44:男同士の絆
ついに王都へ戻って来た。
早朝に王都入りをしたから、街の人の姿はほとんど見えない。それでもこんな時間に王旗と辺境伯旗を持つ騎士が先頭を進み、騎乗した騎士達とオルドリッチ辺境伯が馬を進めているのだ。うっかりこの場に居合わせた街の人は、何事という顔をしている。
王都に到着後、宮殿に用意された客間に滞在することを、国王陛下はオルドリッチ辺境伯に打診していた。だが、彼はそれをキッパリ断っている。王都には彼の親戚にあたる貴族が何人もいた。そして今回、彼と彼の騎士、そしてアンディと私は、オルドリッチ辺境伯のいとこにあたるマクラーレン公爵の屋敷で、お世話になることになった。
マクラーレン公爵は、宰相を務めており、国政を推進する立場。一見すると国王の腹心に思える。だがオルドリッチ辺境伯とは長い付き合いであり、いとこという枠を超えた絆があるそうだ。だからこそ今回、王都に滞在するオルドリッチ辺境伯を受け入れた。
ということで早朝にも関わらず、ビシッとスーツで決めたマクラーレン公爵に挨拶することになった。
「初めまして、アンディ殿。君のことはリッチーから聞いたよ。まさか王太子に双子の兄がいたとは。私が宰相に就任したのは3年前。君のことは知らなかった。だがここまで立派によく成長したね。僕は君の味方だ。安心して、滞在してくれ」
栗色の髪に少し白髪は交じるが、マクラーレン公爵はエネルギッシュで若々しく感じる。アンディと握手を終えたその彼が、濃褐色の瞳を私に向けた。
「ナタリー嬢……。よくぞご無事でお戻りになりました。あなたに起きたことは……本当に。王都では暫くの間、あなたの話で持ち切りでした。多くの者があなたに同情していましたよ。いくらなんでもやり過ぎであると」
そこでマクラーレン公爵は、しみじみとため息を漏らす。
「ただ……驚いたのはあなたの兄弟が、そうされても仕方ないと言っていたことです。ミラー伯爵家の長男、次男、共に優秀という噂でしたが、その評価は今となっては地に落ちています。ご両親は床に伏せ、散々らしいですよ。……男爵令嬢が、ナタリー嬢、あなたの無実を証言したことは、じわじわとこの王都に広まっています。何より既にリリィ様は、修道院へ送られましたからね。何が起きているのかと、今はそちらが話題になっていますが……」
さらに大きくため息をつくと、マクラーレン公爵は再び口を開く。
「しかし、今回のスチュ王太子の行動は、常軌を逸している。これを国王陛下が庇うようであれば……この国は衰退するとしか思えないな」
国王陛下は今、何を思っているのかしら?
マクラーレン公爵の屋敷は宮殿に近いが、それでもある程度の距離はある。スチュ王太子を乗せた馬車と彼の騎士は、私達より先に宮殿に入り、国王陛下と話を既に始めているはずだった。
「それで王宮の動きはどうなんだ? 魔術師と神官長は? アンディが今回、国王陛下と謁見することも知っているのだろう?」
オルドリッチ辺境伯が尋ねると、マクラーレン公爵は「そう急ぐな。まずは座ってくれ」とソファを勧めてくれた。私達は三人掛けのソファに座り、マクラーレン公爵は対面に一人、腰をおろした。
「今回、アンディが王都に戻ると知った魔術師は、病欠をとった。持病の腰痛が再発し、身動きがとれないと。……まあ、これは仮病だろう。アンディの魔力が分かっている魔術師は、彼を恐れた。直接顔を合わすつもりはないのだろう」
そこでメイドが紅茶をのせたトレンチを手に部屋へ入ってきた。彼女が全員分の紅茶を出し終えると、マクラーレン公爵は話を再開させた。
「神官長は日和見主義だからな。アンディが優勢となれば、いつでもすり寄れるよう、王宮で待機している。口八丁手八丁で、アンディを廃太子にし、スチュを王太子に据えると支持したことなど、なかったものにするつもりだろう」
「どちらもズル賢い狐と腹黒たぬきだ。なぜ国政の場から排除しない?」
オルドリッチ辺境伯に尋ねられ、マクラーレン公爵は両手を挙げる。
「無茶を言うな。お前は外野から言いたい放題だ」
「本当のことを言ったまでだが」
二人の歯に衣着せぬやりとりからも、どれだけお互いを信頼しあっているかが伝わってくる。
「魔術師の後任となる、強い魔法の使い手がなかなか現れないんだよ。神官長はあの腹黒さだ。可能な限り、今の地位にしがみつくだろうが……。だがな、あの神官長も寄る年波には逆らえない。最近どうも、ボケてきたらしいからな。そうなると失言や暴言、失策も増える。ここ数年で自滅するさ」
つまり、強い魔法の使い手がいれば、魔術師は交代となる。神官長については何をするまでもない。近いうちに自滅すると。
「なるほど。それで今日の謁見にナタリー嬢を同席させる件だが、許可は出たのか?」
「ああ。あっさり許されたよ。こちらが拍子抜けするぐらい」
これにはオルドリッチ辺境伯、アンディ、そして私が驚くことになる。
























































