53:……いつのまに!
レディーファーストが根付いている世界だから。
ここは私から話さないと、そう思ったのだけど。
「ナタリー。ごめん。今日は、俺から話をしてもいいか?」
想定外だったので一瞬黙ってしまったが、「もちろん!」と返事をした。すると「すまない、ナタリー」とアンディは言うと、池を見て、深呼吸をしている。
どうしたのかしら……?
「どこかのタイミングで、ちゃんと言わなきゃって、ずっと思っていたんだ」
な、何かしら。何か重い話……?
「ナタリーは王都に着いたら、運命の女性を探すのを手伝うって言っていたよね」
「……! え、ええ、言っていたわ。まさにその話をしようと私も思っていたの。アンディは王宮付きの魔術師になるため、これから忙しくなるわよね。でも私は表向き、花嫁修業中の暇人になるわ。その間にその女性を、私がアンディに代わって探しておく!」
思いがけない流れで、アンディに言おうとしていたことを話せることになった。これ幸いと私は提案したのだけど……。アンディは絶句し、「はぁーっ」と大きく息をはくと、まじまじと私を見た。
「本当に、ナタリーは鈍感だな」
「……!」
そこでアンディはとびっきりの笑顔を私に向けた。
「運命の女性――彼女のことは、もう見つけた」
「え……!」
王都に到着してから。
着替えをのぞき、アンディとは一緒にいた。
アンディの周囲に女性の気配は……皆無だった。
「……いつのまに」
それはもう自然と口をついて出た一言。
とにかく驚いていた。
「いつのまにって……」
アンディは苦笑しているけど、私は必死で記憶を辿る。
そんな、女性の気配なんてなかったのに。
いや……。
そんなことは、ない。
女性が完全にいないわけではなかった。
宰相マクラーレンの公爵家の屋敷には、沢山の女性のメイドがいた。当然だが王宮にも。
アンディの運命の女性は、メイドをしている……のではないかしら? 王都でメイドとしての仕事がある。だからあの森の家に来ることができない……。
それが正解なのではないかと思い、アンディに顔を向けると。
改めて、であるが。
アンディは私をじっと見ていた。
だからその清々しい顔立ちと改めて向き合うことになった。
サラサラのアイスブルーの前髪の下の、ラピスラズリのような瞳。鼻梁が通り、薄紅色の綺麗な形の口をしている。肌艶も良く、美貌の顔立ちをしていた。
やはり眼福。
そうではなく!
「アンディ、運命の女性って、マクラーレン公爵家か王宮で働くメイドさんなのね?」
美しい顔は瞬時に爆笑に変わる。
「違うよ、ナタリー、どうしてそうなるのかな?」
「だって……。王都に来てから会った女性となると、メイドさんぐらいしか思いつかないから」
「王都に着く前に見つけている。そしてもう再会した」
「そうなの?」
それは……もう衝撃。
アンディと一緒にいる時間は、ここ数日、私が一番多いはずだった。それなのに私は……彼が運命の女性を見つけ、しかも再会したことに、気づけていない。
……!?
驚く私の手をアンディが突然握りしめ、ビックリしてしまう。なぜと思い、その顔を見ると、とても甘い笑顔をしている。
「子供の頃にたった一度だけ出会い、離れ離れになってしまった。でもずっと忘れることができない。もう一度彼女に会いたい。ずっとそう思っていた。ただ、俺は王都に近づくことを恐れ、時が流れてしまった。……彼女が大ピンチだった。すぐにでも助けに行かなければならない。それなのに出遅れてしまった。彼女はとても辛い経験をした。大きな傷を負った。皮肉なことだ。そうなることで彼女は、俺の手の届くところへきてくれた。これからは絶対に。俺が守ると決めた。……もう、分かったよな、ナタリー。俺の運命の女性が誰であるかを」
頭の中が混乱する。
だってアンディが今言っている話、私は知っていた。
なぜなら、それは……。
「ナタリー、君なんだよ。俺がずっと会いたいと願っていたのは。俺の運命の女性。それはナタリーだ」
頭の中が真っ白になるって、こーゆうことなのね。
ビックリし過ぎて何もできない。
声を出すことも、体を動かすことも。
「森の中で世捨て人みたいに暮らす俺のことを、ナタリーが好きになってくれるか不安で、でもなんとかあの家に引き留めたくて。ナタリーが街の暮らしを望んでいるのではと不安になりながら、なんとか俺に振り向いてほしいと思いながら、再会してからの日々を過ごしていたんだ。でも今回、王宮付きの魔術師になれることになった。王都で暮らす場所も手に入るし、森の中の家も維持できる。絶対にナタリーのこと、幸せにするから。それにさ、聖女の予言でも、俺は愛する人と幸せになれるって予言されていただろう。だからナタリーも俺といれば絶対に幸せになれる」
そこで一度言葉を切ったアンディは、私の手を掴んだまま、その場で片膝を地面につき、跪いた。
「ナタリー、ずっとずっと君が好きだった。あの時、一度は取り消しになってしまった。でももう一度。俺の婚約者になってほしい」
























































