47:彼の英断
「オルドリッチ辺境伯、ノースコートでの出来事は、陛下もよく分かったと思います。この王都へ戻る道中では、問題はなかったのですか?」
宰相マクラーレンは、事務的に言葉を紡いだが、間違いない。旅籠でスチュ王太子が私に対して行った狼藉について、話す機会を与えてくれた……!
オルドリッチ辺境伯もそれに気づき、あの一件をこれまた淡々と報告する。彼が話し終えると、宰相マクラーレンは、国王陛下に尋ねた。
「陛下、オルドリッチ辺境伯の報告は以上ですが、お話しされますか、それとも次の者の報告をお聞きになりますか?」
宰相マクラーレンに問われた国王陛下は「報告を続けさせよ」と短く答える。改めてその声を聞くと、やはりアンディの声と少し似ていた。……アンディと国王陛下は血がつながっている。そう実感せざるを得ない。
そうしている間にも、アンディが森で起きたことを報告した。時々、感情が昂るのか、声が震える瞬間もあった。それでもアンディは、オルドリッチ辺境伯同様、私情は挟まず、事実の報告に努めている。
私もそれを踏まえ、スチュ王太子に何をされたのか、国王陛下に報告することにした。でもそれは簡単なようで難しく、途中で何度か言葉を詰まらせたり、言葉を選び直したりすることにもなった。それでもなんとか報告することができた。
こうしてオルドリッチ辺境伯、アンディ、私の報告を聞き終えた国王陛下は、ついに自身の見解を口にした。
「長かった。でもついにこの日を迎えることができたと思う。アンディ、よく生き延びた。そしてオルドリッチ辺境伯。息子であるディーン共々、アンディを支えてくれたのであろう。感謝する。ナタリー嬢、あなたには辛い思いをさせてしまった。その身が無事であったこと。奇跡と思う。ここに必要な人材は揃った」
椅子の背もたれから背中を離し、国王陛下が背筋を伸ばした。
「第三十二代マルセル国王として、正式な王命を下す。宰相であるマクラーレン、聞き漏らさず、迅速に動くことを命じる」
そう言った国王陛下の碧眼の瞳には、鋭い光が宿っていた。
「王太子であるスチュ・ジョージ・フォークナーは、傷害未遂事件及び放火を先導し、元婚約者への暴行を行った罪により、廃太子とする。代わりに第二王子であるノーラン・ヘンリー・フォークナーを新たに王太子に指名する」
いきなりのスチュ王太子の廃太子発言に、さすがのオルドリッチ辺境伯も目を丸くする。アンディも驚きを隠せない。
「神官長のカルロ・キージは数々の偽りの神託を国政の場で進言し、多くの混乱をもたらした。詳しい罪状は別紙を参照することとし、多くの罪を償う必要があることから、彼を罷免し、聖女ルビー・アルティエリを新たな神官長に任命する」
国王陛下は胸元から取り出した羊皮紙を、宰相マクラーレンに渡す。マクラーレンが受け取ると、再び国王陛下が話し出す。
「王宮付き魔術師であるファーガソン・モーランドは、国王である私の許可なくアミュレット(御守)を王太子に渡したのみならず、隣国に機密情報を流すなど多くの罪で国政に混乱をもたらした。その詳細は別紙を参照とすることとし、彼を罷免し、後任としてアンディ・ウィリアム・フォークナーを任命する」
これにはアンディが「え」と声をあげているが、国王陛下はまたも胸元から羊皮紙を取り出し、宰相マクラーレンに渡すと、話し続ける。
「なお、カルロ神官長と魔術師ファーガソンは、共にモルデル島にある幽閉施設に収監すること。これは決定事項であり、すべて本日より三日以内に執行されるものとする。逃亡や抵抗があった場合は、極刑を下すことを明言しておく」
すべて言い終えた国王陛下は、穏やかな笑みを浮かべ、アンディを見た。今、気づいたが、妃殿下の顔にも笑みが浮かんでいる。
「堅苦しい話はここまでだ。多くの疑問があるだろう。それについてはこれからお茶でも飲みながら話そうではないか」
◇
まさか国王陛下とお茶を飲むなんて……。
謁見の間から移動し、通された部屋は、普段、国王陛下夫妻が食事をされるダイニングルーム。いつもはお二人で利用されているので、椅子は二脚しかなかったが、すぐに追加の椅子が用意され、テーブルの上にはティーセットと焼き菓子が並べられた。
そこに着席した国王陛下は、王冠をとり、羽織っていた王家の紋章が刺繍されていたマントもはずしている。気持ち的にかなりラフになっているのだと、伝わってきた。
宰相のマクラーレンを含め、6人が着席すると、それぞれのティーカップに紅茶が注がれていく。それを終えると、国王陛下が人払いをしたのだろう。メイドも侍従長も部屋を出て行った。
すると国王陛下は「まあ、気楽に行こうではないか。まずはお茶を飲もう」と言い、自ら紅茶を一口飲んだ。
私もティーカップを口元に運び、アールグレイの心地良い香りを存分に鼻で味わい、紅茶を口に含む。
上質だ。
濃い目のストレートティーだが苦みは一切なく、芳醇な香りが口の中いっぱいに広がる……。
紅茶を一口飲んだだけでも、ここが王宮だと実感できてしまう。
「さて。皆、驚いたことと思う。だが私にとってはどれだけこの日を迎えることを楽しみにしていたか。ようやくだった」
ティーカップをソーサーに置き、話し出した国王陛下に皆が注目した。
























































