40:片時もはなれない
もしそれが正解なら、私は断固として反対する。
アンディが王都へ行くことに。
心臓がバクバクし、思わず立ち上がっていた私に、ディーンが優しく話しかける。
「ナタリー嬢。落ち着いてください。君はまだアンディのすごさが分かっていないようです。説明しますから、まずは座ってください」
ディーンの横でアンディは困ったような顔で頭をかいている。とりあえず私はドキドキする心臓を抱えたまま、腰をおろした。
「この前の火事。突然森を燃やされ、アンディは驚いてしまった。咄嗟の行動が出遅れたものの、それでも鎮火させることができました。湖の水を魔法で降らせて。これって冷静に考えると、すごいことだと思いませんか?」
それは……確かにそうだと思う。森の火事は、焼け跡を見るだけでも広範囲に渡っていた。それに前世での記憶では、山火事を鎮火しきれず飛び火し、数カ月に渡り山火事が続いたというニュースを見たことがあった。それを考えると、アンディが今回、出遅れたとはいえ、きちんと鎮火させたことは……すごいことだと思う。だからディーンに頷いて見せると。
「アンディは普通ではできないことも、自身の魔法で成し遂げることができます。……端的に言えば、アンディの魔力と魔法があれば、王都を数分で滅ぼすことだってできるのです。例えば森の火災で降らせた湖の水。これを倍にして王都へ流し込めば、それはもう洪水にあったような状態になります。王都に火の雨を降らすこともできる。だから王都へアンディが行ったところで、害そうとしてもそれはかなわない――というわけです」
アンディがどれだけ強いかは、今のディーンの説明でよーく分かった。でもまだ分からないことがある。
「アンディの魔法がどれだけすごいかは理解できました。でも国王陛下はアンディを森に捨てたわけですよね? 生きていたいなら、王都へ戻って来るなと言ったと聞きました。今回王都へ戻って来いと言っていますが、アンディが森へ捨てたことを怒っているとは考えていないのでしょうか? アンディから復讐される可能性だってあるわけですよね。勿論、アンディはそんなことしないと思いますが」
そこでコーヒーを一口飲み、もう一つ付け加える。
「私は今回、アミュレット(御守)の存在を知りました。それは魔法を無効にするもの。それがあるからアンディを王都へ呼びつけた可能性はどうなのですか?」
「ナタリー」
アンディが口を開き、ディーンを見る。ディーンはアンディにどうぞと示す。アンディは改めて私を見る。
「アミュレット(御守)の件は俺から話すよ。アミュレットは魔法が使える人間が、自身の魔力を込めて作るものだ。スチュが持っていたアミュレットは、王宮にいる魔術師に作らせたものだと思う。現状、マルセル国で最も強い魔法を使える人間は、王宮にいる魔術師ということになっている。でも俺はそのアミュレットを破壊することに成功した。つまり、俺の魔法を無効にするアミュレットを作れる魔法を使える人間は、いない、ということ。だからアミュレットがあるから、俺は怖くない、だから王都に呼びつけた――この線はないと思う」
この説明を聞く限り。マルセル国の最強魔法使いは、王宮にいる魔術師ではなく、アンディなのではと思ってしまう。いや、そうだと思った。
「アンディに恨まれていると国王陛下が思っている件ですが」
ディーンがコーヒーを口に運びながら私を見る。
「例えば、国王陛下がアンディに手を下そうとした。それを回避するため、国王陛下を害することがあれば、まだ情状を酌量する余地はあると思います。でもアンディから問答無用で国王陛下に手を下せば、それはまごうことのない反逆行為。だからそんなことはしないと国王陛下も思っている……のかもしれないですね」
「つまりアンディが王都へ、王宮に行っても害されることはないと。それでいて国王陛下が何を考えアンディを呼びつけたかは……分からないということですね」
ディーンは深く頷き、腕を組む。
「いろいろ騒動はありました。でも一度は王都から追放したアンディを、なぜ今さら呼び出すのか……それは私もそう思います。しかも魔法でアンディに敵うものは、王都にいないのにね。だからこうなるともう、王都に行ってみるしかないかなと」
ディーンの今のこの考え、アンディはどう思っているのかしら? そう思い、アンディを見ると。
「ナタリーが一緒に王都へ行くと言ってくれるまで、俺としては絶対に王都には行きたくない、だった。でもナタリーが一緒なら……。例え王都でどんな待遇を受けようと、ナタリーがいれば頑張れる、そう思った。それに話を聞かないと、国王が何を考えているのか分からないからな」
アンディが王都へ行く決意を私がさせてしまった気がする。本当にこれでいいのかしら? というか……。
「ねえ、ディーン様、アンディ。アンディの魔法が強いことはよく分かりました。でも、もし王都に私がついていって、私が人質にとられ、アンディがひどい目に遭うなんてことは……ないのでしょうか?」
私の質問にディーンは、アンディを見る。するとアンディは即答した。
「ナタリーを人質に取られるような事態には絶対にしない。片時もナタリーのそばを離れないから」
それは安心なような、困ったような。
でも片時も離れない……これはさすがに言い過ぎに思える。でもツッコむ必要はないだろう。言葉のあやだと思うから。
「アンディがそう言うなら安心だわ。……結局、国王陛下が何を考えているか分からない。そして国王陛下の命令に背くことは難しい。そうなると……王都に行くしかない。それにアンディは私と一緒なら王都に行く気になった。そうなったらもう……王都に行くのみね」
ディーンとアンディが同時に頷いた。
























































