、婚約破棄&国外追放に加え、鞭打ちの刑まで受けることになった。
もう本当に終わった……と思ったけど。
運命の相手に巡り会えた。
でもその後、一筋縄ではいかなかった。
それでも沢山の困難を乗り越え……。
今は……最高に幸せです!
・**♡~ happily ever after ~♡**・
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