46:その意図と真意は?
「ナタリー、顔色が悪い。大丈夫か?」
「……アンディ……」
「嫌なことを思い出したのか?」
「平気。もう過去のことだから」
するとアンディは「手をつなごう」と言い出した。
「え、手をつなぐ!?」
「そう。エスコートではなく。安心できると思う」
「で、でも、ここは宮殿よ。エスコートで大丈夫。アンディがそばにいてくれれば、落ち着けると思うから」
「アンディ、ナタリー、何をしている?」
既に階段を上り切ったオルドリッチ辺境伯に声をかけられ、ここはアンディに手をひかれ、少し駆け足で進むことになる。でも階段の前につくと、普通にエスコートされ、上って行くことになった。
王宮は宮殿の中央から回廊で結ばれた場所にある。その回廊を進む間、ずっとアンディがエスコートしてくれた。おかげで断罪に関する記憶がよみがえることは、なくなった。
というのもアンディが頻繁に私の様子を気にして、顔を見てくれるのだ。あの美貌の顔、かつ軍服姿で。そうなるともう、その度にドキドキして、記憶を思い出している場合ではなくなる。
こうして王宮に到着し、国王陛下と謁見となった。
「ちょっと貫禄があるおじさんだ。私と年齢だってたいして変わらない。緊張する必要はない。いざとなれば二人のことは私が守るから」
オルドリッチ辺境伯は、実に頼もしい。その言葉に励まされ、控え室からいよいよ国王陛下がいる謁見の間へと向かった。
スチュ王太子の婚約者として、国王陛下とは何度が会ったことがある。でも本当に、会ったことがある、レベルだった。挨拶をしたり、会釈したりが基本。長々と会話することなんてない。
よってその姿はよく分かっても、性格や人となりは未だ、よく理解できていなかった。
「では、お一人ずつ、お名前をお呼びしますので、中へお入りください」
謁見の間の入口で騎士からそう言われ、順番に中へと入る。そう言えばアンディのファミリーネームは、まだ教えてもらっていないと気づく。もし「フォークナー」と呼ばれていれば、それは王族であると認めることにもなる。既にオルドリッチ辺境伯は名前を呼ばれ、謁見の間へと入っていた。
「アンディ・ウィリアム・フォークナー」
……!
アンディがチラッと私を見て、謁見の間へと入って行く。
心臓がドキドキしていた。「フォークナー」で呼ばれたということは、アンディを王族の一人と認めたも同然。そしてこの謁見は、オルドリッチ辺境伯もいるため、非公式な扱いではない。つまり……記録として残ることになる。
国王陛下は何を考え、アンディをフルネームで呼ばせたのかしら? その意図は……?
「ナタリー・ミラー伯爵令嬢」
またも驚くことになる。
国外追放された私は、存在がこの国でなかったことにされているはず。それがミラー家の名は勿論、伯爵令嬢として呼ばれたのだから。思わずそのことで動きが止まりそうになる。
しっかりしないと。既にオルドリッチ辺境伯とアンディは謁見の間の中にいるのだから。
深呼吸を一つして、中へ入る。
中に入り、さらに驚く。
そこには国王陛下だけではなく、妃殿下もいらっしゃる。しかも宰相であるマクラーレン公爵の姿も見えた。これは……どういうことなのかしら?
オルドリッチ辺境伯とアンディの方を見るが、その顔は真剣そのもので、何を考えているか読み取ることはできない。
一方の国王陛下は……。
アイスブルーの髪は本当にアンディそっくり。でもその髪には白い毛が多く交じっている。髪色と同じ、意志の強さを感じさせる眉、貫禄を感じさせる鼻の下の髭。年齢の割にお腹が出ることもなく、中肉中背をキープしている。隣に座る妃殿下は、シルバーブロンドの豊かな髪を結い上げ、深みのある紫色のローブ・モンタントのドレスを美しく着こなしていた。こちらも年齢よりも、若く見えている。
「ではまず、オルドリッチ辺境伯。書簡で伝えていただいた件、それについて今一度陛下に、ご説明いただけますか」
この場の仕切りは宰相マクラーレンがするようだ。オルドリッチ辺境伯は、問われるままに話し出した。
オルドリッチ辺境伯の説明は……素晴らしいものだった。一切の私情を挟まず、淡々と起きたことを報告していく。例えばディーンがスチュ王太子に斬りつけられたところも、本来なら文句の一つを付け加えてもいいだろうが、そんなことはしない。
スチュ王太子が斬りつけた、その結果、着ていたジャケットは切れたが、中に鎖帷子を着ていたので、傷つくことはなかった――そう報告しただけだ。でもどう考えても前後の状況から、ディーンは悪いとは思えず、横暴な振る舞いをしたのは、スチュ王太子と分かる。
そうか。
オルドリッチ辺境伯は、自身に非はないと確固たる自信がある。だから感情を交えず、あるがままの事実を報告しても、罰すべきは誰であるか分かると思っているのだ……!
こうしてノースコートで、スチュ王太子が起こした出来事の報告は終わった。
























































