42:むしろ、好き、かな
「あっ……」
アンディの家から見える星も美しいのだが。
ここから見える星もとても綺麗。
「ナタリー、気を付けて。手を掴んで、そう。こっちへ」
言われるまま屋根に出た。
一階の窓から漏れる明かりで地面が見えるが、高さを感じ、一瞬腰の辺りがゾクリとしてしまう。
「さあ、ここに腰かけて」
まるで天窓から出て屋根で休憩できるようにしたのかのように、瓦が平坦になっているところがあった。そこにゆっくり腰をおろす。
すると。
「はい」
アンディがマグカップに入ったコーヒー牛乳とチョコチップクッキーをくれた。
「ありがとう、アンディ。……でもどうしたの、これ?」
「クッキーはここの一階の売店で販売していたのを、到着してすぐに買っておいたんだ。夜食にでもしようかと思って。コーヒー牛乳は入浴を終えた時、宿のおかみさんに頼んだら、気持ち良く用意してくれた」
アンディの手際の良さに感動しながら、コーヒー牛乳を口へ運ぶ。
「ミルクが濃厚! それによく冷えているわ」
「ここの宿の親族が牧場をやっているから、毎日新鮮なミルクが手に入るって言っていたよ。それを氷室で冷やしているから、冷えたコーヒー牛乳が楽しめる」
「すごいわ。本当に美味しい」
しばらくはコーヒー牛乳とクッキーを楽しみ、星空を眺めていた。結構な頻度で流れ星も見えるので、見飽きることはない。
屋根の上なのに、ちゃんと座りやすくなっているし、甘いクッキーも食べ、とてもリラックスできている。だから自然とアンディに尋ねていた。
「アンディはこの前、自身の両親のことを……父親をどう思っているか話してくれたでしょう。……スチュ王太子様のことは……どう思っているの?」
「スチュに関しては……難しいね。俺にとって双子であり、弟だ。しかも一度は王宮から追い出された身の上。それを大人たちの都合で呼び戻され、王太子になった。その過程で知らなくていい感情を覚えることになった。だから同情も感じる。でも……ナタリーにしたこと、ナタリーに対する態度、これは絶対に許せない。それに森に火を放ったことも……」
ここでもまたアンディの優しさを感じてしまう。
スチュ王太子に対して「大嫌いだ」と即答することなく、彼が置かれている状況について配慮できるところも。これがアンディの優しさなのだろう。
「どうしてなのかしらね」
思わず口について出た言葉に、アンディが不思議そうな顔になる。
「だって。アンディはこんなにも優しいのよ。悪政を敷いて、国民が苦しんで、隣国を敵に回し、マルセル国が滅びの道を歩むような王になんか、アンディはならないと思うの。それなのに国王陛下は、魔術師と神官長の言葉を信じ、スチュを王太子にして、アンディを森へ捨てるなんて……間違っていると思うわ」
「ナタリー……」
なんだか切なそうな声に驚いて、アンディを見ると、ラピスラズリを思わせる瞳が潤んでいる。
「俺は……森に捨てられ、もうこの世から見放されたと思った。でもディーンに出会い、オルドリッチ辺境伯にも会うことができて……。そしてナタリーとも再会できた。そして俺のことを理解して、そうやって励ましてくれて……。別に王様になんてならなくていい。俺を信じてくれる人がそばにいてくれれば。それでいい。ありがとう、ナタリー、俺のことを理解してくれて」
この言葉にもう胸がジーンとしてしまう。それに御礼を言うなら、私の方だ。
「アンディ、ディーンやオルドリッチ辺境伯、そして私も。あなたのそばにいて、その行動、言葉を見て、聞いて、信頼するようになったの。間違いないわ。アンディと共に過ごせばみんな、アンディの優しさに気付いて、ファンになると思う。ろくにアンディのことを知らずに、一方的なことを言った奴らのことなんて、気にしなくていいわ」
そこで星空を見上げ、堪えそうな涙を押しとどめる。
「それにね、世界から見放されたのは私の方。それを助けてくれたのはアンディ。あの時、アンディが助けてくれなければ、今の私はないのだから。私こそ、伝えたいわ。アンディ、ありがとう」
「ナタリー」
不意にアンディに腕を掴まれ、驚いてしまう。
そのまま視線をアンディに向けると……。
すごく真摯な顔をしている。
美貌のイケメンからこんな風に直視されるのは……。
いろいろと落ち着かない!
た、耐えられない!
「そ、それに、アンディ。例の運命の女性だけど。もしかしたら王都に行けば会えるのでは? 詳しいことは知らないけれど、幼い頃に離れ離れになったということは、王都で会った女性なのでしょう? 王都にいるんじゃない? なんなら探すのを手伝うわ」
つい数秒前まで、とても真摯なイケメン顔をしていたのに。今のアンディはキョトンとして固まっている。
えっと、これは……余計なことを言ったのかしら?
運命の相手なのだ。探すなら自分でするよ……みたいな?
「ナタリー」
「は、はいっ」
「今の言葉、本気?」
「え、え? え、あ、うん。その、もし探すなら勿論手伝うわ」
私の返事にアンディが絶句している。
やはり自力で探すつもりだから、余計な一言だったかしら……?
「本当に、ナタリーは鈍感だよね。でもそこがナタリーらしいのかもしれない。……俺はナタリーのそういうところ、正直、嫌いじゃない。むしろ、好き、かな」
ドキッと心臓が反応したのは。
突然、犬の唸るような鳴き声が聞こえたからだ。
何かいるのかと緊張が走り、アンディは私の手をぎゅっと握っている。
「……なんだ。スチュか」
「え……」
「向かいの建物。あそこも旅籠だ。そこの窓からスチュがこっちを見ている」
言われてみると、人影が見える。
スチュ王太子のいる部屋の中が明るいため、ここから見ると黒い影にしか見えないけれど。
「戻ろうか、ナタリー」
「そうしましょう」
部屋に戻り、この日は眠ることにした。
























































