49:辛い決断
つまりアンディは、国王陛下に捨てられたわけではなかった。そして国王陛下はアンディがザロックの森で無事成長することを願っていた。本当は護衛でもつけたかっただろうが、敵は魔術師ファーガソンと神官長のカルロだ。秘かに連絡をとったり、支援したりしているとバレたら、アンディは魔法をマスターする前に、害される危険もあっただろう。
「あの時は本当に断腸の思いだった。毎日アンディが生きていてくれることを、メアリと共に祈るしかできず……。ただ、不幸中の幸いだったのは、スチュを王宮に呼び戻すことができたぐらいだ。アンディとスチュは双子で、二人は赤ん坊の頃、抱き合って眠るぐらい仲が良かった。この二人を生き別れにしなければならない。その慣習を私は廃止したいと思っていたが、その力がなかった。メアリと泣く泣く、スチュを送り出したが……」
そこで国王陛下は長いため息をつく。そこに込められた想いは、痛い程伝わってくる。
しかし。
アンディとスチュが赤ん坊の頃、抱き合うぐらい仲が良かったなんて……。驚きだったし、もし二人が離れ離れにならず、共に王宮で育っていたらと思ってしまう。
でも腹黒魔術師と神官長もいるのだ。共に王宮で育てば、どちらが王太子になるかで、争いが起きていたかもしれない。悲しいが、アンディとスチュはこうなる運命だったのかな……。
「私とメアリとしては、スチュが王太子となり、やがて国王となる。それまでに魔術師ファーガソンと神官長のカルロをなんとか抑え、アンディのことを王都へ連れ戻し、王宮付きの魔術師に迎えよう。そう考えていた」
もしそうなれば、どれだけ皆、幸せだったことか。
でも実際は……。
「まさかスチュが自分の婚約者にあんな恐ろしいことをしたり、アンディの住む森に火を放ったり、辺境伯の息子を斬りつけるような人間に成長するとは思っていなかった。一度は王宮から手放した子供だ。私とメアリにも負い目があった。だからスチュに対し、強く出られず……。わがままな息子に育ってしまった。スチュのことは親として、今後は厳しい態度で臨むつもりだ。王宮の一室で幽閉状態になるだろう。無論、それでも私とメアリの子供だ。厳しくはするが、見捨てはしない」
そこで国王陛下の瞳が私に向けられた。ドキッとして固まると。
「スチュが奔放な人間に育った結果、ナタリー伯爵令嬢。あなたに一番辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳なかった」
目の前で国王陛下が頭を下げている。それだけではない。隣に座る妃殿下まで、私に頭を下げているのだ。
「そ、そんな、国王陛下、妃殿下、どうか頭を上げてください。あの時は私も自分から婚約破棄を宣言したのですから、不敬ざ」
「それはないよ、ナタリー伯爵令嬢」
ようやく頭を上げてくれた国王陛下がキッパリ否定する。
「婚約者がいる身でありながら、平民の女性と恋仲になったのはスチュなのだから。あなたから婚約破棄を宣言されても、不敬罪に問うなど私は許さない。だがスチュは自身の主催する舞踏会の場であなたを断罪し、即時で刑を執行してしまった。私のところに報告が来た時は、既にあなたは街を出た後。急ぎ騎士を派遣し、止めようとしたが、追いついた時には……。本当に申し訳ないことをした。既にあなたは河に落とされた後だった……」
深いため息をついた国王陛下は苦しそうに話を続ける。
「すぐに下流へ捜索隊を送ったが……。見つけることはできなかった。ミラー伯爵には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。何度も謝罪したいと思ったが、そうすれば王太子の行為を否定することになる。しかも新たな婚約者は平民。ここでそんな婚約は認めないと言えば、国民は平民出身だから婚約を認めないのかと大騒ぎになってしまう。仕方なく、まずは静観することにした。するとナタリー伯爵令嬢、あなたの兄弟はあなたがそんな目にあうのは妥当だと両親を説得してしまった。だからミラー伯爵は、逆に我々に謝罪の書状を何度も送ってきたのだよ」
それは仕方ないことだった。『愛され姫は誰のもの?』という乙女ゲームの設定がそうなっていたのだから。
「国王陛下、それも全て済んだことですから。男爵令嬢の証言もあり、リリィ様をいじめていたという件も、でっち上げであると分かってもらえました。その噂はじわじわ王都にも広がっているとのことですし……」
「スチュの廃太子にあわせ、君が無事でいたこと、さらに濡れ衣を着せられていた件も、私の名で公表する。勿論、国外追放も取り消す。その点は安心してくれて構わない」
力強い国王陛下の言葉に、私は安堵する。国王陛下の名の元、私が濡れ衣を着せられていたと分かれば、何よりも生きていると分かれば、両親も安心し、元気を取り戻してくれるだろう。それに兄と弟も……。きっと納得してくれると思いたい。
「ありがとうございます、国王陛下。何より私を気にかけていただけたことに、感謝します。ただ、僭越ながら、私よりも、身内のことに目を向けていただいた方がいいかと……」
かなり遠慮がちにそう言うと、私はアンディの方をチラッと見る。私の意図は国王陛下にすぐ伝わったようだ。
「ナタリー嬢、ありがとう。……アンディ。お前とはこの後、メアリと三人でじっくり話したい。いいだろうか?」
「……分かりました」
アンディが返事をする。
こうして、国王陛下夫妻とアンディを残し、退席することになった。
























































