51:兄弟それぞれの反応
「ありがとう、ナタリー、頑張ってみるよ。たださ、一つだけ、父親にお願いしたんだ」
そう言ってアンディは、アイスブルーの髪を揺らし、明るい笑顔になる。
「俺さ、あの森の中の家は気に入っているから。金曜日に魔術師としての仕事を終えたら、王宮の自分の部屋に戻るのではなく、森の家へ戻りたいって。それで月曜日の朝、森の家から王宮へ向かいたいってお願いしてみた」
……! やっぱりアンディは、あの森の生活を気に入っていたのね。でも国王陛下はそんな週末田舎暮らしを許してくれるのかしら……?
「俺の話を聞いた父親は『やるべきことをちゃんとやれば、後はアンディ、お前の自由だ。舞踏会やら競馬、ゴルフといった貴族の社交に無理して顔を出す必要はない。ただ、外交とか外せない公務もある。その時だけは顔を出してくれれば、森の家でも辺境伯の屋敷でも、行きたい場所に行けばいい。それに魔法だとあっという間に移動もできるのだろう』そう言ってくれた」
「それは良かったわね、アンディ! 平日の家と畑の面倒は、誰か雇ってお願いすればいいから、きっとあの家は維持できそうね」
アンディは「雇うまでもないさ。使い魔達に任せるよ。ちゃんと畑の手入れもすれば、好きなだけ食べていいと言えば、俄然奴らは頑張るから」と答える。それはまさに名案だった。
「アンディ、その森の家には、私も……たまには遊びに行かせてもらっていいかしら?」
「……! それは勿論。……ただ、その件については、この後、ちょっとナタリーに話したいと思っている」
なんだろう……? 先程までとは一転、アンディがとても真面目な顔になっている。気になったけど……ミラー家の屋敷に到着してしまった。
自分の両親や兄弟に再会するだけなのに。
とんでもなく緊張してしまった。
でも父親と母親の顔を見たら……。
そんな緊張は吹き飛び、二人に抱きついていた。
両親はとてもやつれていたが、私を見た瞬間、その顔に生気が戻った気がする。さらにアンディが魔法を使い、二人を回復させてくれたのだ。おかげで体の不調は嘘のように改善し、父親と母親の顔は笑顔に変わった。
その後は今日に至るまで何があったのかを私が話し、両親もまた、私の不在の間にどんなことがあったのかを教えてくれた。それを聞いた私は、いろいろと驚くことになる。
まず、あの男爵令嬢は、修道院に入る前、私の両親に会いに来て、謝罪をしていたのだという。自分のせいで、私がひどい目に遭い、申し訳なかったと、エントランスホールで土下座する勢いで頭を下げた。
これには両親も驚き、そしてその謝罪を受け入れた。さらにこの様子を見た兄は……。
「自分はとんでもない過ちをしていた。大切な妹を庇うどころか、罪人だと断定し、断罪を当然と断言してしまった。私が間違っていた……」
男爵令嬢のおかげで目が覚めた兄は今、王都を離れ、彼女が入った修道院がある村の宿に、滞在を続けているのだと言う。それは彼女を説得し、修道院を出てもらい、自分の婚約者に迎えるためだ。
兄がいつの間にかヒロインではなく、男爵令嬢に恋をしていたなんて! 乙女ゲームの設定では、きっとこの男爵令嬢は、ヒロインの友人の一人、つまりモブだと思う。ただ、名前があるのか、ヒロインのそばにイラストだけで登場していたのか。それは……分からない。それなのにヒロインの攻略対象の一人から求婚されるとは。これには驚きだけど、ともかく兄は、私が濡れ衣を着せられていたと信じてくれた。その事実に心底ホッとした。
その一方で、弟は……。
「姉上がリリィさまをいじめていなかった……国王陛下もそう言うのなら、それはそうなのでしょう。でも僕はリリィさまの味方です。あんなに美しく、若いリリィさまが修道院でこれから一生過ごすなんて、僕には耐えられません。なんとしてもリリィさまを救い出します」
弟は、リリィが修道院に収監された直後に、屋敷を飛び出した。さらにこれまた兄と同じように、修道院がある王都のはずれに向かい、近くの安宿に滞在しているという。そしてリリィ解放の嘆願書を毎日のように書き、リリィと面会するため、連日修道院へ足を運んでいる――そう両親は教えてくれた。
兄は私の断罪を支持したことを「間違いだった」と悔やんでくれた。一方の弟は、私がいじめをしていなかったことは認めてくれたと思う。
男爵令嬢の言葉を弟も聞いている。王都のはずれにある安宿には、早馬も向かった。早馬は、両親が手配したもの。国王陛下の直筆の書状が届き、そこで私の無罪と国外追放取り消しについて書かれていたと、知らせるために。
だが今はヒロインであるリリィを修道院から出すことで、弟の頭はいっぱいのようだった。
弟の願いが叶うのかは……正直、分からない。ただ、弟は猪突猛進なところがあるので、その熱が収まるまでは……静観した方が、いいかもしれない。
その一方で兄と男爵令嬢には……会いに行ってもいいと思えた。私が生きていたこと、リリィに関する件は無実だと認められたこと、国王陛下が国外追放を取り消したことは、遅かれ早かれ、兄も男爵令嬢も知るはずだ。
それを知り、男爵令嬢が修道院を出る決意をすればいいが、それでも罪の意識に苛まれるようなら……。私から直接、「あなたを責めるつもりはない。あなたのおかげで私の無罪は証明されたのだから、修道院を出て、幸せを掴んでください」と伝えようと考えていた。
























































